●平成21(行ウ)517 特許料納付書却下処分取消請求事件

 本日は、『平成21(行ウ)517 特許料納付書却下処分取消請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年03月24日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100420133712.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許料納付書却下処分取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 坂本三郎、裁判官岩崎慎)は、


『1 法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義

(ア)法112条の2第1項1 所定の「その責めに帰することができない理由」とは,後記イの理由から,これと同一の文言である法121条2項(拒絶査定不服審判の追完),法173条2項(再審請求の追完)所定の「その責めに帰することができない理由」と同様に,天災地変,あるいはこれに準ずる社会的に重大な事象の発生により,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払っても,なお追納期間内に特許料等を納付することができなかったような場合を意味すると解するのが相当であり,当事者に過失がある場合は,「その責めに帰することができない理由」がある場合には当たらないと解するのが相当である。


イ法112条の2は,特許料の本来の納付期間の経過後,更に6か月間の追納期間(法112条1項)が経過し,特許料の不納付によりいったん失効した特許権特許権者に対し,?追納期間内に特許料等を納付することができなかった理由が特許権者の責めに帰することができないものであること,?追納期間の経過後6か月以内であって,かつ,その理由の消滅から14日(在外者にあっては2か月)以内に,納付すべきであった特許料等を納付することを要件として,特許権の回復を認めた例外的な救済の制度である。


 また,訴訟行為の追完を定めた民訴法97条1項の「その責めに帰することができない事由」については,当事者に過失がある場合を含まないとの解釈が採られている。


 さらに,「その責めに帰することができない理由」という文言の通常の意味からすると,当事者に過失がある場合を含まないと解釈するのが自然である。


(2) この点,原告は,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」について,特許法の分野における国際的調和の観点や立法経緯のほか,特許権管理の困難性から特許権者を保護する必要性という観点から,特許権者がすべきことをした場合,つまり,特許権者が社会通念上相当な注意を払っても避けることができない場合を広く含むと解すべきであり,そのように解しても,法が,特許権回復の期間を追納期間経過後6か月という短期間に制限していることや,回復した特許権の効力を制限していることから,第三者への過大な負担を生じることもないと主張する。


 しかしながら,パリ条約5条の2第2項の規定は,特許権の回復についてどのような要件の下でこれを容認するかを各締結国の判断にゆだねており,特許法の分野において国際的調和が重視されるべきであるとしても,我が国の特許法の定める個別規定を,欧米諸国の定める要件,基準等に基づいて解釈しなければならない理由はない。


 また,法112条の2の立法経緯に,法112条の2の「その責めに帰することができない理由」について,原告の主張するような解釈をすべきことを示唆するような事情があるとは認められない。


 そして,特許権回復の期間制限の規定や回復した特許権の効力の制限の規定が設けられているからといって,特許法が法112条の2の特許権の回復を広範に認める趣旨であると解することはできない。


 さらに,特許権者を保護する必要性の観点は,それ自体のみでは,原告の主張する解釈を採用すべき理由にならない。


 したがって,原告の前記主張は,採用することができない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。