●昭和59年に出された知財事件の最高裁判決(1)

 本日は、昭和59年に出された知財事件で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決2について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『昭和56(オ)1166 不正競争行為差止等本訴、損害賠償反訴 不正競争 民事訴訟フットボール事件」昭和59年05月29日 最高裁判所第三小法廷 』http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/7D60920BC1DEBAB749256A8500311F6E.pdf


 ・・・『 同第三点について

 ある営業表示が不正競争防止法一条一項二号所定の他人の営業表示と類似のものにあたるか否かについては、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両表示を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきものであることは当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和五七年(オ)第六五八号同五八年一〇月七日第二小法廷判決・民集三七巻八号登載予定)、また、ある商品表示が同項一号所定の他人の商品表示と類似のものにあたるか否かの判断についても、前示営業表示の類似判断の場合と同一の基準によるべきものと解するのが相当である。


 ・・・省略・・・


 同第四点について

 不正競争防止法一条一項一号又は二号所定の他人には、特定の表示に関する商品化契約によつて結束した同表示の使用許諾者、使用権者及び再使用権者のグループのように、同表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれるものと解するのが相当であり、また、右各号所定の混同を生ぜしめる行為には、周知の他人の商品表示又は営業表示と同一又は類似のものを使用する者が、自己と右他人とを同一の商品主体又は営業主体と誤信させる行為のみならず、自己と右他人との間に同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存するものと誤信させる行為をも包含し、混同を生ぜしめる行為というためには両者間に競争関係があることを要しないと解するのが相当である。


  これを本件についてみるに、前示原審の確定した事実関係によれば、被上告人ら及び再使用権者のグループは不正競争防止法一条一項一号又は二号所定の他人にあたるものというべきであり、また、右グループの中にロツカーを販売する者がいないとしても、上告人の本件ロツカーを販売する行為は、右グループと上告人との間に同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させるものと認められるから、右各号所定の他人の商品又は営業活動と混同を生ぜしめる行為に該当するものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。


 同第五点について

 意匠に係る物品の販売行為が形式的には意匠権の行使と認められるものであつても、それが権利の濫用にあたるものであるときには、右物品の販売行為は、不正競争防止法六条所定の意匠法による権利の行使には該当しないものと解するのが相当である。


  これを本件についてみるに、原審の確定したところによれば、(1) 本件表示は、昭和五〇年初め頃にはわが国において被上告人ら及び再使用権者のグループの商品表示又は営業表示として広く認識されるに至つたものであるところ、上告人は、昭和五〇年八月頃、本件表示の持つ強い顧客吸引力を利用する意図のもとに、第三者に本件ロツカーのデザインの作成を依頼してこれを完成させ、同年一一月中旬に本件ロツカーの販売を開始した、(2) 被上告人らは、上告人の本件ロツカーの販売当初から、上告人に対し不正競争防止法に基づきその販売の差止を請求しうる地位を取得していた、(3) 被上告人ソニー企業は、昭和五〇年一一月末頃、上告人に対し、本件ロツカーの販売は不正競争防止法一条一項一号及び二号に該当する旨警告するとともに、その販売を取り止めるよう要求した、(4) 上告人は、右警告及び要求を無視するとともに、当然予想される被上告人らの不正競争防止法に基づく差止請求等を免れるため、その対抗措置として、昭和五一年四月一日に本件ロツカーに係る形状及び模様の結合意匠について意匠登録出願をし、昭和五三年九月二〇日に意匠登録を受けた、というのである。右事実関係によれば、上告人の本件ロツカーの販売行為は、形式的には右登録意匠の実施にあたるとしても、権利の濫用にあたるものと解されるから、不正競争防止法六条所定の意匠法による権利の行使には該当しないものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。


 同第六点及び第七点について

 不正競争防止法一条一項柱書所定の営業上の利益を害されるおそれがある者には、周知表示の商品化事業に携わる周知表示の使用許諾者及び許諾を受けた使用権者であつて、同項一号又は二号に該当する行為により、再使用権者に対する管理統制、周知表示による商品の出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害されるおそれのある者も含まれるものと解するのが相当である。


  これを本件についてみるに、前示原審の確定したところによれば、被上告人らは、周知表示である本件表示の商品化事業に携わる周知表示の使用許諾者及び使用権者であるところ、上告人の不正競争防止法一条一項一号又は二号に該当する行為により、再使用権者に対する管理統制、本件表示による商品の出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害されるおそれがある者であるというのであるから、同項柱書所定の営業上の利益を害されるおそれがある者に該当するものというべきであつて、同項及び同法一条ノ二の各規定に基づいて差止請求及び損害賠償請求をすることのできる地位にあるものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。』、等と判示した最高裁判決。



●『昭和57(行ツ)27 審決取消 実用新案権 行政訴訟「耕耘機に連結するトレーラーの駆動装置事件」昭和59年04月24日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/E2E9FA8B80B5DC7349256A8500311F74.pdf)


 ・・・『 実用新案権者が実用新案法三九条一項の規定に基づいて請求した訂正審判すなわち実用新案登録出願の願書に添附した明細書又は図面を訂正することについての審判の係属中に、当該実用新案登録を無効にする審決が確定した場合は、同法四一条によつて準用される特許法一二五条の規定により、同条ただし書にあたるときでない限り、実用新案権は初めから存在しなかつたものとみなされ、もはや願書に添附した明細書又は図面を訂正する余地はないものとなるというほかはないのであつて、訂正審判の請求はその目的を失い不適法になると解するのが相当である。


 実用新案法三九条四項の規定は、その本文において、実用新案権の消滅後における訂正審判の請求を許し、ただし書において、審判により実用新案登録が無効にされた後は、訂正審判の請求を許さないものとしているのであるが、その趣旨とするところは、同法三七条二項の規定が、過去において有効に存在するものとされていた実用新案権が存続期間の満了等によつて消滅し現在においては権利として存続していない状態となつていても無効審判の請求を許すこととしているので、これに対応して、実用新案権者に対し、右のように実用新案権が消滅した場合にも無効審判の請求に対する対抗手段としての機能を有する訂正審判の請求をすることができるものとしたことにあるのであつて、実用新案登録を無効にする審決の確定により実用新案権が初めから存在しなかつたものとみなされる場合については、訂正審判の請求はその目的を失うので、右ただし書は、このような場合について訂正審判の請求を許さないことを明らかにしたものと解されるのである。してみれば、右ただし書の規定は、無効審決が確定した後に新たに訂正審判の請求をする場合にその適用があるのはもとより、実用新案権者の請求した訂正審判の係属中に無効審決が確定した場合であつてもその適用が排除されるものではないというべきである。


 したがつて、訂正審判の請求について、請求が成り立たない旨の審決があり、これに対し実用新案権者が提起した取消訴訟の係属中に、当該実用新案登録を無効にする解決が確定した場合には、実用新案権者は、右取消訴訟において勝訴判決を得たとしても訂正審判の請求が認容されることはありえないのであるから、右審決の取消を求めるにつき法律上の利益を失うに至つたものというべきである。


 これを本件についてみると、上告人は、本件実用新案権者としてその出願の願書に添附した明細書の訂正の審判を請求したが、その請求が成り立たないとする本件審決を受け、本訴によりその取消を求めているものであるところ、記録によれば、本件実用新案登録については、実用新案法三条の規定に違反してされたものであり、同法三七条一項一号の規定に該当するとしてその登録を無効にする審決が昭和五五年五月一日に確定したことが明らかであるから、これによつて、上告人は、本件審決の取消を求めるにつき法律上の利益を失うに至つたものというべきである。そうすると、本件訴えは、不適法として却下すべきであり、これを適法として本案につき判断をした原判決は、破棄を免れない。』、等と判示した最高裁判決。