●平成21(行ケ)10409 審決取消請求事件 商標権「e-watching」

 本日は、『平成21(行ケ)10409 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「e-watching」平成22年06月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100629083044.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1〜3についての判断が参考になるかと思います。

 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 真辺朋子、裁判官 田邉実)は、

『2 取消事由1(本願商標の指定商品認定の誤り)について

 商標法68条の40第1項によれば,商標登録出願,防護標章登録出願,請求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる。


 しかし,一方で,商標法56条が準用する特許法156条1項,2項によれば,審判長は,事件が審決をするのに熟したときは,審理の終結を当事者及び参加人に通知しなければならず,必要があるときは,当事者等の申立て又は職権で審理を再開することができるとされている。


 そして,「審決をするのに熟したとき」とは,審理に必要な事実を参酌し,取り調べるべき証拠を調べて結論を出せる状態に達したことをいうと解されるところ,審決をなしうる状態になったとして審理を終結した後であっても審決がなされるまでの間はいつでも補正ができるとなると,審理の進行に区切りがつかず審決に遅滞が生じ,ひいては審決ができない事態が生じるおそれがあることになる。


 したがって,事件が本件のように審判に係属している場合であっても,審理終結の通知により審理終結という効果が発生した後は,審理が再開されない限り手続の補正をすることはできず,審理終結通知が当事者に到達した後に提出された手続補正書は審判においてこれを斟酌することを要しないと解するのが相当である。


 そうすると,本件補正に関する手続補正書(本件手続補正書,甲9)は前記のとおり審理終結通知が請求人(原告)に到達した後に提出されたものであるから,審判において,本件手続補正書による補正を認めることはできず,平成21年8月20日付け補正に係る指定商品を本願商標の指定商品と認定した審決に誤りはなく,原告主張の取消事由1は採用することができない。


3 取消事由2(本願商標と引用商標の類否判断の誤り)について

 原告は,審決が本件商標と引用商標とは類似の商標であり商標法4条1項11号に該当するとしたことは誤りであると主張するので,以下その当否について検討する。


(1) 判断基準

 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参
照)。


 一方,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれぞれ分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものと認められる場合は,その一部だけを抽出しこれを他人の商標と比較して商標の類否を判断することは,原則として許されない。


 しかし,複数の構成部分の結合度が弱くそれを分離して観察することが取引上不自然でないと認められる場合等にあっては,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されると解される(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成20年9月8日判決・裁判集民事228号563頁・判例時報2021号92頁等参照)。


(2) 検討

 上記見地に立って本願商標について検討する。


 ・・・省略・・・


ウ小括

 上記のとおり,本願商標の「watching」の文字部分と引用商標の「WATCHING」の文字は,小文字・大文字の差異があるとしても綴りを同一とするものであって,本願商標と引用商標は,外観において近似した印象を与えるものであり,「観察,監視」の観念及び「ウォッチング」の称呼を共通にする類似の商標であると認めることができる。また,本願商標と引用商標の各指定商品は,本件補正前及び本件補正後のいずれであっても,類似のものである。そして,本願商標が遅くとも審決時までに事業者に限らず一般消費者を含む本願商標の指定商品の取引者,需要者間に出所識別標識として広く知られるに至ったと認めることもできない。したがって,本願商標と引用商標は,商標及び指定商品において類似し,両商標をその指定商品について使用したときは,これに接する取引者,需要者をして商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれがあるから,商標法4条1項11号により本願商標と引用商標は類似しているとした審決の判断に誤りはないというべきである。


4 取消事由3(審理手続の違法)について

 審判手続における審理終結後に審理を再開するか否かは審判長の裁量に委ねられている上(商標法56条1項,特許法156条2項),本願商標と引用商標は,本件補正がなされたことを前提としても,指定商品において類似し,本件補正の有無によって審決の結論が左右されるものでないことは前記のとおりである。したがって,前記のとおり審理終結通知が送達されたのが平成21年10月20日であり,本件補正とともに審理再開の上申がなされたのがその3日後の平成21年10月23日であったとしても,本件審判において,その必要がないとして審理の再開が行われなかったことにつき,裁量権の範囲を明らかに逸脱する違法があったとまでいうことはできない。原告主張の取消事由3は理由がない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。