●昭和44年に出された知財事件の最高裁判決(1)

 本日は、昭和44年に出された知財事件で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決について、下記の通り、紹介します。


●『昭和41(オ)1360 意匠権侵害排除、損害賠償請求 意匠権 民事訴訟「地球儀型トランジスタラジオ意匠事件」昭和44年10月17日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/72BC53BDCBEF297649256A850031229D.pdf

・・・『 上告代理人若林清、同上野修の上告理由第一点について。

 原審の確定した原判示の事実関係は、挙示の証拠関係に徴し、首肯することができる。そして、右事実関係のもとにおいて、所論の丙第一号証にいう「all rights to the design of this radio」中の「all rights」(すべての権利)とは、訴外イー・エム・スチブンス・コーポレーシヨン(以下スチブンス社という。)と上告人ニユーホープ実業株式会社(以下上告会社という。)との間に締結された右丙第一号証による契約の対象となつた地球儀型トランジスターラジオ受信機の意匠についてのすべての権利を意味する、とした原審の解釈判断は、正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。


 同第二点について。

 旧意匠法(大正一〇年法律九八号)九条は、「意匠登録出願ノ際現ニ善意ニ国内ニ於テ其ノ意匠実施ノ事業ヲ為シ又ハ事業設備ヲ有スル者」があれば、その者に対し、同人が右要件を具備しているという事実自体にもとづき、当然に、当該意匠についての実施権、すなわちいわゆる先使用権を認める趣旨であると解するのが相当である。したがつて、訴外スチブンス社が本件意匠につき右法条所定の要件を具備している以上、同社が、上告人Aの右意匠登録出願の以前に、同上告人の代表する上告会社との間に、右意匠実施の事業に関し、所論の丙第一号証による契約を締結していた事実があるとしても、それが右スチブンス社に対し右意匠についての先使用権を認める妨げとなるべき理由はない。論旨は、独自の見解にもとづき原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。


 同第三点について。

 旧意匠法九条にいう「其ノ意匠実施ノ事業ヲ為シ」とは、当該意匠についての実施権を主張する者が、自己のため、自己の計算において、その意匠実施の事業をすることを意味するものであることは、所論のとおりである。しかしながら、それは、単に、その者が、自己の有する事業設備を使用し、自ら直接に、右意匠にかかる物品の製造、販売等の事業をする場合だけを指すものではなく、さらに、その者が、事業設備を有する他人に注文して、自己のためにのみ、右意匠にかかる物品を製造させ、その引渡を受けて、これを他に販売する場合等をも含むものと解するのが相当である。


 したがつて、以上と同旨の見解に立つて、訴外スチブンス社は、上告人Aが本件意匠の登録出願をする以前に、上告会社を介し、その意匠実施の事業をしていた者にあたる、とした原審の解釈判断は、正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は、原審の認定にそわない事実関係にもとづいて原判決を非難し、または、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない。


 同第四点について。

 被上告人らは、訴外スチブンス社の注文にもとづき、専ら同社のためにのみ、本件地球儀型トランジスターラジオ受信機の製造、販売ないし輸出をしたにすぎないものであり、つまり、被上告人らは、右スチブンス社の機関的な関係において、同社の有する右ラジオ受信機の意匠についての先使用権を行使したにすぎないものである、とした原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯することができる。そして、右事実関係のもとにおいて、被上告人らがした右ラジオ受信機の製造、販売ないし輸出の行為は、右スチブンス社の右意匠についての先使用権行使の範囲内に属する、とした原審の解釈判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした事実の認定を争い、または、原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。


 同第五点について。

 訴外スチブンス社が本件意匠について有する先使用権は、同社が上告会社との間に締結した所論の丙第一号証による契約自体の効果として認められたものではなく、右スチブンス社が上告会社との間に右契約を締結したうえ、上告会社を介して、右意匠実施の事業をし、旧意匠法九条所定の要件を具備した事実自体にもとづいて認められたものであることは、原判示に照らして、明らかであるから、右契約がその後解除され、消滅するに至つたとしても、そのことから直ちに右スチブンス社の右先使用権も消滅するに至つたものと解しなければならない理由はない。また、仮に右契約が解除された結果、右スチブンス社の右意匠実施の事業が一時中止されたことがあつたとしても、それをもつて直ちに同社の右事業が廃止され、右先使用権も消滅するに至つたものということはできない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない。


 同第六点について。

 訴外スチブンス社は、上告人Aが本件意匠の登録出願をした当時、右意匠の考案が自己に帰属するものと信じ、したがつて、それが他人に帰属することを知らないで、上告会社を介して、右意匠実施の事業をしていたものである、とした原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に徴し、首肯することができる。そして、右事実関係のもとにおいて、右スチブンス社は、上告人Aの右意匠登録出願の当時、旧意匠法九条にいう「善意ニ」右意匠実施の事業をしていた者にあたる、とした原審の解釈判断は、正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。』