●平成21(行ウ)590 手続却下処分取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ウ)590 手続却下処分取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年07月16日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100726162126.pdf)について取り上げます。


 本件は、外国語特許出願について国内書面提出期間の満了後に提出した法184条の5第1項に規定する国内書面および法184条の4第1項に規定する明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文の手続きの却下処分の取消を請求した事件で、その請求が棄却された事案です。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 坂本三郎、裁判官 岩崎慎)は、

『1 本件却下処分の適法性について

(1) 本件却下処分は,本件翻訳文が国内書面提出期間経過後に提出されたことから,本件国際特許出願が取り下げられたものとみなされることを理由とするものであるところ,本件国内書面及び本件翻訳文が国内書面提出期間経過後に提出されたものであることは,当事者間に争いがない(前記争いのない事実等(2)イ参照。なお,本件国内書面が提出されたのは,国内書面提出期間経過後であるから,本件において,本件国内書面の提出により,法184条の4第1項ただし書の翻訳文提出特例期間が問題となることはない。)。


(2) 法184条の4第1項は,外国語特許出願の出願人は,国内書面提出期間内に,明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文を,特許庁長官に提出しなければならないと規定し,同項ただし書において,国内書面提出期間の満了前2月から満了の日までの間に,法184条の5第1項に規定する国内書面を提出した外国語特許出願については,翻訳文提出特例期間以内に,当該翻訳文を提出することができると規定している。そして,法184条の4第3項は,国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に,明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文(明細書等の翻訳文)の提出がないときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなすと規定している。


 法184条の5第2項は,同条1項の規定する国内書面(1号)のほかにも,法184条の4第1項の規定により提出すべき翻訳文のうち,要約の翻訳文(4号)については,国内書面提出期間の徒過を補正命令の対象としているが,明細書等の翻訳文を含むその他の翻訳文については,補正命令の対象としていない。


 このような法184条の5と法184条の4の規定を併せて読めば,外国語特許出願につき明細書等の翻訳文が国内書面提出期間内に提出されない場合には,その国際特許出願は,法184条の4第3項により,取り下げられたものとみなされることになり,事件が特許庁に係属しないこととなるから,当該国際特許出願について,法184条の5第2項の規定による補正命令が問題となる余地がないことは,明らかである。


(3) これを本件についてみると,前記のとおり,国内書面提出期間内に,本件国内書面だけでなく,明細書等の翻訳文を含む本件翻訳文が提出されていないから,法184条の4第3項の規定により,本件国際特許出願は,取り下げられたものとみなされることになる。そのため,本件国際特許出願は,事件が特許庁に係属しないこととなり,法184条の5第2項の規定による補正命令だけでなく,手続の補正が問題となる余地はないから,特許庁長官が本件国内書面や本件翻訳文の提出を求めるなどの手続の補正を認める余地はないというべきである。


 したがって,本件国内書面の提出は,取り下げられたものとみなされる本件国際特許出願についてされた不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,法18条の2第1項の規定により,その手続を却下すべきものである。


 よって,原告に補正の機会を与えずに特許庁長官がした本件却下処分は,適法である。


2 原告の主張について

(1) 法184条の5第2項及び法184条の4第3項の解釈について

 原告は,法184条の5第2項が特許庁長官に補正を義務付けるものであるとの解釈を前提に,法184条の5第2項と法184条の4第3項との間に対立・矛盾があり,特許庁長官は,法184条の5第2項を優先して適用し,補正を命ずべきであったと主張する。


 しかしながら,法184条の5第2項は,「手続の補正をすべきことを命ずることができる。」と規定しており,その文言に照らして,手続の補正をすべきことを命ずることを特許庁長官に義務付けたものでないことは明らかである


 そして,前記1で述べたとおり,法184条の5第2項は,国内書面(1号)や要約の翻訳文(4号)の提出期間徒過については補正命令の対象としているのに対して,明細書等の翻訳文の提出期間徒過については補正命令の対象としておらず,法は,明細書等の翻訳文が国内書面提出期間内に提出されない場合には,法184条の4第3項により,当該国際特許出願が取り下げられたものとみなされ,補正の余地がないことを前提に,法184条の5第2項の補正命令の対象となる範囲を定めているものと解される。

 したがって,法184条の5第2項1号は,法184条の4第1項に規定する翻訳文のうち,明細書等の翻訳文が同項に規定する提出期間内に提出されていない場合には,適用されないと解するのが相当であって,法184条の5第2項と法184条の4第3項との間に対立・矛盾はないと解され,本件において,法184条の5第2項を適用する余地はないから,原告の前記主張は,採用することができない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。