●平成21(行ケ)10208 審決取消請求事件 意匠権「ゴルフボール」

 本日は、『平成21(行ケ)10208 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「ゴルフボール」平成22年06月30日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100702132757.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠登録無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、意匠法3条1項2号の刊行物をもとにして判断する同項3号にいう意匠の類似・非類似についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 真辺朋子、裁判官 田邉 実)は、


『ア取消事由1(引用意匠認定の誤り1)について

 原告は,引用例の図2は,引用例中の関連する記載及び技術常識に従えば,従来の通常のゴルフボールが有する384個の円形のディンプルの一部を六角形にデフォルメして表現したもので,引用例の図2を看る者は誰でも384個の通常の円形のディンプルを想起し,六角形のディンプルを想起することはないところ,審決は,引用意匠につき,384個の六角形のディンプルが設けられたゴルフボールを示すものと認定しており,引用意匠の内容の認定を誤ったものである旨等主張する。


 確かに,証拠(甲17の1)によれば,米国アクシュネット社(Acushnet)が製造販売したゴルフボール「Pinnacle 384」は,その球面に384個の円形のディンプルが設けられたものであることが認められるが,上記証拠によっても,上記ゴルフボール「Pinnacle 384」が製造販売された時期は不明であり,引用例の図2で示されたゴルフボールが上記ゴルフボール「Pinnacle 384」と果たして同一の形状であるか疑問の余地がないわけではない。


 また,引用例中の記載(前記(1)ア(ウ))によっても,また我が国の特許庁の意匠登録第490414号(意匠に係る物品「ゴルフボール」,登録日昭和53年9月20日,公報発行日昭和53年12月14日,甲7)及び同第505781号(意匠に係る物品「ゴルフボール」,登録日昭和54年3月27日,公報発行日昭和54年7月3日,甲8)によっても,引用例に係る発明の特許日当時(平成3年2月12日),ゴルフボールの製造販売に当たる当業者(その意匠の属する分野における通常の知識を有する者)において,ゴルフボールに六角形のディンプルを設けることを容易に想到することができたことは明らかであるから,引用例の図2を見た者においては,ゴルフボールの球面に六角形のディンプルを設けられていると考えるのが素直であって,円形のディンプルが六角形に擬して表現されていると考えることが通常であるとは容易に認めることができない。


 そして,引用例中には,図2が円形のディンプルを六角形にデフォルメして表したものである旨の記載は存しない。

 また,意匠法3条1項2号の刊行物をもとにして判断する同項3号にいう意匠の類似・非類似は,条文の文言から明らかなとおり,刊行物に記載された意匠と本願意匠とを対比して決するものであって,刊行物に記載される以前の実際の商品等の形状と比較するものではないから,市販された上記ゴルフボール「Pinnacle 384」のディンプルが円形であるからといって,刊行物に表現された意匠の形状を,刊行物を離れ,実際の商品の形状に引き付けて理解し,図2に係る意匠も円形のディンプルの配列を表現したものと理解しなければならないものではなく,したがって,引用例の図2を従来の通常のゴルフボールが有する384個の円形のディンプルの一部を六角形にデフォルメして表現したものであると解さなければならないものではない。


 そして,後記のとおり,ディンプルの大きさや配列を適宜調整することによって,384個の六角形のディンプルを,辺を共有するようにして密に配列することが不可能ということもできないから,結局,原告の取消事由1の主張は採用することができない。


イ取消事由2(引用意匠認定の誤り2)について

 原告は,仮に引用意匠の内容が六角形のディンプルが設けられたゴルフボールに係るものであったとしても,384個の六角形のディンプルを辺を共有するようにして密に配列することは不可能であるか,ディンプル同士が離れる箇所が多数生じ,最低限の変形や修正では対応できないから,引用意匠が,384個の六角形のディンプルを辺を共有するようにして密に配列したものであるということはできないところ,審決は,引用意匠を,384個の六角形のディンプルを辺を共有するようにして密に配列したものであると認定しており,引用意匠の内容の認定を誤ったものである旨等主張する。

 確かに,実験報告書(甲32)によれば,同一の大きさの正六角形の小片を球面に貼りつけたときに,小片同士の間に小さくない隙間が生じたり,又は逆に小片同士が重なりあったりして,小片の辺を共有するような貼り付け方を見出すことが必ずしも容易ではないことが認められる。


 しかし,引用例の図6では,球面に貼り付ける三角形(球面三角形)の各辺が曲線状になっている状況が示されているから,図7で概ね同一の大きさの六角形が平面状の三角形内に配置されている状況が示されているとしても,上記球面三角形内に六角形のディンプルを設けるに当たっては,単純に同一の大きさの正六角形のディンプルを設けるのではなく,適宜ディンプルの大きさ及び形状を調整して,上記球面三角形に収まるようにする必要があることが明らかである。


 一方,前記(1)のとおり,引用例の図2からは,384個の六角形のディンプルが,隣接するディンプル同士が辺を共有するようにして,ボールの球面全体に密に配設された状況を容易に看取することができるところ,同じく六角形のディンプルが,隣接するディンプル同士が辺を共有するようにして,ボールの球面全体に密に配設された構成を有する本件意匠においても(ディンプルの総数は362個と,上記384個と近接する。),球面三角形の頂点に当たる部分のディンプルを五角形とすることで,上記構成を実現しているものである。


 そうすると,一部のディンプルの大きさや形状を調整することにより,384個の六角形のディンプルを辺を共有するようにして密に配列することが不可能であるとか,密に配列することができずディンプル同士が離れる箇所が多数生じ最低限の変形や修正では対応できない等とは,必ずしもいうことができない。


 そして,前記(2)アのとおり,意匠法3条1項2号の刊行物をもとにして判断する同項3号にいう意匠の類似・非類似は,刊行物に記載された意匠と,本願意匠とを対比して決するものであることに鑑みると,引用意匠を,384個の六角形のディンプルを辺を共有するようにして密に配列したものであると認定した審決に誤りはなく,原告の上記取消事由2の主張は採用することができない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。