●平成20(許)36 「秘密保持命令申立て・・・許可抗告事件」最高裁

 本日は、今年最初の知財関連の最高裁事件である、●『平成20(許)36 秘密保持命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成21年01月27日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090130095414.pdf)について取り上げます。


 本最高裁判決では、特許権又は専用実施権の侵害差止めを求める仮処分事件は,特許法105条の4(秘密保持命令)第1項柱書き本文に規定する「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟」に該当し,上記仮処分事件においても,秘密保持命令の申立てをすることが許されると解するのが相当である、と判示されました。


 本最高裁判決の内容は、以下の通りです。


『               主  文


 原決定を破棄し,原々決定を取り消す。
 本件を東京地方裁判所に差し戻す。

 
                理  由


 抗告代理人大野聖二ほかの抗告理由について


1 本件は,特許権の侵害差止め等を求める仮処分命令申立事件において,特許法105条の4第1項に基づく秘密保持命令の申立てが許されるか否かが争われている事案である。


2 記録によれば,本件の経緯の概要は,次のとおりである。


(1) A(以下「A」という。)は,抗告人に対し,抗告人による液晶テレビ及び液晶モニターの輸入,販売等がAの保有する特許権を侵害すると主張して,これらの行為の差止め等を求める仮処分命令の申立てをした(以下,この申立てに係る事件を「本件仮処分事件」という。)。本件仮処分事件においては,債務者である抗告人が立ち会うことができる審尋の期日が開かれている。



(2) 抗告人は,本件仮処分事件において提出することを予定している準備書面等に抗告人の保有する営業秘密が記載されているとして,特許法105条の4第1項に基づき,上記営業秘密について,Aの代理人又は補佐人である相手方らに対する秘密保持命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした。


3 原審は,特許法105条の4第1項柱書き本文に規定する「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟」には,特許権の侵害差止めを求める仮処分事件は含まれないから,本件仮処分事件において秘密保持命令の申立てをすることはできない旨判示して,本件申立てを却下すべきものとした。


4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。


 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において,提出を予定している準備書面や証拠の内容に営業秘密が含まれる場合には,当該営業秘密を保有する当事者が,相手方当事者によりこれを訴訟の追行の目的以外の目的で使用され,又は第三者に開示されることによって,これに基づく事業活動に支障を生ずるおそれがあることを危ぐして,当該営業秘密を訴訟に顕出することを差し控え,十分な主張立証を尽くすことができないという事態が生じ得る。


 特許法が,秘密保持命令の制度(同法105条の4ないし105条の6,200条の2,201条)を設け,刑罰による制裁を伴う秘密保持命令により,当該営業秘密を当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用すること及び同命令を受けた者以外の者に開示することを禁ずることができるとしている趣旨は,上記のような事態を回避するためであると解される。


 特許権又は専用実施権の侵害差止めを求める仮処分事件は,仮処分命令の必要性の有無という本案訴訟とは異なる争点が存するが,その他の点では本案訴訟と争点を共通にするものであるから,当該営業秘密を保有する当事者について,上記のような事態が生じ得ることは本案訴訟の場合と異なるところはなく,秘密保持命令の制度がこれを容認していると解することはできない。


 そして,上記仮処分事件において秘密保持命令の申立てをすることができると解しても,迅速な処理が求められるなどの仮処分事件の性質に反するということもできない。


 特許法においては,「訴訟」という文言が,本案訴訟のみならず,民事保全事件を含むものとして用いられる場合もあり(同法54条2項,168条2項),上記のような秘密保持命令の制度の趣旨に照らせば,特許権又は専用実施権の侵害差止めを求める仮処分事件は,特許法105条の4第1項柱書き本文に規定する「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟」に該当し,上記仮処分事件においても,秘密保持命令の申立てをすることが許されると解するのが相当である。


5 以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,原々決定を取り消した上,更に審理を尽くさせるため,本件を原々審に差し戻すこととする。


 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)』