●知財高裁第3部が今年出した進歩性についての判決4件

Nbenrishi2009-05-05

 本日は、一昨日、昨日取り上げた進歩性についての判決を含む、『知財高裁第3部が今年出した進歩性についての判決4件』という内容でまとめてみました。


 確か、昨年くらいから、知財高裁第3部の飯村敏明裁判長が判決文の最後の付言などで色々特許庁審判部に審理の手続等で注文を出していましたが、これら4件は、進歩性の判断の審理手続についての特許庁審判部への審理手続への注文のようです。


 なお、下記4件の判決は、全て、知財高裁第3部で、裁判長は飯村敏明裁判官で、他は齊木教朗裁判官と、嶋末和秀裁判官で構成されています。


(1)今年の2/1の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090201
●『平成20(行ケ)10096 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「回路用接続部材」平成21年01月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090129104737.pdf


・・・『(1) 特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。


 ところで,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。


 そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。


 さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。』、等と判示。


(2)3/26の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090326
●『平成20(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「任意の側縁箇所から横裂き容易なエァセルラー緩衝シート」平成21年03月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090326100032.pdf)


・・・『(ア) 容易想到性の判断について

 特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,特許発明について,当業者(その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者)が同条1項各号に該当する発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,通常,引用発明のうち,特許発明の構成とその骨格において共通するもの(以下「主たる引用発明」という。)から出発して,主たる引用発明以外の引用発明(以下「従たる引用発明」という。)及び技術常識ないし周知技術(その発明の属する技術分野における通常の知識)を考慮することにより,特許発明の主たる引用発明に対する特徴点(主たる引用発明と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として,判断されるべきものである。


 ところで,特許発明の特徴点(主たる引用発明と相違する構成)は,特許発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,特許発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,特許発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。


 そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的な思考方法,主観的な思考方法及び論理的でない思考方法が排除されなければならないが,そのためには,特許発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。


 さらに,特許発明が容易想到であると判断するためには,主たる引用発明,従たる引用発明,技術常識ないし周知技術の各内容の検討に当たっても,特許発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,特許発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であると解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10096号事件平成21年1月28日判決参照)。』、等と判示。


(3)5/3の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090503
●『平成20(行ケ)10121 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「切替弁及びその結合体事件」平成21年04月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090427160338.pdf)


・・・『まず,そもそも,審決は,本願発明に係る容易想到性の判断に関しては,単に,「引用発明と引用文献2に記載された発明は,蛇口に連絡する切換弁において,水路切換機構を回動させる手段である点で共通するものであるから,引用発明において,回動伝達部にラチェット機構を用いることで相違点イに係る本願発明の構成とすることは,当業者に容易である」との説示をするのみであって,引用発明2に着目した実質的な検討及び判断を示していない。


 特許法157条2項4号が,審決に理由を付することを規定した趣旨は,審決が慎重かつ公正妥当にされることを担保し,不服申立てをするか否かの判断に資するとの目的に由来するものである。


 特に,審決が,当該発明の構成に至ることが容易に想到し得たとの判断をする場合においては,そのような判断をするに至った論理過程の中に,無意識的に,事後分析的な判断,証拠や論理に基づかない判断等が入り込む危険性が有り得るため,そのような判断を回避することが必要となる(知財高等裁判所平成20年(行ケ)第10261号審決取消請求事件・平成21年3月25日判決参照)。


 そのような点を総合考慮すると,被告が,本件訴訟において,引用発明と引用発明2を組み合わせて,本願発明の相違点イに係る構成に達したとの理由を示して本願発明が容易想到であるとの結論を導いた審決の判断が正当である理由について,主張した前記の内容は,審決のした結論に至る論理を差し替えるものであるか,又は,新たに論理構成を追加するものと評価できるから,採用することはできない。』、等と判示。


(4)5/4の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090504
●『平成20(行ケ)10261 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「上気道状態を治療するためのキシリトール調合物事件」平成21年03月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090326102834.pdf)


・・・『特許法29条2項が定める要件は,特許を受けることができないと判断する側(特許出願を拒絶する場合,又は拒絶を維持する場合においては特許庁側)が,その要件を充足することについての判断過程について論証することを要する。


 同項の要件である,当業者が先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたとの点は,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断されるべきものであるから,先行技術の内容を的確に認定することが必要であることはいうまでもない。


 また,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであることが通常であるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。


 そして,容易想到性の有無の判断においては,事後分析的な判断,論理に基づかない判断及び主観的な判断を極力排除するために,当該発明が目的とする「課題」の把握又は先行技術の内容の把握に当たって,その中に無意識的に当該発明の「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことのないように留意することが必要となる。


 さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等の存在することが必要であるというべきである(知財高等裁判所平成20年(行ケ)第10096号審決取消請求事件・平成21年1月28日判決参照)。

 ・・・省略・・・

(イ) この点について,成分や用途に係る医薬品等に係る発明が存在する場合に,その投与量の軽減化,安全性の向上等を図ることは,当業者であれば,当然に目標とすべき解決課題といえるであろうし,そのための手段として格別の技術的要素を伴うことなく,課題を解決することができる場合もあり得よう。


 しかし,そのような事情があるからといって,審決が,本願発明の相違点1の構成は,引用例2の記載内容から容易であるとの理由を示して結論を導いている場合に,その理由付けに誤りがある以上,上記のような事情が存在することから直ちに審決のした判断を是認することは許されない。


 けだし,審決書の理由に,当該発明の構成に至ることが容易に想到し得たとの論理を記載しなければならない趣旨は,事後分析的な判断,論理に基づかない判断など,およそ主観的な判断を極力排除し,また,当該発明が目的とする「課題」等把握に当たって,その中に当該発明が採用した「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことを回避するためであって,審判体は,本願発明の構成に到達することが容易であるとの理解を裏付けるための過程を客観的,論理的に示すべきだからである。』、等と判示。