●平成21(ワ)4394 損害賠償「開き戸の地震時ロック方法事件」(2)

 本日も、昨日に続いて、『平成21(ワ)4394 損害賠償 特許権 民事訴訟「開き戸の地震時ロック方法」 平成21年04月27日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090428140241.pdf)について取り上げます。


 本件では、サポート要件違反についての判断も参考になります。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 島村雅之、裁判官 北岡裕章)は、


2 争点2−2(サポート要件違反)について

 被告は,構成要件Dの「開き戸の自由端でない位置」との構成が本件明細書に記載されておらず,サポート要件を充たさないとも主張するので検討する。


(1) 特許請求の範囲の記載

 本件各特許発明においては,地震時ロック装置の取付位置について,「開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付け」(構成要件D)と記載されているのみであり,「開き戸の自由端でない位置」の具体的範囲については何らの記載も示唆もないことから,かかる意味を字義どおりに解釈すると,「自由端」とみなし得る程度に自由端にごく近接した領域を除く自由端に近接した位置から蝶番に近接する位置までをも含むものと解することになる。そこで,かかる構成が発明の詳細な説明に記載されているかについて検討する。


(2) 発明の詳細な説明の記載等

 本件明細書(甲1)には,前記1(2)の記載のほか以下の記載がある。

 ・・・省略・・・

(3) 検討

 段落【0002】及び【0003】(前記1(2)ア・イ)によれば,本件各特許発明は,作動が確実な開き戸の地震時ロック方法の提供を目的とするものと位置づけられており,段落【0005】(同エ)によれば,開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に地震時ロック装置を取り付けるという構成要件Dの構成を採用することにより,「開き戸の動きが最も大きい自由端ではないため地震時のロックが確実になる」との効果を奏するとされている。


 しかし,同段落は,自由端は開き戸の動きが最も大きくなることから,自由端には取り付けないということを消極的に示したにすぎず,取付位置が自由端でさえなければ,天板下面のあらゆる位置において地震時のロックが確実になるという効果を奏し得ると解することはできない。


 また,段落【0009】においては,「図5は本発明の方法を示し,該方法は開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける点に重要な特徴がある」,「地震時ロック装置を開き戸(2)の自由端から蝶番側へ離れた位置に取り付けると開き戸(2)の動きが少なくなるためロック機構にとってロックが確実になる」と記載されており,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏する取付位置として「自由端から蝶番側へ離れた位置」という位置が開示されるとともに,図5の「ロック装置」の位置が例示されている(ただし,同段落の記載からは「自由端から蝶番側へ離れた位置」の具体的範囲を窺い知ることはできない。)。


 かかる記載 によれば,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏するためには,自由端から蝶番側へ一定程度離れた位置にロック装置を取り付けなければならないものと解され,自由端ではないが自由端に近接した位置では,開き戸の動きが多少小さくなるものの,自由端に取り付けた場合とほぼ変わらず,依然としてその動きは大きいものと解することができるから,自由端に取り付けた場合と同様にロックが不安定となるおそれがあり,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏するとは認められない。


 この点,同段落では,「図6に示されるT,B,S1,S2及びS3位置(その他の実施例もあるが)は一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能であることを示す。しかし本発明の方法は図5において説明した通りT位置にロック装置を取り付けるのである(すなわち開き戸(2)の自由端でない位置にロック装置を取り付けるのである)。」と記載されており,図6にはT位置が例示されている。


 しかし,図6は「一般的に地震時ロック装置の取り付け位置として選択可能である」位置を示すものであるから,一般的に選択され得る位置としてのB位置(底板上面)や,S位置(側板内面)ではなく,天板下面としてのT位置に地震時ロック装置を取り付けることを示すものにすぎないと解するのが自然である。すなわち,T位置について,段落【0009】末尾の括弧書において「自由端でない位置」と説明されているが,その一方で,T位置は,前記図5の「ロック装置」の位置より,相対的に自由端に近い位置にある。


 しかも,開き戸の動きが小さくなる「自由端から蝶番側へ離れた位置」を超えて,開き戸の動きが殆ど小さくならない自由端に近接した位置でもなお「地震時のロックが確実になる」との効果を奏し得ることを示す具体的な根拠は何ら示されていないのであるから,T位置の開示をもって地震時のロックが確実になる取付位置を示したものとは解し難い。


 このように,本件明細書の発明の詳細な説明では,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏することにより本件各特許発明の課題を解決することができると当業者が認識できるように記載された取付位置は,あくまで「自由端から蝶番側へ(一定程度)離れた位置」であり,「自由端でない位置」との特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるというべきである。


(4) 原告の主張について

 これに対し,原告は,たとえ自由端に近接した位置であっても,自由端に位置する場合より開き戸の動きはわずかでも少なくなるから作動が確実となり,課題解決のための効果はあると主張するが,前記(3)で説示したとおり,自由端に近接した位置では,開き戸の動きが自由端に取り付けた場合とほぼ変わらず大きいことから,自由端に取り付けた場合と同様にロックが不安定となるおそれがあり,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏することができるとは認められない。


 また,原告は,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏する取付位置は,当業者が試行錯誤をしてみれば極めて容易に判明すると主張するが,かかる主張は「自由端でない位置」という特許請求の範囲の記載が本件明細書で記載された課題解決の手段である「自由端から蝶番側へ(一定程度)離れた位置」を超えるものであることに対する反論にはなっておらず,失当である。


 仮に,係止手段の大きさや地震検出感度,地震時の係止手段の作動速度や作動時間,開き戸の開口の大きさ,並びに地震時の開き戸の開口速度や開口時間等の条件が明らかであれば,当業者にとって,技術常識に照らし,一定の位置を特定することも可能であるといえるが,本件明細書には,これらの諸条件の記載や示唆すら全くないのである。


 さらに,原告は「自由端でない位置」では課題を解決する手段として十分でなくても「押すまで閉じられずわずかに開かれた」との構成, 要件により作動が確実との課題を解決できるとも主張するが,そのようなことは本件明細書の発明の詳細な説明において何ら記載されていない。


 また,段落【0005】の「開き戸の動きが最も大きい自由端ではないため地震時のロックが確実になる」との記載によれば,取付位置は確実に係合する(ひっかける)ための構成と位置づけられるところ,原告の主張によれば「押すまで閉じられずわずかに開かれた」という構成は,一旦係合した後の係合状態を維持するためものと解されるから,かかる構成をもって,自由端に近接した位置における係合が確保できるとは解されない。


(5) 小括

 以上より,構成要件Dの「自由端でない位置」との記載は,発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであり,特許法36条6項1号の定めるサポート要件を充たすとは認められない。


 よって,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,特許法104条の3により,原告は被告に対し,本件特許権を行使することができない。


3 結論

 以上の次第で,原告の請求は,その余について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。