●平成21(行ケ)10110 審決取消請求事件 特許権「エアー・ポンプ」

 本日は、『平成21(行ケ)10110 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「エアー・ポンプ」平成21年12月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100105085808.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効の認容審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法29条1項3号の「頒布された刊行物」ついての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『2 取消事由1(甲1刊行物が外国頒布刊行物であるとの認定の誤り)について

(1) 原告らは,台湾における実用新案の出願書類写しである甲1刊行物は特許法29条1項3号の「頒布された刊行物」に当たらず,審決がこれを引用例に供したことは誤りである旨主張するので,まずこの点について検討する。


 特許法29条1項3号にいう「頒布された刊行物」とは,公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書,図画その他これに類する情報伝達媒体であって,頒布されたものを意味する最高裁昭和55年7月4日第二小法廷判決・民集34巻4号570頁,同昭和61年7月17日第一小法廷判決・民集40巻5号961頁参照)。


 そこでこれを本件についてみると,甲1の1(台湾実用新案登録第77204725号明細書,「公告本」との押印がある。)・甲1の2(台湾実用新案公告第158860号公報),甲11の1(台湾特許法30・39・110条の条文),甲11の3(台湾弁護士Bの陳述書)・甲15(台湾専利〔特許,実用新案,意匠〕法の条文)・甲16(台湾専利〔特許・実用新案・意匠〕法施行細則の条文),乙1の1(台湾国際専利法律事務所の2008年〔平成20年〕7月7日付け台湾経済部智慧財産局宛書簡)・乙2の1(台湾経済部智慧財産局長Cの2008年〔平成20年〕8月21日付け台湾国際専利法律事務所弁護士D・B宛書簡)・乙4の1(台湾経済部智慧財産局長Cの2009年〔平成21年〕8月24日付け台湾国際専利法律事務所弁護士D・E宛書簡)及び弁論の全趣旨によれば,甲1刊行物は,Aが台湾において昭和63年〔1988年〕5月20日に出願(申請)した実用新案(申請案77204725号,以下「本件実用新案」という。)の出願書類として,1991年(平成3年)5月21日に台湾において公告された公告本の写しであるところ,上記公告日である1991年(平成3年)5月21日当時における台湾特許法(1986年〔昭和61年〕12月24日改正・公布された専利法)においては,その30条に,審査を経て,拒絶すべきでないと認める発明特許は,審定書を明細書,図面と共に公告すべき旨,同39条に,公告した特許案件は,審定書,明細書又は模型若しくは見本等を特許局又はその他適切な場所に6か月間陳列して公開閲覧に供さなければならない旨,同110条に,上記各規定を実用新案に準用する旨がそれぞれ規定されており,上記公告本は上記各規定に基づき本件実用新案を公告に供するために用いられたものであることが認められる(訳文による)。


 一方,本件特許の出願日である平成6年1月17日当時において,台湾特許局では,実務上,既に公告された専利案及び実用新案については,公告期間中であるか公告期間満了後であるかにかかわらず,公告に供された審定書,明細書等を公開しており,何人もこれらを閲覧,書き写し又はコピーすることを申請することができたことが認められる。


 そして,上記のようにして閲覧・謄写の対象となる明細書等は,専利法施行細則(1981年〔昭和56年〕10月2日改正のもの。甲16)10条が出願時に明細書等につき同内容の書類を3部提出すべき旨を定めており,かつ,現に閲覧・謄写に供された甲1刊行物にはその冒頭に「公告本」との表示(特許局が押印したと推認される)がなされていることからすれば,閲覧,謄写の対象となった明細書等の複製物(3部のうちの1部を閲覧等用に備え置いたもの)と認めるのが相当である。


 そうすると,本件実用新案に係る前記「公告本」(甲1刊行物はその写し)は,一般公衆による閲覧,複写の可能な状態におかれた外国特許局備え付けの明細書原本の複製物と認められるから,特許法29条1項3号の外国において「頒布された刊行物」に該当すると認められる。


(2) これに対し原告らは,前記認定に係る閲覧,謄写については,謄写の根拠規定,具体的な謄写手続規定が整備されておらず,実際にも,平成12年当時ですら,台湾国内においてインターネットにより本件実用新案公報を検索すること等は困難な状況であるから(甲22),前記最高裁昭和55年7月4日第二小法廷判決が説示した「原本自体が公開されて公衆の自由な閲覧に供され,かつ,その複写物が公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される態勢が整っている」ということはできないと主張する。


 しかし,前記認定のとおり,台湾特許の実務においては,本件特許出願前に前記「公告本」が公衆の自由な閲覧,謄写の対象になっていたのであるから,これを特許法29条1項3号の外国頒布刊行物と認めることに支障はないというべきであって,手続規定等の整備の有無やインターネットによる検索の可否は上記認定を左右するものではない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。


(3) 以上によれば,審決が甲1刊行物を特許法29条1項3号の外国頒布刊行物と認定したことに誤りがあるということはできないから,原告らの上記主張は採用することができない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。