●平成20(ワ)12952 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
本日は、『平成20(ワ)12952 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「携帯型コミュニケータおよびその使用方法」平成21年07月10日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090714165400.pdf)について取り上げます。
本件は、特許権侵害差止等の請求事件で、その請求が棄却された事案です。
本件では、争点(2)(構成要件F−発信先番号選択手段−の充足)についての判断が参考になるかと思います。
つまり、東京地裁(民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳、裁判官 中村恭、裁判官 鈴木和典)は、
『1 争点(2)(構成要件F−発信先番号選択手段−の充足)について
(1) 構成要件Fの解釈
ア 構成要件Fは,「位置座標データ入力手段の位置座標データに基づいて,所定の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に最も近いものの発信先番号を選択する選択手段とを備え」と規定されているところ,ここにいう「選択手段」とは,CPU及びプログラムがなし得る機能を意味するにすぎず,当然に特定の処理を指し示すものではないから,その意義は特許請求の範囲からは一義的に明らかなものとはいえない。そこで,本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には次のとおりの記載がある(甲2)。
・・・省略・・・
ウ 以上からすると,本件特許発明1の「選択手段」とは,現在位置の位置座標データに基づいて最も近い施設を選択し,それと関連付けて記憶されている,同施設の発信先番号を取り出すことであり,また,「選択手段」による処理は,「携帯コンピュータ」自体のCPUが実行するものであって,「選択手段」は「携帯コンピュータ」自体が備えるものであると解釈するのが相当である。
(2) 被告製品の選択手段の構成
ア 被告製品の構成は,別紙被告製品説明書に記載のとおりである(争いのない事実,弁論の全趣旨)。これを,構成要件Fの「選択手段」に相応する部分を再掲すると,次のとおりである。
・・・省略・・・
(3) 原告の主張について
ア 原告は,構成要件Fはどのメモリ領域から電話番号を選択すべきかについて何らの限定も付しておらず,ネットワークのいずれの記憶領域であっても構わない旨を主張する。
しかしながら,本件明細書では,携帯型コミュニケータに内蔵されたメモリに地図データを収納し,これを用いて携帯コンピュータが構成要件Fの選択処理を行うことしか開示されておらず,上記のとおり,「選択手段」は「携帯コンピュータ」自体が備えるものであると解釈すべきものであるから,これを外部のコンピュータが実行する「選択手段」も含むとする原告の主張は,前提において既に採用することができないものである。
イ 原告は,被告製品のCPUが現在位置に最も近いものの発信先番号を選択するための指令を発しなければ,ナビタイムサーバがこれに該当するデータを送信することはありえないから,最も近いコンビニを選択していると評価できるのは被告製品のCPUである旨を主張する。
しかしながら,上記のとおり,「選択手段」とは現在位置の位置座標データに基づいて最も近い施設を選択し,それと関連付けて記憶されている同施設の発信先番号を取り出すことと解釈すべきであり,また,処理を他のコンピュータに指令することと自身が処理することとは別のことであるところ,被告製品のCPUは,このような選択処理にはかかわってはおらず,単にその前提となる現在位置情報とユーザの選択を外部のナビタイムサーバに送信し,その結果であるナビタイムサーバが作成した画面データを受信しているにすぎない。
したがって,被告製品のCPUは,実質的にも選択処理に関与しているものとはいえない。
原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 原告は,被告製品にあっては,地図データが膨大となる等の理由で遠隔地にあるサーバに記憶されているデータを読み出しているにすぎないのであって,筐体内部のメモリや外付けのSDカードに記憶されている場合との間に実質的な違いはない旨を主張する。
しかしながら,被告製品にあっては,ナビタイムサーバの地図データが利用されているだけなのではなく,その選択処理についても,被告製品のCPUではなくナビタイムサーバが行っているのであって,単に地図データを外部のサーバから取得しているというものではないのである。
したがって,原告の主張は前提において誤っているものであるから,採用することはできない。
(4) 以上のとおりであって,被告製品は構成要件Fを充足しないから,被告製品は本件特許発明1の技術的範囲に属さない。
・・・省略・・・
2 争点(5)(構成要件J−発信先番号選択ステップ−の充足)について
構成要件Jは,「入力された位置座標データに基づいて,所定の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に最も近いものの発信先番号を選択するステップ」と規定しているところ,上記1において認定判断のとおり,「選択するステップ」は携帯型コミュニケータ自体が行わなければならない一方で,被告製品は「選択するステップ」を行っていないから,構成要件Jを充足しない。
したがって,被告製品は,本件特許発明2の技術的範囲に属さない。
3 結論
以上のとおり,被告製品は本件特許発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属さないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。』
と判示されました。
なお、本件では、特許請求の範囲の構成要件の解釈に際し、
『ここにいう「選択手段」とは,CPU及びプログラムがなし得る機能を意味するにすぎず,当然に特定の処理を指し示すものではないから,その意義は特許請求の範囲からは一義的に明らかなものとはいえない。そこで,本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には次のとおりの記載がある(甲2)。』、
と言っているため、特許請求の範囲の構成要件の用語の意義が明確であるか否かに関わらず、明細書の記載を参酌して、特許請求の範囲の構成要件の用語の意義を解釈すべき、と判示した、いわゆるゲームボーイアドバンス(GBA)事件である、『平成18(ネ)10007 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 「図形表示装置及び方法事件」平成18年09月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060929110516.pdf)とは、異なる解釈手順を採用しているようですが、結果として、特許請求の範囲の構成要件の用語の意義を明細書の実施例に限定というか、明細書の開示範囲に限定して解釈している点では、同様な解釈をしているものと思います。
詳細は、本判決文を参照して下さい。