●平成20(行ケ)10411 審決取消請求事件 商標権「皇寿ドリンク」

 本日は、『平成20(行ケ)10411 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「皇寿ドリンク」知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090317150927.pdf)について取上げます。


 本件は、商標法4条1項11号を理由とする拒絶審決の取消しを求めたもので、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号における商標の類否の判断、および商標法4条3項の適用の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 杜下弘記、裁判官 榎戸道也)は、


1 取消事由1(類否についての判断の誤り)について


(1)本願商標と引用商標が,それぞれ上記第2の1(1)及び2(1)に記載したとおりのものであり,これらの指定商品が同一又は類似することについては,当事者間に争いがないところ,両商標の指定商品である「清涼飲料」及び「清涼飲料のもと,アイソトニック飲料,果実飲料」の取引者,需要者には,当該商品の性格に照らすと,これらの飲料及び「飲料のもと」を取引する業者のほか,これらの飲料及び「飲料のもと」を購入する一般消費者も含まれるものと認められる。


 したがって,本願商標と引用商標が,これらの商標が付された商品の出所について誤認混同を生じさせるものとして類似するかどうかを検討するに当たっては,上記の取引者,需要者の認識を踏まえる必要があるというべきである。


 以下,本願商標と引用商標の類否について検討する。


(2)本願商標の構成(皇寿ドリンク)のうち,「ドリンク」の部分は本願商標の指定商品に係る商品の普通名称を表す語として理解されるものであるから,本願商標において自他識別力を発揮する部分は「皇寿」の部分であると認められるから(この点について原告は明らかに争わない。),本願商標からは,「コウジュドリンク」,「コージュドリンク」のほか,「コウジュ」及び「コージュ」の称呼が生じるものというべきである。そして,引用商標からその記載のとおり「コージュ」の称呼が生じることは明らかであるから,本願商標と引用商標は称呼において同一であると認められる。なお,原告は両商標からは共に「コウジュ」の称呼が生ずると主張するが,前記のような両商標に係る指定商品及び取引者,需要者からみて,「コウジュ」と「コージュ」が常に厳密に識別可能であるとは認めがたい上,仮に,原告主張の称呼が生ずるものであるとしても,これにより格別の際が生ずるものとは解されない。


 そして,本願商標が漢字(皇寿)及び片仮名(ドリンク)を書して成るものであるのに対して,引用商標は片仮名(コージュ)を書して成るものであるから,本願商標と引用商標の外観は異なるものである。


 また,1999(平成11)年10月1日株式会社三省堂発行の「大辞林第二版新装版」(846頁)によると「皇寿」について「111歳。また,その祝い。」と記載されていることからすると,本願商標(皇寿)からは「111歳」又は「111歳のお祝い」の観念が生じ得るのに対して,引用商標の「コージュ」は造語であると認められ,引用商標(コージュ)からは特段の観念を生じないものと認められる。


 したがって,本願商標と引用商標は,称呼において同一であり,外観を異にするとともに,観念において比較することができないものであるということができる。


 そこで,外観の相違についてみるに,両商標はいずれも格別の特徴を有しない文字から成る商標であり,わが国において外来語以外においても同一語の漢字表記とカタカナ語表記が併用されることがまま見られる事情を考慮すると,いずれかの外観が他方のそれに比して両者が別異の商品であることを認識せしめるほどの特段の強い印象を与えるものであるとはいえない。また,観念については,「皇寿」が,例えば,「喜寿」(77歳のお祝い)又は「米寿」(88歳のお祝い)などと同様に広く一般に知られた語であるとは認められない(例えば,1998(平成10)年11月11日株式会社岩波書店発行の「広辞苑第五版」には「皇寿」の語は収載されていない。)から,本願商標及び引用商標の取引者,需要者の視点において,「皇寿」から生じ得る「111歳」又は「111歳のお祝い」との観念について重視することはできないというべきである。


(3) ところで,上記(1)のとおり,本願商標及び引用商標の指定商品は価格も比較的低廉な日常消費物資であって,その取引者,需要者には,広く一般消費者も含まれるのであり,これらの者が,例えば,陳列棚に貼付された表示札や多数の商品とともに掲載された宣伝広告チラシなどの記載によって商品の同一性を識別するに際して,商品の名称,すなわち称呼が極めて重要な要素となることは明らかである。


 そうすると,本願商標と引用商標の指定商品に係る商品の取引者,需要者による取引の実情を考慮すれば,本願商標と引用商標の類否を判断するに当たっては,外観及び観念に比して称呼を重視すべきことが明らかであり,上記(2)のとおり,本願商標と引用商標は称呼において同一であり,外観や観念から生ずる識別力が微弱であるから,引用商標と同一の称呼を生じる本願商標を付した商品を引用商標を付した商品と誤認混同するおそれがあるものと認められる。

 したがって,本願商標と引用商標は類似するものであり,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはないから,取消事由1は理由がない。


 なお,原告は,称呼を共通にするものでも外観及び観念において明らかに相違する場合は非類似と判断されるべきである旨主張するが,本願商標と引用商標の称呼,外観及び観念並びに類否の判断に当たって重視されるべき点等については上記に説示したとおりであるから,原告の主張を採用することはできない。


2 取消事由2(引用商標の評価の誤り)について


 原告は,引用商標に係る商標登録について,商標法50条1項に基づく不使用取消審判を請求したことを理由として,本願商標が商標法4条1項11号に該当しないものとなる旨主張する。


 乙第7号証によると,原告による上記商標登録の取消しの審判の請求の登録の日は平成20年11月20日であると認められるところ,仮に,同審判において引用商標に係る商標登録を取り消す旨の審決がされ,同審決が確定すると,引用商標に係る商標登録の取消しの効果は,上記登録の日から生ずることになる。


 原告は,以上の関係を踏まえ,本件審決は未確定であるから,その審決日も同様に未確定であり,そうだとすると,仮に,引用商標が本件商標に類似するとしても,不使用取消の結果,審決時,引用商標の登録は存在しないことになるから,本件審決の取消しは免れないと主張する。


 しかしながら,商標法4条3項は,商標登録の可否を決する基準日を規定するところ,同項は,審決時に同条1項8号,10号,15号,17号及び19号に該当する商標については,登録出願時に上記各号に該当しなければその適用を排除する旨を定めたものである。このことは,上記各号以外の不登録事由の存否については審決時を判断の基準日とすることを定めたものと解すべきところ,原告の主張のように,審決時が審決取消訴訟の提起により浮動的状態になるものとすれば,上記規定の趣旨は没却されてしまうのであるから,上記主張は到底採用することはできない。


 したがって,原告の主張は失当であり,取消事由2は理由がない。


第6 結論

 以上のとおり,取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却するべきである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。