●平成21(ワ)5610特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟(2)

 本日は、昨日に続いて、『平成21(ワ)5610 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「流し台のシンク」平成22年02月24日 東京地方裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100312094528.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点(2)イ(本件侵害品の製造,販売による損害額)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 坂本三郎、裁判官岩崎慎)は、


『2 争点(2)イ(本件侵害品の製造,販売による損害額)について


(1) 特許法102条2項の適用があること

前記第2の1(争いのない事実)(1)のとおり,原告は,システムキッチンの製造,販売等を目的とする株式会社であり,同(4)イのとおり,本件侵害品のシンクは,本件発明の構成要件をすべて充足し,本件特許権を侵害するものであるところ,証拠(甲3,4,13,18ないし26)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件発明の実施品を製造,販売しており,被告が本件侵害品のシンクの製造,販売をしなければ,原告が得られたであろう利益があると認められ,原告は,被告による本件侵害品の製造,販売により損害を被ったと認められるから,特許法102条2項により,被告の侵害行為により受けた利益の額を,原告の損害の額と推定することができる。


(2) 特許法102条2項の適用による被告の利益の額(原告の損害額)


ア証拠(甲31,乙16,17)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成18年4月ころ,本件侵害品を製造し,得意先に販売したこと,本件侵害品であるシステムキッチン(アイランドカウンター)の販売単価は58万3000円であり,本件侵害品全体の製造原価は46万7000円,そのシンク部分の製造原価は12万円であること,被告は,本件侵害品の販売により,製造原価の15パーセントの粗利を得たこと(本件侵害品全体につき7万0050円,シンクにつき1万8000円)が認められる。


 そして,本件発明は,プレートを載置することができる,流し台のシンクに関するものであって(甲2,本件明細書の【発明の属する技術分野】),本件侵害品のうち,本件特許権の侵害となるのは,シンク部分のみであるから,被告が本件侵害品の製造,販売をして,本件特許権を侵害したことにより受けた利益の額は,本件侵害品の製造,販売により被告が得た利益のうちシンクに係る部分であると解すべきである。


 また,被告は,前記粗利の額である1万8000円が,本件侵害品の製造,販売により被告が得た利益のうちシンクに係る部分であることを認めていることから,これが,特許法102条2項に規定する,被告が特許権の侵害行為により受けた利益の額と認めるのが相当である。


 したがって,特許法102条2項により,前記1万8000円が,本件侵害品の製造,販売により原告の被った損害の額であると推定される。


イ 原告は,本件侵害品の売上げに対する本件発明の寄与率は100%と見るべきであり,原告の損害と推定される被告の得た利益の額も,本件侵害品全体を基に算出すべきと主張する。


 しかしながら,証拠(甲31,乙16,17)によれば,本件侵害品は,ガス開口部などシンク以外の構成要素も有するシステムキッチン(アイランドカウンター)であり,シンク以外の部分は,流し台のシンクに関する本件発明と無関係であると認められる。そして,本件侵害品の売上げに対する本件発明の寄与率が,100%であると認めるに足りる客観的証拠もない。


よって,原告の前記主張は,採用することができない。


ウまた,原告は,被告が本件特許権の侵害を認めていた,本件侵害品以外の2台の侵害品の販売価格に対する利益率(19%ないし25%)と比較すると,本件侵害品の販売価格に対する利益率(12%)は低く,本件侵害品の販売価格に対する利益率は,少なくとも19%ないし25%と推測されると主張する。


 しかしながら,本件侵害品の利益(粗利)が製造単価の15%であるとの被告の主張及びこれに沿う内容の証拠(乙16,17)が直ちに不合理なものとはいい難く,また,弁論の全趣旨によれば,シンクを含むシステムキッチンの取引先(販売先)が末端の一般消費者であるか販売店等であるかといった取引の個別事情により,当該取引における利益率も変動し得るものであることが推認される。一方,本件侵害品の利益率が19%ないし25%であると認めるに足りる客観的証拠もない。


 したがって,原告の前記主張は,採用することができない。

エ以上によれば,原告は,被告の侵害行為(本件侵害品の製造,販売)により,1万8000円の損害を被ったと認めることができる。


(3) 小括

 以上によれば,本件侵害品が本件特許権を侵害することを理由とする損害賠償請求は,損害金1万8000円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年2月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は,理由がない。


第5 結論

 以上の次第で,原告の請求は,損害賠償金1万8000円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年2月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余の請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。