●裁判所の補正の判断判断基準と、国内優先事件

 先日取り上げた、●『平成21(行ケ)10131 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「蛇腹管用接続装置」平成21年12月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091228085727.pdf)で、言い忘れたことがあったので追加しておきます。


 この事件では、要旨変更の判断基準として、知財高裁大合議事件にて判示された、●『平成18(行ケ)10563 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法」平成20年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080530152605.pdf)と同じ判断である、

「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるというべきところ,上記明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表現されていなくとも,明細書又は図面の記載から自明である技術的事項であれば,特段の事情がない限り,新たな技術的事項を導入しないものである」

 が採用されていると先日述べました。


 そして、この●『平成21(行ケ)10131 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「蛇腹管用接続装置」平成21年12月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091228085727.pdf)では、裁判所は、さらに、

そして,そのような「自明である技術的事項」には,その技術的事項自体が,その発明の属する技術分野において周知の技術的事項であって,かつ,当業者であれば,その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができ,その技術的事項が明細書に記載されているのと同視できるものである場合も含むと解するのが相当である。


 したがって,本件において,仮に,当初明細書等には,「押圧部材と装置本体との螺合されていない態様」あるいは「螺合以外の手段によって移動可能」とすることが直接表現されていなかったとしても,それが,出願時に当業者にとって自明である技術的事項であったならば,より具体的には,その技術的事項自体が,その発明の属する技術分野において周知の技術的事項であって,かつ,当業者であれば,その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができるものであったならば,本件発明3を追加した本件補正は,要旨変更には該当しないというべきである。
 と、具体的に要旨変更(新規事項の追加)にならない、「自明である技術的事項」とは何であるかと判示してします。


 つまり、裁判所は、出願時に当業者にとって自明である技術的事項、すなわち、出願時点において当該分野の周知技術であって、かつ、その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができる自明事項の追加であれば、出願当初明細書等に記載がなくても、要旨変更(新規事項の追加)にならない、と具体的基準を判示しています。


 この具体的基準は、補正や訂正等の有効性を判断する上で、特許実務上、とても重要な判示事項であると思います。 


 ところで、確か、国内優先の審査基準に国内優先が認められるか否かは、補正の新規事項の追加になるか否かの判断の例による、とあったような気がします。


 すると、明細書への出願時における周知技術の追加は、要旨変更(新規事項の追加)にならないことになるので、例えば、国内優先により追加した第3実施例によって示された機能や効果は周知技術によって達成される機能,効果と比べて格別のものではないので、国内優先の効果が認められた、●『平成16(ネ)1563 特許権差止請求権不存在確認等請求控訴事件 特許権 民事訴訟レンズ付きフィルムユニット事件」平成17年01月25日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/431A112782ED2526492570FC0002229A.pdf)の判断にも沿うし、また、国内優先により追加した螺旋形状の実施例が先の出願の当初明細書等に現実に記載されていた人工乳首の奏する効果とは異なる螺旋形状特有の作用効果を奏するので、先の出願の当初明細書等に記載されていたものと認められないと判示した、●『平成14(行ケ)539 特許権 行政訴訟「人工乳首事件」平成15年10月08日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B4552D013DAF2C6449256E2F0024C479.pdf)とも整合性がとれるものと思いました。