●平成21(行ケ)10064  審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

Nbenrishi2009-11-15

 本日は、『平成21(行ケ)10064  審決取消請求事件 特許権 行政訴訟浄水器用吸着材の製造方法,並びにこれを用いた浄水器」平成21年11月05日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091106133823.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由2(相違点1の判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 杜下弘記)は、


2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について

(1) 本願発明の乾燥工程の意義

ア明細書の記載

(ア) 本願明細書には,以下の記載がある(甲3)。

【0010】また,合成リン酸カルシウム系化合物の粉末と水の混合スラリーを乾燥した後,200℃〜500℃で加熱固化すると,収率が向上するため好ましい。乾燥温度は80〜150℃が好ましい。

【0022】80℃〜150℃程度の温度で乾燥を行った後,篩い分けを行って粒径を調整し,その後で加熱固化を行うことにより,粒径が外れたものを再度スラリー化することが可能となるため,収率を向上させることができる。


(イ) 本願明細書の発明の詳細な説明には,乾燥工程についての記載が上記認定の部分以外にはないところ,上記記載からは,せいぜい「乾燥を行った後」で「篩い分けを行って粒径を調整」することや,「粒径が外れたものを再度スラリー化」して「収率を向上させる」こととの関連がうかがえるにすぎない。


 しかし,本願発明は,発明特定事項として,篩い分け工程や再度スラリー化する工程を有していないのであるから,粒径の調整や収率の向上といった課題の解決を図るためのものとか,上記目的を達成するためのものなどということはできない。しかも,本願明細書の上記記載からは,「80℃〜150℃」という数値範囲の意義を理解することはできない。


 そうすると,本願明細書の記載自体からは,本願発明が「80℃〜150℃で乾燥」する構成を有することの意義を,理解することができない。


イ 出願時の技術常識

 セラミックス辞典(乙1)によると,「乾燥」とは,「セラミックスの原料や成形体から水分を除くことを乾燥という。…乾燥は焼成時に水分が気化して水蒸気になるときの(1)エネルギー損失,(2)体積膨張による成形体の破壊を防止するために行う。」ものと理解されている。したがって,乾燥とは,水分を気化(蒸発)させて除く処理をいい,水分含有原料を焼成する場合は,焼成の前処理として用いられることが一般的である。


 そして,乙1の上記記載を併せ考慮すると,本願発明が「80℃〜150℃で乾燥」する構成を有することの意義は,合成リン酸カルシウム系化合物のスラリーを焼成するにあたり,水分が気化して水蒸気になるときのエネルギー損失や体積膨張による成形体の破壊を防止するために行う焼成のための前処理を行うことにあると理解することができる。


 もっとも,上記技術常識からみても,乾燥温度の数値限定についてまで格別の意義を認めることができない。


(2) 相違点1に係る構成の容易想到性

 本願発明が焼成前において乾燥工程を有することの意義は,上記(1)のとおり,焼成のための前処理と認められる。他方,引用発明1が焼成前において「50℃で10時間乾燥」する構成を有することの意義について,引用例1には直接的には記載されていないところ,引用例1の実施例3〜5に「実施例2で得られた試料を…焼成し」と記載されていることからすると,本願発明と同じように焼成のための前処理と解することができる。


 そして,本願発明が乾燥温度を「80℃〜150℃」と特定することに格別の意義を認められないのは上記のとおりであるから,当業者が引用発明1についてその乾燥温度を所望の温度すなわち80℃〜150℃に設定することは単なる設計事項にすぎないといわざるを得ない。


 したがって,本件審決の相違点1についての判断に誤りはない。


(3) 原告の主張について
ア原告は,本願発明の乾燥温度について,80℃未満では混合スラリーを十分に乾燥させることができず粒径を整えるという目的を達することができないと主張する。


 しかし,本願発明について粒径を整えるという目的を達成することを前提としてみることができないのは上記(1)に判示したとおりである。また,乾燥時間が同じ場合において温度が高い方が十分な乾燥が行えることは,技術常識であるから,引用発明1において50℃よりも高い乾燥温度,例えば80℃程度で乾燥を行うようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。


イ原告は,150℃よりも高い温度では一部において加熱固化されてしまい再度スラリー化することができないと主張する。


 しかし,本願発明は再度スラリー化する工程を特定事項としていないのであるから,上記主張は,本願発明の構成に基づかない主張であって採用できない。なお,150℃よりも高い温度,例えば150〜200℃の範囲で固化してしまう事実を認めるに足りる証拠もない。


(4) 小括

 よって,取消事由2は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は。本判決文を参照してください。