●平成21(行ケ)10252 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10252 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「押し棒を有する電気スイッチ」平成22年07月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100730090352.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(実施可能要件及びサポート要件に関する判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 真辺朋子、裁判官 田邉実)は、


『2 取消事由1(実施可能要件及びサポート要件に関する判断の誤り)について

 審決は,作動部と接点保持部を分離したときに作用し接点具が電気回路を開き電気回路を遮断できるような「バネ」につき,本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとはいえず,かつ,上記「バネ」は発明の詳細な説明に記載されているとし,一方,原告はこれを争うので,以下,これにつき判断する。


 ・・・省略・・・


(3) 実施可能要件についての判断

 上記のとおり,第1の実施例及び第2の実施例はスイッチ13及びスイッチ14を直列に接続したものであって,ホルダー12をケース4から分離した場合にスイッチ14の押し棒20をバネの作用により元の状態に戻すことにより電気回路を開くものであることは,当業者であれば容易に理解できる。


 また,第3の実施例及び第4の実施例は,第1の実施例と同様の作動部を有することが認められ,当該作動部をケース23から分離した場合に,バネ29又はバネ38の作用により電気回路を開くものであることは,当業者であれば容易に理解できるものである。


 このように,第1の実施例〜第4の実施例に係る記載により,本件発明の「バネの作用」について理解し再現することは可能といえるから,本件明細書の発明の詳細な説明は,「バネの作用」について当業者が本件発明の実施をすることができる程度に記載されているということができる。


(4) サポート要件についての判断

 上記のとおり,第1の実施例〜第4の実施例は本件発明の実施例に相当するといえるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件e−1〜e−3,特にバネの作用に係る構成要件e−3を実現する実施例が記載されているといえる。そして,当該記載により,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できると認められるから,特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載したものであるということができる。


(5) 原告の主張に対する補足的判断

 原告は,構成要件e−1及びe−2はバネの作用を要件としていないから,本件発明には,バネの関与なしに構成要件e−1及びe−2を実現し,バネの作用により構成要件e−3を実現するものも包含されるところ,発明の詳細な説明にはその具体的構成の開示がなく,実施可能要件及びサポート要件違反である旨主張する。


 しかし,構成要件e−1及びe−2は電気スイッチの一般的な機能を規定するもので,本件発明の技術的特徴ではないと考えられるところ,特許法はそうした部分についてまで,実施可能要件及びサポート要件として網羅的に実施例を開示することを要求しているとは解されない,すなわち,構成要件e−1及びe−2の機能におけるバネの関与の有無は発明を特定するための事項ではないところ,かかる発明を特定するための事項ではない技術的事項に着目し,実施可能要件及びサポート要件を問うことは適切ではないと解される。


 加えて,電気スイッチに関し,構成要件e−1及びe−2の機能にバネが関与するか否かに着目して分類することが一般的であるとは認められず,原告独自の分類であると解されることに照らすと,バネの関与なしに構成要件e−1及びe−2を実現し,バネの作用により構成要件e−3を実現する構成が発明の詳細な説明に具体的に記載されていないとしても,実施可能要件及びサポート要件違反であるということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。