●平成21(行ケ)10274 商標登録取消決定取消請求事件 商標権(2)

 本日も、『平成21(行ケ)10274 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成22年01月13日 知的財産高等裁判所』((http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100113164256.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由2(引用商標に係る商品及び役務との混同を生ずるおそれがないとした判断の誤り)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 浅井憲)は、


『2 取消事由2(引用商標に係る商品及び役務との混同を生ずるおそれがないとした判断の誤り)について

(1) 判断基準

 法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等がその他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信される広義の混同を生ずるおそれがある商標を含むものと解するのが相当であり,そして,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである最高裁平成10年(行ヒ)第85号平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。

 そこで,上記の観点から,本件商標が同号に該当するか否かについて検討する。

(2) 本願商標と引用商標との類否

ア 本件商標及び引用商標の構成等について

 本件商標は,別紙商標構成1のとおり,上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった赤色の上唇,開放された人の口から大きく張り出した赤色の舌,その舌の上部に配された白色の前歯状のもの,黒色の口内,舌上に中央部からの大きな3本の黒色の図形 ,同図形の左端及び中央部の黒丸部分には,デザイン化された「AB」及び「C」の文字がそれぞれ描かれ,また,上唇の右上に黒い丸が描かれ,全体としてみると,人の口を正面から見た図形であって,本件商標掲載公報(甲1)における参考情報としての称呼は「エイビイシイ」とされている。


 他方,引用商標は,別紙商標構成2のとおり,上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった赤色又は橙色の上唇(その上唇の2か所の盛り上がった部分にそれぞれ白色の部分が設けられている。),開放された人の口から大きく張り出した赤色又は橙色の舌(舌上の左右に舌の起伏を表すように記載された白色の2本の筋が描かれている。),その舌の上部に配された白色の前歯状のもの,黒色の口内がそれぞれ描かれ,全体としてみると,人の口をやや右斜め方向から見た図形である。


イ本件商標と引用商標との対比について

(ア) まず,外観についてみると,両者は,上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった赤色系の上唇,開放された人の口から大きく張り出した赤色系の舌,舌の上部に配された白色の前歯状のもの及び黒色の口内が描かれているという点では,少なくとも構成を共通するということができる。


 しかしながら,両者は,本件商標では正面方向から見た平面的な図形であるのに対して,引用商標ではやや右斜め方向から見た立体的な図形であってかなり印象を異にするものである点,本件商標では舌上に大きな3本の黒色の図形が描かれているのに対して,引用商標では舌上に白色の2本の筋が描かれている点,また,本件商標にのみ上唇右上に黒い丸が描かれている点などにおいて相違していることは否定し得ない。


(イ) 次に,称呼についてみると,本件商標の舌上の3本の黒色の図形中の「A」「B 及びC」の文字がデザイン化されているとしても,デザイン化が過ぎる余り,一見して文字が記載されているとは判読し難い状態になっているため,そのことから,本件商標については,原告の主張するように明確に「エイビイシイ」との称呼が生ずるとまではいい難いが,本件商標登録においては,本件商標掲載公報の参考情報として「エイビイシイ」と記載されている。これに対して,引用商標については,その形状から「リップス&タン(タン&リップス)」,「タング(舌)ロゴ」,「ベロロゴ」,「ベロマーク」等と通称されているが(甲24,40,43,乙28,29,31,32,34,82),確立した称呼が存在するものでない。


(ウ) 次に,観念についてみると,引用商標では,開放された人の口から舌を大きく張り出すものとの観念が生ずる。これに対して,本件商標では,上記のとおり,中央部から大きな3本の黒色の図形が存在することなどの点があることをみると,特定の観念が生じているということはできない。


(3) 引用商標の周知著名性及び独創性

 ・・・省略・・・

イ以上の事実によると,引用商標は,我が国においては,ローリングストーンズの業務に係る商品又は役務を表示するものとして,平成19年以前から継続的に使用されて認識が広められてきたものと認めることができ,遅くとも本件商標の登録出願時までには,ローリングストーンズの業務に係る商品又は役務を表示するものとして,音楽関連の取引者・需要者の間に広く認識され,かつ,著名となっていたものであって,その状態は,本件商標の登録査定時においても,なお継続していたということができる。


ウまた,引用商標は,上記(2)アのとおりの構成から成るものであって,申立人商標1〜3を含む本件登録異議の申立ての審理において登録異議申立人が引用していた商標及び本件商標を除外すると,本件決定もいうとおり,斬新な図形であって,その独創性の程度は高いものであるということができる。


(4) 指定商品及び指定役務とローリングストーンズの業務に係る商品等との関連性

 本件指定商品等は,上記(3)のとおりの音楽バンドであるローリングストーンズの業務に係る商品又は役務と関連するものであって,ロックバンドであるローリングストーンズの業務に係る引用商標の商品及び役務は,本件指定商品等に含まれるものである。


(5) 引用商標に係る取引者及び需要者

 ローリングストーンズは,上記⑶アのとおり,昭和38年(1963年)にレコードデビューして以来,現在まで40年以上にわたり第一線で活躍し続けてきた著名なロックバンドであって,その音楽は,代表的なロック音楽の1つとされている(甲11,12,23 )。


 ローリングストーンズは,平成2年から幾度となく来日して公演も行っており,我が国においても幅広い年齢層のファンがいるが,その中心は50歳代及び60歳代であって(甲38,乙104〜106),ローリングストーンズの音楽に係る商品及び役務の需要者もこのような者が想定される。


 なお,ロック音楽の定義としては,1950年代以降のロックンロール誕生以後のポピュラー音楽のうち,若者を主なターゲットとする音楽をすべてロックとしてとらえるもの,上記からソウルやリズム・アンド・ブルースを除いたものとしてとらえるもの,上記からポップスを除いたものとしてとらえるものなどがあって多義的である(甲147)。


(6) 本件商標の使用による引用商標と誤信する可能性

 上記(2)ないし(6)によると,本件商標と引用商標とは,いずれも,上部に2つの山を重ねたように2か所で盛り上がった赤色系の上唇,開放された人の口から大きく張り出した赤色系の舌,舌の上部配された白色の上前歯状のもの及び黒色の口内が描かれているという点で構成を共通にする。


 また,引用商標は,音楽関係の商品及び役務分野において,ローリングストーンズに係る商品又は役務を表示するものとして,取引者・需要者の間において著名で,かつ,独創性がある。


 しかしながら,本件商標と引用商標とでは,称呼及び観念の共通性がないことに加え,外観においても,本件商標では正面方向から見た平面的な図形であるのに対して,引用商標ではやや右斜め方向から見た立体的な図形である点でかなり印象を異にするものである点,本件商標では舌上に3本の黒色の図形が描かれているのに対して,引用商標ではそのようなものがない点において相違していることも看過し得ない構成の特徴である。


 そして,引用商標がローリングストーンズの業務に係る商品又は役務を表示するものとして音楽関係の取引者・需要者の間で周知・著名であることは,また,それ故に,引用商標と本件商標との上記の相違点は,看者にとってより意識されやすいものであると解されるところである。


 しかも,需要者についてみると,音楽は嗜好性が高いものであって,音楽CD等の購入,演奏会への参加等をしようとする者は,これらの商品又は役務が自らの対象とするもので間違いないかをそれなりの注意力をもって観察することが一般的であると解されること,取引者についてみるに,音楽について通暁していることが一般であるレコード店や音楽業界関係者等である本件指定商品等の取引者が,本件指定商品等において,本件商標をローリングストーンズの業務に係る商品又は役務と混同することは考え難いことなどの事情が認められるのである。


 これらの事情を総合考慮すると,引用商標に係る商品又は役務は本件商標に係る本件指定商品等に含まれるものであるとしても,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,本件商標を本件指定商品等に使用した場合,これに接する取引者・需要者が,著名な商標である引用商標を連想・想起して,本件指定商品等がローリングストーンズ若しくはローリングストーンズとの間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品又は役務であると誤信するおそれがあるものと認めることはできないといわざるを得ない。


(7) 被告の主張について

 被告は,本件指定商品等に係る本件商標とローリングストーンズの業務に係る商品又は役務との誤認混同があるとする理由として,アシッドとローリングストーンズがロック音楽という点で共通していること,ローリングストーンズとアシッドのファンの年齢層にも共通する部分があること,レコードや音楽の公演等の主たる需要者が商標に着目して商品又は役務を選択する可能性の存在があること等を主張するが,上記認定のとおりのロック音楽の多義性からして, 「ロック音楽」であるということから直ちに統一的に理解することができるものであるか疑問がなくはないこと,ローリングストーンズとアシッドとの中心的なファン層が異なること,音楽は嗜好性が高いものであって,音楽CD等の購入,演奏会への参加等をしようとする者は,これらの商品又は役務が自らの対象とするもので間違いないかをそれなりの注意力をもって観察することが一般的であると解されるとの取引の実情等に照らすと,被告の主張に係る事情を考慮したとしても,上記判断を覆すに足りるものではない。

(8) 小括

 したがって,取消事由2は理由がある。


3 結論

 以上の次第であるから,取消事由3については検討するまでもなく,本件指定商品等についての商標登録を取り消すとした本件決定は誤りであって,取り消されるべきものである。』 


 と判示されました。


 詳細は、ホン判決文を参照してください。