●平成20(行ケ)10423 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成20(行ケ)10423 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「無反跳非熱核融合反応生成方法及び無反跳非熱核融合エネルギー発生装置」平成21年09月17日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090924154916.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件であり、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(特許法旧36条4項及び6項2号該当性判断の誤りについて)の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 真辺朋子)は、


『2 取消事由1(特許法旧36条4項及び6項2号該当性判断の誤りについて)

(1) 平成14年3月12日になされた本願に適用される特許法旧36条は,特許出願につき,その第1項で「特許を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない・・・」とし,その第2項で「願書には,明細書,必要な図面及び要約書を添付しなければならない」とし,その第3項で「前項の明細書には,次に掲げる事項を記載しなければならない。?発明の名称?図面の簡単な説明?発明の詳細な説明?特許請求の範囲」とし,その第4項で「前項第3号の発明の詳細な説明は,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない」と定めている。


 上記第4項は特許出願における実施可能要件と称されているものであるが,特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的権利を付与するものであるから,明細書に記載される発明の詳細な説明は,当業者(その発明の属する分野における通常の知識を有する者)が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成が記載されていることを要するとしたものであるところ,上記のような法の趣旨に鑑みると,明細書の発明の詳細な説明の欄に当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていること,ひいては当該発明が実施可能であることは,出願人が特許庁長官に対し立証する責任があると解される。


 審決は,原告らのなした本願につき,上記内容の実施可能要件につき原告らはその立証をなしていないと判断し,これに対し原告らはこれを争うので,上記の観点に立って,本願につき実施可能要件がないとした審決の当否について判断する。


(2) 本願の意義

ア本願明細書(甲1)には,以下の記載がある。

 ・・・省略・・・

(3) 実験報告書(甲7)の記載

ア一方,実験報告書(甲7)には以下の記載がある。

 ・・・省略・・・

(4) その他の論文の記載

 原告らは原告X1を著者とする論文(前記第3(4)ア?,?〜?の文献,甲6,9〜14)によって本願発明1の方法による無反跳非熱核融合反応が認められるとも主張しているが,上記各論文の記載から本願にいう「液体リチウムまたはそれに溶融する核融合物質を混入させた核融合燃料で構成される電極表面に,パルス状ガス放電プラズマで加速した重水素イオンを注入して,高密度の液体イオン電子プラズマを生成」する実験がなされたと認めるには足りない。また,核融合の発生を証明するためには中性子の検出など各種のデータが必要であるが,上記各論文において,中性子の検出等,無反跳非熱核融合反応が発生したと認めるに足りるデータが示されていると認めることもできない。

 ・・・省略・・・

(5) まとめ

 以上によれば,出願人たる原告らは,本願各発明が実施可能でありそれを明細書の発明の詳細な説明の欄に当事者が改めて実施することができる程度に明確かつ十分に記載したことを立証したとまでいうことはできず,したがって本願には特許法旧36条4項(実施可能要件)に違反する不備があるというべきである。そうすると,これと結論を同じくする審決の判断に誤りがあるということはできず,原告ら主張の取消事由1は理由がない。

3 結論

 そうすると,その余の取消事由2ないし4について判断するまでもなく,請求不成立とした審決の結論に誤りがないことになり,原告らの本訴請求は理由がない。

よって原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。