●平成20(行ケ)10380 審決取消請求事件 商標権「ラブコスメ事件」

 本日は、『平成20(行ケ)10380 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「ラブコスメ事件」平成21年04月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090427161410.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標法4条1項11号を理由とする商標登録無効審決の取り消しを求めた審決取り消し訴訟で、その請求が認容され、審決が取り消された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号における商標の類否について、特許庁審判官とは逆の判断になっており、しかも最高裁判決4件を引用して判断している点で、商標実務上、とても参考になる重要な事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、


『当裁判所は,本件商標は,本件各引用商標のいずれにも類似しないから,商標法4条1項11号に該当しないと判断する。その理由は,以下のとおりである。


商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり最高裁昭和39年(行ツ)第110号昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号平成20年9月8日第二小法廷判決参照)。


 以下,本件商標と本件各引用商標との類否を判断するに当たって,上記の観点を考慮して,本件商標の要部(識別機能を有する部分)について,考察をする。


(1) 本件商標について

 本件商標は,「ラブコスメ」の片仮名文字を標準文字により表記し,指定商品を第3類「化粧品」として,平成18年3月13日に登録出願され,平成19年4月20日登録査定がされ,同年5月11日に設定登録されたものである。


ア 本件商標のような片仮名5文字からなる商標が,複数の構成部分を組み合わせたいわゆる結合商標と解されるか否かは,総合的な検討を加えた結果として,はじめて判断することができるものであって,本件商標が結合商標に該当するとの所与の前提をおいて検討するのは妥当でないが,本件では,差しあたり,審決の判断内容及び当事者の主張に即して,「ラブ」の部分と「コスメ」の部分に分けて,順次検討することとする。


イ まず,本件商標の構成中の「ラブ」の部分について検討する。


 「ラブ」の語は,名詞としては「愛」,「愛情」,「好意」など,動詞としては「人を愛する」,「恋をする」,「好きになる」などを指す,我が国では,よく知られた語である。


 次に,本件商標の構成中,「コスメ」の部分について検討する。「cosmetic」ないし「コスメチック」は,「化粧品」を指す英語ないしその片仮名表記であることが認められるが(株式会社岩波書店広辞苑」第3版・乙9),それらの語が,我が国において,本件登録出願及び登録査定のときに,化粧品を指す語であることが,一般に認識されていたとは,認められない。そして,「コスメ」は,ファッション,化粧品関連の雑誌,図書,通信販売用カタログ・パンフレット等において,化粧品を指す語として,使用されていること,美容に関心のある一部女性の中では,化粧品を指す語として,理解されていることが推認できるが(乙11ないし31,乙103〜144),他方,「cosmetic」ないし「コスメチック」が,一般に知られていないことを考慮すると,本件全証拠によっても,「コスメ」の語が,我が国において,化粧品を指す「cosmetic」ないし「コスメチック」の語の省略であることが認識されているとまではいえない。


ウ 本件商標は,「ラブコスメ」の片仮名文字を標準文字により,一連に表記したものであり,その音数は5音であって,ごく短いものであることに照らすと,本件商標に接した需要者及び取引者は,これを一連一体のものとして認識,理解する。本件商標からは,片仮名横書きの「ラブコスメ」との外観を生じ,「ラブコスメ」の称呼を生じ,これを更に短縮した「ラブ」との称呼を生ずると解するのは不自然である。


 また,前記検討したとおり,「コスメ」が,化粧品を指すものとして,我が国において,一般的に認識理解されているとまではいえないこと,本件商標が,ごく短い語からなる商標であることに照らすならば,本件商標の一部である「ラブ」のみによって識別されるということができない。全体として造語であるため,使用態様及び需要者により,「愛情・愛に関連する化粧品」などの観念を生ずる余地は否定できないものの,多様な観念を生ずる可能性があり,その意味で特定の観念は生じない。


(2) 本件各引用商標について

 本件各引用商標は,引用商標1ないし6から,順に,(i)欧文字「Love」(Lが大文字,他の文字は小文字)を,特有の書体による横書きで表記したものであり,「v」の右上先端部に,「' 」が付された特有の形状,(ii)欧文字「LOVE」(すべて大文字)を横書きで表記した形状,(iii)片仮名「ラブ」を横書きで表記した形状,(iv)上段に欧文字「Love」(Lが大文字,他の文字は小文字)を特有の書体で表記し,下段に片仮名「ラブ」を表記した形状,(v)L字状の図形を左から右下方に大きく表記し,欧文字「ove」(すべて小文字)をその右側に表記した形状,(vi)片仮名「ラブ」を上段に,欧文字「LOVE」(すべて大文字)を下段に,上下二段に横書きで表記した形状から成るものである。


 本件各引用商標からは,上記認定したとおりの外観を生じ,このうち,引用商標2ないし4,6からは,「ラブ」の称呼を,また,「愛」,「愛情」,「好意」,「人を愛する」,「恋をする」,「好きになる」などの観念を生ずる(なお,引用商標1及び5からは,必ずしも,「ラブ」の称呼及び上記の観念のみを生ずるか否かについては,確定することができな
い。)。


 そして,指定商品中の「化粧品」が,「美しく見えるよう,飾ったりするために用いるクリーム,洗顔剤などの商品」であることに照らすならば,「ラブ」の構成(引用商標2ないし4,6中の「ラブ」の称呼を生ずる部分を含む。以下同じ。)は,指定商品中の「化粧品」と,直接的な関連性があるとまではいえないが,密接な関連性を有する語であるということができる。


 そのような指定商品との関連性を考慮すると,「ラブ」の構成は,指定商品中の「化粧品」等に用いられる場合は,当然には,強い識別力・排他力を持つ語であるということはできない。


(3) 本件商標及び本件各引用商標の使用態様

 ・・・省略・・・

(4) 本件商標と本件各引用商標の類否について


ア 判断

(ア) 外観及び称呼

 本件商標は,「ラブコスメ」の片仮名文字を標準文字により,一連に表記したものであり,その音数は5音であって短く,本件商標に接した需要者及び取引者は,これを一連一体に認識,理解するものと解するのが相当であるから,本件商標からは,片仮名横書きの「ラブコスメ」との外観及び称呼を生じる。


 他方,本件各引用商標は,引用商標1ないし6から,順に,(i)欧文字「Love」(Lが大文字,他の文字は小文字)を,特有の書体による横書きで表記したものであり,「v」の右上先端部に,「'」が付された特有の形状,(ii)欧文字「LOVE」(すべて大文字)を横書きで表記した形状,(iii)片仮名「ラブ」を横書きで表記した形状,(iv)上段に欧文字「Love」(Lが大文字,他の文字は小文字)を特有の書体で表記し,下段に片仮名「ラブ」を表記した形状,(v)L字状の図形を左から右下方に大きく表記し,欧文字「ove」(すべて小文字)をその右側に表記した形状,(vi)片仮名「ラブ」を上段に,欧文字「LOVE」(すべて大文字)を下段に,上下二段に横書きで表記した外観を示し,このうち,引用商標2ないし4,6からは,「ラブ」の称呼を生じる。


 したがって,本件商標と本件各引用商標は,外観及び称呼において,類似しない。


(イ) 観念

 本件商標からは,使用態様及び需要者により,「愛情・愛に関連する化粧品」などの観念を生ずる余地は否定できないものの,多様な観念を生ずる可能性があるといえる。他方,本件各引用商標のうち,引用商標2ないし4,6からは,「愛」,「愛情」,「好意」,「人を愛する」,「恋をする」,「好きになる」などの観念を生ずる(なお,引用商標1及び5からは,必ずしも,上記の観念のみを生ずるか否かは定かではない。)。本件商標と本件各引用商標は,観念において,必ずしも類似するとはいえない。


(ウ) 取引の実情等

 本件商標に係る指定商品は,主にインターネット等を利用した通信販売の形態により購入する需要者を対象としている。


 これに対し,本件各引用商標に係る商品は,使用態様を示す具体的な証拠がないので,必ずしも明らかでないが,化粧品を使用する女性の需要者を中心としているものと推認される。両者を比較すると,その取引態様に特殊性はあるものの,大きな相違があるか否かは明らかでない。


 そして,前記のとおり,指定商品中の「化粧品」が,「美しく見えるよう,飾ったりするために用いるクリーム,洗顔剤などの商品」であることに照らすならば,本件各引用商標中の「ラブ」の構成は,指定商品中の「化粧品」と,直接的な関連性があるとまではいえないが,密接な関連性を有する構成であるということができ,そのような指定商品との関連性を考慮するならば,「ラブ」の構成は,指定商品中の「化粧品」等に用いられた場合,「ラブ」を含むあらゆる商標に対しても,当然に,強い排他力を持つ構成部分であるということはできない。


 本件商標の出願時ないし商標登録査定時における本件各引用商標の取引や使用等の実情に大きく左右されるものというべきであるが,被告は,本件各引用商標が使用されていた実情を必ずしも,明らかにしているとはいえない。


 以上のとおり外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合し,商品に係る前記認定に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すると,本件指定商品の出所が本件各引用商標の商標権者である被告であるとの誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできず,本件商標と本件各引用商標とは,全体として類似する商標であるとはいえない。


イ 被告の主張及びその他の点について

 被告は,化粧品の取引や需要者間においては,周知・著名商標に,続けて「コスメ」を付加することが慣行的に行われる例があることから,需要者は,本件商標「ラブコスメ」が付された化粧品を見た場合には,「ラブ」の商標を有する被告の化粧品であると認識すると主張する。


 しかし,本件全証拠によるも,本件商標が出願され,登録査定された,平成18年3月13日ないし平成19年4月20日ころに,本件商標が付された化粧品等に接した場合,取引者が「ラブ」を商標とする化粧品であると認識される程度に,本件各引用商標の「ラブ」の構成が周知・著名であったと認めることは到底できず,この点の被告の主張は採用できない。


 なお,知的財産高等裁判所平成20年5月28日判決(平成20年〔行ケ〕10042号事件)においては,「アンダーラインを挟んで上段に大きく「Love cosmetic」の欧文字及び下段に小さく「for two persons who love」の欧文字とを2段に表し,その下部に「ラブコスメティック」の片仮名文字を横書きし,上部に左方向に横向きのハート状図形を配した図形について,引用商標2ないし6と類似するとの判断がされている(乙101)。しかし,上記商標は「Love cosmetic」の文字部分の「Love」と「cosmetic」との間に間隙が存在すること,一連一体に把握することが困難な商標であること等,本件商標と相違するものであるから,互いに判断の結果が相違しても,齟齬があるものとはいえない。


 そうすると,本件商標と本件各引用商標が類似するとした審決の判断は,誤りである。


2 結論

 以上によれば,原告の本訴請求は理由があるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。


 なお、本判決中で引用している最高裁判決は、

●『昭和39(行ツ)110 商標登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求 商標権 行政訴訟、「氷山印事件」昭和43年02月27日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C20EFADEA9BCA1F249256A850031236C.pdf)

●『昭和37(オ)953 審決取消請求 商標権 行政訴訟「リラ宝塚事件」昭和38年12月05日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/4BFC935227B9ABB049256A850031610C.pdf)

●『平成3(行ツ)103 審決取消 商標権 行政訴訟「SEIKO EYE事件」平成5年09月10日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B940661E2BD9E6D949256A8500311E55.pdf)

●『平成19(行ヒ)223 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「つつみのおひなっこや事件」平成20年09月08日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080908110917.pdf)

 であります。

 
 追伸;<気になった記事>

●『BD課金、5月22日スタートへ 経産省と合意、見直しの可能性も』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090427-00000044-zdn_n-sci
●『クアルコム、8億9100万ドルの支払いで和解--Broadcomとの特許訴訟』http://www.yomiuri.co.jp/net/news/cnet/20090427-OYT8T00839.htm
●『クアルコムブロードコムが和解合意、特許契約を締結』http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djCTU3530.html
●『後発薬、承認対象を拡大 厚労省方針、特許の基準明確に』http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20090420AT3S1702P18042009.html