●平成21(ネ)10031商標権侵害差止等請求控訴事件 商標権 民事訴訟

 本日は、『平成21(ネ)10031 商標権侵害差止等請求控訴事件 商標権 民事訴訟「Agatha Naomi」平成21年10月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091014160238.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標権侵害差止等請求控訴事件で、本件控訴の一部が認容された事案です。


 本件では、商標の類否判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 杜下弘記)は、


『2 商標の類否

(1) 判断基準

 商標法37条1号は,「指定商品…についての登録商標に類似する商標の使用…」を商標権の侵害とみなす旨規定するところ,商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであるが,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準というにすぎない。


 したがって,上記3点において綿密な観察によれば個別的には類似しない商標であっても,具体的な取引状況いかんによっては類似する場合があるし,他方,上記3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違するか,取引の実情によって出所を混同するおそれが認められないものについては,類似しないというべきものである(最高裁平成3年(オ)第1805号平成4年9月22日第三小法廷判決・裁判集民事165号407頁,最高裁平成6年(オ)第1102号平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。


 しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。


 他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。


(2) 認定事実

 ・・・省略・・・

(3) 本件商標と被控訴人各標章との類否

ア 前記(2)アで認定した,控訴人の我が国での出店状況,雑誌への広告,売上高等の事実を総合すると,遅くとも被控訴人が被控訴人各標章を使用開始する平成18年10月以前に,本件商標「AGATHA」は,アクセサリーブランドとしての控訴人の略称として,また,控訴人が製造販売するアクセサリーや宝飾品に使用する商標として,我が国において,取引者及び需要者の間で,周知性を獲得し,その後も現在に至るまで周知性を維持し続けているということができる。


イ 被控訴人標章1の各冒頭の文字は,装飾されているが,被控訴人ウェブサイトの名称が「www.agathanaomi.com」である上,同一の画面に被控訴人標章2が表示されることから,その文字が「A」「N」であると理解することが可能である。そして,被控訴人各標章は,その外観上,2個の英単語から成るものであって,「Agatha」の語と「Naomi」の語とを組み合わせた結合商標である。


 このように,被控訴人各標章は,「Agatha」と「Naomi」の2つの語から構成され,それぞれの冒頭は大文字であり,2つの語の間には空白があることにもかんがみると,被控訴人各標章の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとまでいうことはできない。


 そして,上記アのとおり,アクセサリーの分野において「AGATHA」が周知性を有し,取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えることに照らすと,被控訴人各標章からは,「Agatha Naomi」という一連の称呼・観念が生じるとしても,それだけでなく,「Agatha」という称呼・観念も生じ得るものと解するのが相当である。


 この点について,被控訴人は,被控訴人各標章「Agatha Naomi」は,一体的に把握すべきであり,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の標章と比較して標章の類否を判断することは許されないなどと主張する。


 しかしながら,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合には,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されることは,前記判示のとおりであるところ,本件商標「AGATHA」がアクセサリーの分野において周知性を有することに照らすと,被控訴人各標章がアクセサリーの広告を内容とする情報に使用されるときは,被控訴人各標章の一部である「Agatha」という称呼・観念も生じ得るといわざるを得ず,被控訴人の上記主張は,失当である。


ウ このように,被控訴人各標章からは,「Agatha Naomi」のみならず,「Agatha」という,少なくとも2つの称呼,観念が生じるということができる。そして,後者の「Agatha」は,「A」以外の5文字が小文字であるものの,本件商標「AGATHA」と同一のアルファベットから成るものである。


 そこで,被控訴人各標章中の「Agatha」と本件商標「AGATHA」とを対比すると,まず,「Agatha」からは,「アガタ」又は「アガサ」の称呼が生じ,本件商標「AGATHA」の称呼である「アガタ」と同一又は類似である。


 また,「Agatha」からは,アクセサリーの分野で周知性を有する控訴人又は控訴人の製造販売に係るアクセサリー,宝飾品の観念が生じ得るから,本件商標「AGATHA」と観念においても同一である。被控訴人各標章中の「Agatha」の文字は一部が小文字であったり大文字に装飾が施されており,必ずしも本件商標と外観において類似するとはいえないものの,「Agatha」がアクセサリーや宝飾品に使用されるときは,称呼及び観念が同一又は類似であることに照らすと,デパートにおける販売とインターネットを通じた通信販売という販売方法の相違を考慮してもなお,被控訴人各標章中の「Agatha」は,周知の「AGATHA」との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ず,両者は,全体として類似といわざるを得ない。

エ そして,1個の商標から2個以上の呼称,観念を生じる場合には,その1つの称呼,観念が登録商標と類似するときは,それぞれの商標は類似すると解すべきである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)。


 よって,被控訴人各標章から生じる称呼,観念の1つである「Agatha」と本件商標「AGATHA」とが類似する以上,被控訴人各標章と本件商標は,類似するものといわざるを得ない。


(4) 被控訴人の行為の商標権侵害の成否

 前記1認定のとおり,被控訴人は,平成18年10月10日から平成20年8月27日までの間,被控訴人ウェブサイト(www.agathanaomi.com)において,インターネットによる被控訴人商品の通信販売を行い,その際,被控訴人商品の広告や被控訴人商品の材質,サイズ及び価格に関する情報に,本件商標と類似する被控訴人各標章を付していたものである。被控訴人の上記行為は,商標法2条3項8号に当たり,同法37条1号により,本件商標権の侵害とみなされる。


 なお,被控訴人は,被控訴人代表者の娘のインドネシア名を商標として採択したと主張するが,仮にそうであったとしても,商標法26条1項1号が規定する場合には当たらないから,商標権侵害の判断を左右するに足りない。


(5) 小括

 以上のとおり,被控訴人の上記行為は,本件商標権を侵害するから,控訴人は,商標法36条に基づき,被控訴人の行為の差止めを請求することができる。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。