●「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」の解釈(3)

 今年の3/9の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090309)で書いたことの繰り返しになりますが、一昨日取り上げた、●『平成21(行ケ)10131 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「蛇腹管用接続装置」平成21年12月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091228085727.pdf)も含め、知財高裁大合議で出された「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」についての判断基準は、知財高裁大合議判決が出されて以降、大阪地裁、東京地裁でも採用されていることがわかりました。


 そして、それぞれの事件が平成5年法改正前の要旨変更の時代の出願の事件か、平成5年法改正後の新規事項の追加時代の出願の事件かを確認すると、

A.平成5年改正前の要旨変更の判断基準の時代の事件

(1)●『平成21(行ケ)10131 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「蛇腹管用接続装置」平成21年12月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091228085727.pdf)
 は、特許出願日が平成5年10月29日の要旨変更の時代(補正で争われた事件)。


(2)●『平成20(ワ)4056 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟「ポータブル型画像表示装置事件」平成21年03月05日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090305171211.pdf)
 は、特許出願日が昭和63年5月9日の要旨変更の時代(補正で争われた事件)。


(3)●『平成18(行ケ)10563 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法」平成20年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080530152605.pdf)、
 は、特許出願日が昭和62年11月30日の要旨変更の時代(訂正で争われた事件)。


B.平成5年改正後の新規事項追加の禁止の判断基準の時代の事件

(4)●『平成20(行ケ)10053 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「保形性を有する衣服」平成20年06月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080612154324.pdf)
 は、特許出願日が平成16年7月15日の新規事項追加の時代(訂正で争われた事件)。


(5)●『平成19(行ケ)10409 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「高度水処理装置及び高度水処理方法」平成20年06月23日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080623153753.pdf)
 は、特許出願日が2000(平成12)年10月30日の新規事項追加の時代(補正で争われた事件)。


(6)●『平成19(行ケ)10432 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ダイヤル錠のラッチ」 平成20年07月17日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080717154935.pdf)
 は、特許出願日が,平成7年9月19日の新規事項追加の時代(補正で争われた事件)。


(7)●『平成20(行ケ)10168 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「注射器」平成20年11月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081128120731.pdf)
 は、特許出願日が,平成14年10月17日の新規事項追加の時代(補正で争われた事件)。


(8)●『平成18(ワ)20790 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「現像ブレードの製造方法及び現像ブレード用金型」平成20年11月28日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081201180053.pdf) 
 は、特許出願日が,平成14年11月12日の新規事項追加の時代(訂正で争われた事件)。


 以上の8件からすると、出願日により補正および訂正の際の「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」の判断基準は、平成5年改正前の要旨変更の判断基準になろうと、平成5年改正後の新規事項追加の判断基準になろうと、現在、知財高裁、東京地裁、大阪地裁の裁判所では、基本的に、その判断基準に差異はなく、今回の知財高裁の、

「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるというべきところ,上記明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表現されていなくとも,明細書又は図面の記載から自明である技術的事項であれば,特段の事情がない限り,「新たな技術的事項を導入しないものである」

 と同じということが推測されます。


 つまり、平成5年改正前の出願日で補正の判断規準が従来の要旨変更であろうと、平成5年改正後の出願日で補正の判断規準が現在の新規事項追加であろうと、裁判所では、補正や訂正の判断規準は取り扱いをかえていない、と言えるようです。