●平成22(行コ)10002 特許料納付書却下処分取消請求控訴事件

 本日は、『平成22(行コ)10002 特許料納付書却下処分取消請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成22年09月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100924134238.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許料納付書却下処分取消請求控訴事件で、その控訴が棄却された事案です。


 本件では、特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官  井上泰人)は、


『2 特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の有無

(1) 特許法の規定

 特許料は,第4年以後の各年分については,前年以前に納付しなければならず(特許法108条2項本文),この納付期間内に納付することができないときは,その期間が経過した後であっても,その期間の経過後6月以内にこれを追納することができるが,その場合は,その特許料及びこれと同額の割増特許料を納付しなければならない(同法112条1項,2項)。そして,この6か月の追納期間内に,納付すべきであった特許料及び割増特許料を納付しないときは,その特許権は,本来の納付期間の経過の時にさかのぼって消滅したものとみなされる(同条4項)。


 他方,上記112条4項の規定により消滅したものとみなされた特許権の原特許権者は,その責めに帰することができない理由により同条1項の規定により特許料を追納することができる期間内に同条4項に規定する特許料及び割増特許料を納付することができなかったときは,その理由がなくなった日から14日(在外者にあっては,2月)以内でその期間の経過後6月以内に限り,その特許料及び割増特許料を追納することができる(同法112条の2第1項)。


(2) 特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」

特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」とは,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合をいうものと解するのが相当である。


 けだし,特許法112条の2は,追納期間が経過した後の特許料納付により特許権の回復を認めることとした規定であり,同条1項の定める要件は,?拒絶査定不服審判(特許法121条2項)や再審の請求期間(同法173条2項)を徒過した場合の救済条件や他の法律との整合性を考慮するとともに,?そもそも特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきものであり,?失効した特許権の回復を無制限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることとなることを踏まえて立法されたものであるからである(特許庁編「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第18版〕」333頁参照)。


 なお,原判決は,天災地変,あるいはこれに準ずる社会的に重大な事象の発生により,通常の注意力を有する当事者が「万全の注意」を払っても,なお追納期間内に特許料を納付することができなかったような場合を意味すると判示するが,特許法112条の2の規定の文言の通常有する意味に照らし,そのような場合に限らず,通常の注意力を有する当事者が「通常期待される注意」を尽くしても,なお追納期間内に特許料を納付することができなかったような場合を意味するものと解するべきである。


イ 控訴人は,期間内に手続できなかった場合の救済規定の解釈が諸外国よりも厳しい扱いになっていることに問題があるのであって,知的財産のグローバル化に対応して特許権者を広く保護するべきであると主張する。


 しかしながら,パリ条約5条の2第2項の規定に照らしても,特許権の回復についてどのような要件の下でこれを容認するかは各締結国の立法政策に委ねられているものと解されるのであるから,今後の法改正により,我が国においても諸外国と同程度に特許権者を保護する規定を設けることは格別として,現行法の「その責めに帰することができない理由」という規定の下において,これを文言の通常有する意味から乖離した解釈をすることは適切とはいえない。


(3) 受託者の過失

アそして,当事者から委託を受けた者にその責めに帰することができない理由があるといえない場合には,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」には当たらないと解すべきである(最高裁昭和31年(オ)第42号同33年9月30日第三小法廷判決・民集12巻13号2029頁参照)。


 けだし,特許権者は,特許料の納付について,特許権者自身が自ら又は雇用関係にある被用者に命じて行うほか,特許料の納付管理事務を第三者に委託して行うこともできるところ,特許権者は,いずれの形態を採用するか,また第三者に委託する場合にいかなる者を選定するかについて,自己の経営上の判断に基づき自由に選択することができる。そして,特許権者自らの判断に基づき,第三者に委託して特許料の納付を行わせることとした以上,委託を受けた第三者にその責めに帰することができない理由があるといえない状況の下で追納期間を徒過した場合には,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとはいえないからである。

イ控訴人は,法律上特別な定めもないのに,自己の意思で他人に委託したということのみで無条件に本人の責任を認めることは,個人責任の原則を著しく軽視したものであり,代理人の過失を本人の過失と同視すべきでないと主張する。


 しかしながら,特許権者又は雇用関係にある被用者に過失がある場合と,特許権者が委託した外部組織たる第三者に過失がある場合とで,特許権の回復の成否が異なるいわれはなく,いかなる方法で特許料を納付するか自らの判断で選択した以上,委託を受けた第三者に過失がある場合には,特許権者側の事情として,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」には当たらないというほかない。


(4) 本件における「その責めに帰することができない理由」の有無

 前記1認定のとおり,控訴人は,本件特許料等の納付等の手続をCPAに委託し,CPAにおいて担当者の病気休暇等の事情もあって業務が滞った結果,本件特許料等の追納期限を経過したものであり,CPAに従業員欠勤の際の業務停滞防止体制の不備という過失があることは,控訴人の自認するところである。


 そうすると,本件において本件特許料等の納付ができなかったことは,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合に当たるということはできない。


 よって,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,控訴人に,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があったということはできない。

(5) 本件却下処分の違法性

 前記1のとおり,本件特許権については,第13年分の特許料の納付期限は平成19年2月22日であり,その追納期限は同年8月22日であるところ,控訴人は,上記追納期限までに本件特許料等を納付しておらず,控訴人が本件納付書を提出したのは,追納期限が経過した後である平成20年2月22日であったというのである。そうすると,控訴人が本件納付書を提出したのは,本件特許料等の追納期限が経過した後であるから,特許法112条4項により,本件特許権は,平成19年2月22日の経過の時にさかのぼって消滅したものとみなされる。したがって,控訴人の本件納付書の提出による本件特許料等の納付が,特許法112条の2第1項の要件を充たす追納と認められない限り,控訴人が本件納付書の提出による特許料の納付によって本件特許権を回復することはできないこととなる。


 特許庁長官は,控訴人に特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとは認められないことを理由として,本件納付書を却下する旨の本件却下処分をしたものであるところ,同項所定の「その責めに帰することができない理由」があったとはいえないことは,上記(4)のとおりであるから,本件却下処分を取り消すべき違法はない。


3 結論

 以上の次第であるから,控訴人の本訴請求に理由がないとした原判決は,結論において正当であって,本件控訴は棄却されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。