●平成21(行ケ)10021 審決取消請求事件「ラブコスメティック」(1)

 本日は、『平成21(行ケ)10021 審決取消請求事件 商標権「ラブコスメティック」行政訴訟平成21年07月16日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090717092543.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標法4条1項11号に基づく拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標の類比判断が参考になるかと思います。

 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 浅井憲)は、


『1 本願商標の一連一体性について

 商標は,その構成全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから,みだりに構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否判断をすることは許されないが,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際において,各構成部分がそれらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常にその構成全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼及び観念が生じることがあるのである最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)から,以下,本願商標について,これを構成する「ラブ」の部分と「ラブコスメティック」の部分とが,それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していない,と認められるか否か,すなわち,同商標の一連一体性について検討することとする。


(1)本願商標における自他商品識別力

ア 「コスメティック」の部分について

 本願商標の「コスメティック」の部分は,英語の「cosmetic」の発音に近い音を片仮名で表記した外来語である「コスメティック」の語から成るものである。


 そして,証拠(乙2〜4,6〜13,15,16,55,123〜135)及び弁論の全趣旨によると,「コスメティック」の語は,化粧品の分野において,本件商標登録出願に係るもとの商標登録出願(以下「本件原出願」という。)の日である平成18年3月13日前から,化粧品を意味するものとして広く定着し,頻繁に使用されていることが認められる。


 そうすると,そのような化粧品そのものを意味する「コスメティック」の語から成る部分(特段の図案化,記号化,着色等が施されていないもの)を含む商標が化粧品に使用された場合においては,取引者及び需要者にとって,「コスメティック」の部分のみから当該化粧品が何人の業務に係るものであるかを認識するのは不可能であるということができるから,本願商標の「コスメティック」の部分は,その指定商品との関係では,自他商品識別力を全く有しないものといわざるを得ない。


 この点に関し,原告は,本願商標の「コスメティック」の部分が自他商品識別機能を果たさないとはいえないと主張するが,上記説示したとおりであって,その主張を採用することはできない。


イ 「ラブ」の部分について

 原告は,本願商標の「ラブ」の部分につき,その自他商品識別機能は弱く,他の語と結合されることにより,これと一体のものとして自他商品識別機能を果たす場合が多いと主張する。


 確かに,同部分は,英語の「love」の発音に近い音を片仮名で表記した外来語である「ラブ」の語から成るものであるところ,「ラブ」の語は,本件原出願日前から,我が国において,「愛」,「愛情」,「恋」,「恋愛」などを意味するもの(乙1参照)として一般に広く定着し,様々な分野で日常的に使用されてきた極めてありふれた外来語であることは,公知の事実である。


 そうすると,そのような「ラブ」の語から成る部分(特段の図案化,記号化,着色等が施されていないもの)を含む商標が化粧品(本願商標及び各引用商標の指定商品)に使用された場合においても,取引者及び需要者にとって,「ラブ」の部分のみから当該化粧品が何人の業務に係るものであるかを認識するのは容易でないということができるから,本願商標の「ラブ」の部分が有する自他商品識別力は,それほど大きいものではないというべきである。


 しかしながら,本願商標の「ラブ」の部分に自他商品識別力が全くないとまではいえないところ,そのような「ラブ」の語の次に,指定商品を化粧品とする限り,自他商品識別力が全くない「コスメティック」の語を結合させたにすぎない本願商標についてみれば,原告の主張するように本願商標が「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とを合わせた一体のものとして自他商品識別力が仮にあるとしても,それとは別に,少なくとも「ラブ」の部分のみが自他商品識別機能を発揮する場合があることを否定することはできないというべきである。


 この点に関し,原告は,本件アンケート2の結果を援用して,原告の商品を他社の商品と間違えて購入した需要者は皆無であったと主張するが,甲10,甲25の1及び2並びに甲26に記載された同アンケートの内容及び結果は,本願商標について,少なくとも「ラブ」の部分が自他商品識別力を発揮する場合があるとの上記判断を左右するものではないというべきである。


(2) 外観,称呼及び観念

 原告は,その外観,称呼及び観念のいずれの点からも,本願商標が一連一体のものであると主張するので,以下,原告主張の観点から重ねて検討する。

ア 外観

 本願商標は,「ラブコスメティック」と片仮名表記した標準文字から成るもの,すなわち,同じ種類,書体,大きさ及び色の文字を同じ間隔で横一列に配して成るものであって,「ラブ」と「コスメティック」との間にスペースもなく,外観上まとまりよく構成されているものである。


 しかしながら,いずれも外来語である「ラブ」及び「コスメティック」の我が国における定着度等(上記(1)参照。以下同じ。)に照らすと,取引者及び需要者は,本願商標が「ラブ」の語と「コスメティック」の語とから成るものと容易に理解することができるということができ,加えて,本願商標において自他商品識別力を有する部分(上記(1)参照。以下同じ。)をも併せ考慮すると,「ラブ」と「コスメティック」との間にスペースがないとしても,取引者及び需要者は,本願商標を「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とに分けて看取する場合が一般的であると認められ,原告の主張するように本願商標を常に「ラブコスメティック」全体として看取するとまでいうことはできない。


イ 称呼

 「ラブコスメティック」の語は,促音を含めて8音であり,これを冗長でないということはできない。加えて,上記アのとおり,取引者及び需要者は,本願商標が「ラブ」の語と「コスメティック」の語とから成るものと容易に理解することができ,また,本願商標において自他商品識別力を有する部分をも併せ考慮すると,「ラブ」と「コスメティック」との間にスペースがないからといって,取引者及び需要者が,本願商標を「ラブコスメティック」と一息によどみなく称呼するとまでいうことはできず,「ラブ」と「コスメティック」とを区別して称呼しているのが一般的であると認められ,さらに,「ラブ」の部分のみを称呼して,「コスメティック」の部分を称呼するのを省略する場合があることも否定することはできない。


ウ 観念

 取引者及び需要者は,上記アのとおり,本願商標がその外観において「ラブ」の語と「コスメティック」の語とから成るものと容易に理解することができるところ,これらの語の我が国における定着度等や本願商標において自他商品識別力を有す部分にかんがみると,本願商標からは,「ラブ」の語から生じる観念及び「コスメティック」の語から生じる観念を単純に足し合わせた観念が生ずるにすぎず,そして,「コスメティック」の語から生じる観念が本願商標の指定商品である化粧品をいうにすぎない以上,それは,結局,「ラブ」の部分のみから「愛」等の観念を抱くのが一般的であるというにすぎない。

 この点に関し,原告は,本願商標の全体から,「ラブ」と「コスメティック」の各語を単純に足し合わせたものとは異なる別の観念,例えば,「愛のための化粧品」などといった即物的な観念が新たに生じると主張し,その根拠として「媚薬,催淫剤」の意味を有する「love drug」との英熟語を挙げるが,当該英熟語又はその発音に基づく「ラブドラッグ」などの外来語が本件原出願の日前から我が国において一般に又は化粧品の分野において「媚薬」等を意味するものとして広く定着し,頻繁に使用されているものと認めるに足りる証拠はないし,「ラブ」及び「コスメティック」の各語の定着度等に照らすと,化粧品の分野において,「love drug」に上記のような意味があるとしても,「ラブコスメティック」にもそのような意味付けが当然に類推され,一連一体となった「ラブコスメティック」の語から常に上記の「愛のための化粧品」などといった観念が生じ,かつ,その反面において,「ラブ」の部分のみから「愛」等の観念が生じることがないとまでいうことはできない。


(2)小括

 以上のとおり,本願商標は,少なくとも「ラブ」の部分が自他商品識別機能を発揮し得る商標であるから,本願商標に接した取引者及び需要者において,「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とに分けて看取し,「ラブ」の部分のみを称呼し,同部分のみから「愛」等の観念を抱くのが一般的であって,本願商標を構成する「ラブ」の部分と「コスメティック」の部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに,不可分的に結合しているものとまでいうことはできず,したがって,原告の主張するように本願商標が常に一連一体性を有する1つの外観,称呼及び観念を生ずる商標とみることはできない。


 この点に関し,原告は,本件アンケート1を援用して,本願商標に接した需要者は瞬時にこれを「ラブコスメティック」又は「ラブコスメ」と認識し,「ラブ」と認識することはないと主張するが,甲21に記載されたような手法による同アンケートの結果では,上記判断が左右されるものではない。』


 と判示されました。


 明日に続きます。