●平成21(ラ)10004 移送申立却下決定に対する抗告事件 特許権

 本日は、『平成21(ラ)10004 移送申立却下決定に対する抗告事件 特許権 民事訴訟  平成21年10月23日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091105093223.pdf)について取り上げます。


 本件は、移送申立却下決定に対する抗告事件で、その抗告が棄却された事案です。


 本件では、特許権侵害を理由とする本件訴えの裁判管轄についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『当裁判所も,本件移送は却下すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり付加するほか,原決定記載のとおりであるから,これを引用する。


1 民訴法6条1項は,「特許権…に関する訴え…について,前2条の規定によれば次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有すべき場合には,その訴えは,それぞれ当該各号に定める裁判所の管轄に専属する…」と定めて,これらの訴えは,地域により東京地裁又は大阪地裁の専属管轄に属するとされているところ,前記第2,1のとおり,本件の基本事件は特許権侵害を理由とする差止め及び損害賠償等を求める訴えであるから,その土地管轄は,東京地裁又は大阪地裁の専属管轄に属することは明らかである。


 そして,本件記録によれば,原被告のいずれもが静岡地裁管内の静岡市に本店所在地を有するから,本件訴えは民訴法4条1項,6条1項1号により東京地裁が土地管轄権を有すると認められるものの,そのほかに,原決定記載のとおり,被告が大阪地裁の管轄する大阪市等において製品の販売等をする行為が原告(相手方)に対する不法行為を構成する等とするものであるから,不法行為地の裁判籍として,民訴法5条9号,6条1項2号により大阪地裁も土地管轄権を有することになる。


 そうすると,特許権侵害を理由とする本件訴えは,東京地裁と大阪地裁の双方が土地管轄権を有することになるが,民訴法20条2項は,特許権等に関する訴えについても,遅滞を避けるための移送を定めた同法17条の適用を肯定しているから,両地裁間の管轄の調整は同法17条の適用により決すべきこととなる。


不法行為地に関する主張について

(1) 抗告人は,本件に関連する主要な事実が東日本にあるとか,販売や販売の申出は東日本及び西日本の両地域にわたることが一般的であると主張するが,原決定が認定するとおり,本件は民訴法5条9号(不法行為に関する訴え),6条1項2号に基づき大阪地裁に土地管轄が認められるのであって,抗告人の主張するような事情は,適法に成立した管轄権の存在を左右するものではないから,抗告人の主張は採用することができない。


(2) 抗告人は,本件の基本事件の訴えは,販売の申出よりも製造,販売,抗告人の製品及びその半完成品の廃棄並びに損害賠償が重要性を有しているにもかかわらず,販売の申出が西日本において行われていることのみを根拠として提起されたもので,管轄選択権の濫用に当たる旨主張する。


 しかし,原決定記載のとおり,被告が大阪地裁の管轄する大阪市等において製品の販売等をする行為について,民訴法5条9号,6条1項2号に基づき大阪地裁に土地管轄権があると認めることに疑義はない。その他原告の本訴提起が管轄選択権の濫用に当たるべき事情を認めるに足りる証拠もない。


 そうすると,抗告人の上記主張は採用することができない。


3  遅滞を避ける等のための移送について

 抗告人は,「制度のマクロ的な見地からの主張」として,特許権等に関する訴え等の管轄は我が国を東西に二分して東京地裁又は大阪地裁の専属管轄と定められているところ,全国的な商品展開をすることが一般的である現代においては上記両裁判所に管轄が生じることになり,大会社が小会社に対する訴えの管轄を自由に選択できるとすることで管轄の不利益という応訴の負担の増大を強いることができるとして,大阪地裁に対する本件訴えは当事者間の衡平を欠くものである旨主張する。


 しかし,抗告人の主張する原被告間における経済的な格差は,共に十分な経済力を有する当事者間における相対的なものにすぎず,移送を認めなければ当事者間の衡平を図ることができない事情といえないことは,原決定の説示するとおりである。その他,抗告人が挙げる抗告人及び相手方の事業活動の中心地が静岡にあるという事情も東京地裁への移送の必要性を基礎付けるものでないこともまた,原決定の説示するとおりである。


 なお抗告人は,相手方による大阪地裁への訴え提起は正当な意図に基づかないものであると主張するが,相手方において殊更に抗告人の応訴の負担を増大させる目的で大阪地裁に本件訴えを提起したことを認めるに足りる証拠はない。


 そうすると,本件において東京地方裁判所に移送を認めなければ当事者間の衡平を図ることができないということはできず,抗告人の上記主張は採用することができない。


4 結語

 以上によれば,本件移送の申立ては理由がなくこれを却下すべきである。


 したがって,これと結論を同じくする原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから棄却することとして,主文のとおり決定する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。