●平成20(行ケ)10486 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

Nbenrishi2009-10-28

 本日は、『平成20(行ケ)10486 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ピリドベンゾオキサジン誘導体」平成21年10月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091028163401.pdf)について取り上げます。


 本件は、延長登録無効審判の認容審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由2(本件米国臨床試験の実施期間を延長期間に算入しなかった誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大須賀滋、裁判官 齊木教朗)は、

『2 取消事由2(本件米国臨床試験の実施期間を延長期間に算入しなかった誤り)について


(1) 特許発明の存続期間の延長登録制度の趣旨について

 特許権の存続期間の延長登録の制度が設けられた趣旨は,以下のとおりである。「その特許発明の実施」について,特許法67条2項所定の「政令で定める処分」を受けることが必要な場合には,特許権者は,たとえ,特許権を有していても,特許発明を実施することができず,実質的に特許期間が侵食される結果を招く


(もっとも,このような期間においても,特許権者が「業として特許発明の実施をする権利」を専有していることに変わりはなく,特許権者の許諾を受けずに特許発明を実施する第三者の行為について,当該第三者に対して,差止めや損害賠償を請求することが妨げられるものではない。したがって,特許権者の被る不利益の内容として,特許権のすべての効力のうち,特許発明を実施できなかったという点にのみ着目したものである。)。


 そして,このような結果は,特許権者に対して,研究開発に要した費用を回収することができなくなる等の不利益をもたらし,また,一般の開発者,研究者に対しても,研究開発のためのインセンティブを失わせるため,そのような不都合を解消させて,研究開発のためのインセンティブを高める目的で,特許発明を実施することができなかった期間,5年を限度として,特許権の存続期間を延長することができるようにしたものである。


 政令で定められた薬事法の承認等は,いわゆる講学上の許可に該当し,製造販売等の行為が,一般的抽象的に禁止され,各行政法規に基づく個別的具体的な処分を受けることによってはじめて,当該行為を行うことが許されるものであるから,特許権者が,許可を得ようとしない限り,当該製造販売等の行為を禁止された法的状態が継続することになる。


 しかし,特許法は,特許権者が,許可を得ようとしなかった期間も含めて,特許発明を実施することができなかったすべての期間(ただし,5年の限度以内である。)について,存続期間延長の算定の基礎とするのではなく,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった期間,すなわち,当該「政令で定める処分」を受けるために必要であった期間に限って,存続期間延長の対象としている。


 以上によれば,「その特許発明の実施をすることができない期間」とは,「政令で定める処分」を受けるのに必要な試験を開始した日又は特許権の設定登録の日のうちのいずれか遅い方の日から,当該「政令で定める処分」が申請者に到達することにより処分の効力が発生した日の前日までの期間を意味すると解すべきである(最高裁判所平成10年(行ヒ)第43号平成11年10月22日・民集53巻7号1270頁参照)。


 以下,上記の趣旨を前提として,本件米国臨床試験等の実施期間が,特許法67条2項所定の薬事法14条7項の承認を受けることが必要であるために,「その特許発明の実施をすることができない期間」に該当するか否かを判断する。


(2) 事実認定


 ・・・省略・・・


(3) 「特許発明の実施をすることができない期間」該当性に関する判断

ア以上の事実によれば,?米国の効能追加承認においては米国初回臨床試験の10症例の成績のみでレジオネラ肺炎に対する効能・効果の追加承認がされており,本件米国臨床試験は必要とされなかったのであるから,その後に申請される日本での同様のレジオネラ肺炎に対する効能・効果の追加承認においても,米国初回臨床試験のデータのみがあれば足り,本件米国臨床試験は必ずしも必要とはされなかったであろうと合理的に推認することができ,?本剤と同じフルオロキノロン系薬の1つであるメシル酸パズフロキサシンのレジオネラ肺炎に対する効能・効果の追加に関する上記審査において,本件承認申請と極めて類似した状況の下で効能追加の承認がされたことからすると,メシル酸パズフロキサシンの6症例を上回る10症例に係る臨床試験データを有する米国初回臨床試験があれば,本件米国臨床試験データがなくとも,日本での本剤の効能追加の承認がされたであろうと合理的に推認することができる。


 この点について,原告は,メシル酸パズフロキサシン(甲10)は,経口剤よりも即効性の高いレジオネラ肺炎に対する国内唯一の注射剤であって,致命的な疾患であるレジオネラ肺炎について医療上の緊急性から極めて例外的に承認されたにすぎず,既にレジオネラ肺炎に対する効能が承認済みの他の経口抗菌剤が存在する状況の下では,経口剤である本剤の承認申請については,メシル酸パズフロキサシンと同様の審査がされて承認されたであろうとはいえない旨主張する。


 しかし,致命的な疾患であるレジオネラ肺炎を適応とする点では本剤もメシル酸パズフロキサシンも同じであるから,原告の上記主張は前記の合理的推認を覆すに足りない。


イしたがって,本件延長登録がされた期間4年11月7日のうち,本件米国臨床試験に係る期間1年8月23日は,特許法67条2項にいう「政令で定めるものを受けることが必要であるために,その特許発明の実施をすることができない期間」には該当しない。


 これと同旨の審決の判断には誤りはなく,この点に関する原告の主張は理由がない。』


 と判示されました。


 なお、同日に出された、
●『平成20(行ケ)10487 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ピリドベンゾオキサジン誘導体」平成21年10月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091028163956.pdf)も同様の判決内容のようです。


 また、本判決文中で引用している最高裁判決は、
●『平成10(行ヒ)43 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「新規ポリペプチド類、その製造方法、そのポリペプチド類を含む医薬組成物およびその用途」平成11年10月22日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/50FC704D8F5C6E4949256ABF004793D1.pdf)のようです。


 詳細は、本判決文を参照してください。