●平成3年に出された知財事件の最高裁判決

 本日は、平成3年に出された知財事件で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決3件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●昭和63(行ツ)37 審決取消 商標権 行政訴訟「シェ・トワ事件(不使用取消審判事件)」平成3年04月23日 最高裁判所第三小法廷(』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121147751740.pdf


・・・『商標登録の不便用取消審判で審理の対象となるのは、その審判請求の登録前三年以内における登録商標の使用の事実の存否であるが、その審決取消訴訟においては、右事実の立証は事実審の口頭弁論終結時に至るまで許されるものと解するのが相当である。


 商標法五〇条二項本文は、商標登録の不便用取消審判の請求があった場合において、被請求人である商標権者が登録商標の使用の事実を証明しなければ、商標登録は取消しを免れない旨規定しているが、これは、登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件とし、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、もって右審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたものであり、商標権者が審決時において右使用の事実を証明したことをもって、右取消しを免れるための要件としたものではないと解されるから、右条項の規定をもってしても、前記判断を左右するものではない。


 原審の適法に確定した事実によれば、本件では、被上告人が有する本件商標権について上告人が商標法五〇条一項に基づく不使用取消審判を請求したのに対し、被上告人が審判において本件登録商標の使用の事実を何ら立証しなかったことから、請求どおり本件商標登録を取り消す旨の審決があったというのであり、被上告人がこの審決の取消しを求めて本訴を提起したところ、原審は、右使用の事実が証明されたとして、審決を取り消したものである。そして、前記判断に照らしてみれば、所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例も、右判断と抵触するものではない。論旨は、採用することができない。』、


 等と判示した最高裁判決。


●『昭和62(行ツ)109 審決取消 特許権 行政訴訟「クリップ事件」平成3年03月19日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121135482717.pdf


 ・・・『 原審は、本件明細書の接着剤(接着層)に関する発明の詳細な説明の項の記載や図面などを参酌して、固定部材には接着剤(接着層)が含まれるものと認定判断したものであり、原審の右認定判断は、特許請求の範囲の記載文言の技術的意義が一義的に明確とはいえない場合の発明の要旨の認定の手法によったものとして首肯し得るものであるが、訂正を認容する審決の確定により、特許請求の範囲の記載文言自体が訂正されたものではないけれども、接着剤(接着層)に関する記載がすべて明細書及び図面から削除されたことによって、出願時に遡って、本件明細書の特許請求の範囲の固定部材に接着剤(接着層)が含まれると解釈して本件発明の要旨を認定する余地はなくなったものと解するのが相当である。


 三 したがって、本件特許につき訂正を認容する審決が確定したことにより、本件発明の特許請求の範囲の固定部材の構成は、出願の当初に遡ってこれに接着剤(接着層)を含まないものに減縮されたものと認められるから、原判決の基礎となった行政処分は後の行政処分により変更されたものであり、原判決には民訴法四二〇条一項八号所定の事由が存するといわなければならない。


 このような場合には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背があったものとして原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため事件を原審に差し戻すのが相当である(最高裁昭和五八年(行ツ)第一二四号同六〇年五月二八日第三小法廷判決・裁判集民事一四五号七三頁参照)。』、


 等と判示した最高裁判決。


●『昭和62(行ツ)3 審決取消 特許権 行政訴訟「リパーゼ事件」平成3年03月08日 最高裁判所第二小法廷 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121136269707.pdf)


・・・『 二 原審は、右確定事実に基づいて、次のとおり認定判断し、審決には、本願発明の基本構成部分の解釈を誤った結果、同部分の進歩性を否定した違法があり、右の誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるとして、これを取り消した。


 1 本願明細書の発明の詳細な説明中の前記(4)記載の方法は、リゾプス・アルヒズス(リゾプス・アリツスと同義)からのリパーゼ(以下「Raリパーゼ」という。)によるトリグリセリドの酵素的鹸化により遊離するグリセリンを測定するトリグリセリドの測定方法であるところ、これは、Raリパーゼを使用してトリグリセリドを測定する方法に関する被上告人出願の昭和四五年特許願第一三〇七八八号の発明の構成、すなわち、その特許請求の範囲に記載されている、「溶液、殊に体液中のリポ蛋白質に結合して存在するトリグリセリド及び/又は蛋白質不含の中性脂肪を全酵素的かつ定量的に検出するに当り、リポ蛋白質及び蛋白質不含の中性脂肪をリゾプス・アルヒズスから得られるリパーゼを用いて分解し、かつ分解生成物として得られるグリセリンを自体公知の方法で酵素的に測定することを特徴とする、トリグリセリドの定量的検出法」との構成と実質的に同一である。そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載による限り、本願発明は、(4)記載の測定方法の改良を目的とするものであるから、Raリパーゼを使用することを前提とするものということができる。


 2 本願明細書の(4)の記載によれば、本願発明の発明者は、Raリパーゼ以外のリパーゼはRaリパーゼのように許容される時間内にトリグリセリドを完全に分解する能力がなく、遊離グリセリンによるトリグリセリドの測定には不適当であると認識しているものと認められるから、発明者が、右のようなトリグリセリド測定に不適当なリパーゼをも含める意味で本願発明の特許請求の範囲中の基本構成に広く「リパーゼ」と記載したものと解することはできない。


 3 本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「リパーゼ」の文言は、Raリパーゼを指すものということができる。


 4 そうであれば、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により前記(4)記載の測定方法の改良として技術的に裏付けられているのは、Raリパーゼを使用するものだけであり、本願明細書に記載された実施例も、Raリパーゼを使用したものだけが示されている。


 5 そうすると、本願発明の特許請求の範囲中の基本構成に記載された「リパーゼ」は、文言上何らの限定はないが、Raリパーゼを意味するものと解するのが相当である。


 三 しかしながら、原審の右の判断は、にわかに是認することができない。その理由は、次のとおりである。


 特許法二九条一項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。このことは、特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない旨定めている特許法三六条五項二号の規定(本件特許出願については、昭和五〇年法律第四六号による改正前の特許法三六条五項の規定)からみて明らかである。


 これを本件についてみると、原審が確定した前記事実関係によれば、本願発明の特許請求の範囲の記載には、トリグリセリドを酵素的に鹸化する際に使用するリパーゼについてこれを限定する旨の記載はなく、右のような特段の事情も認められないから、本願発明の特許請求の範囲に記載のリパーゼがRaリパーゼに限定されるものであると解することはできない。原審は、本願発明は前記(4)記載の測定方法の改良を目的とするものであるが、その改良として技術的に裏付けられているのは、Raリパーゼを使用するものだけであり、本願明細書に記載された実施例もRaリパーゼを使用したものだけが示されていると認定しているが、本願発明の測定法の技術分野において、Raリパーゼ以外のリパーゼはおよそ用いられるものでないことが当業者の一般的な技術常識になっているとはいえないから、明細書の発明の詳細な説明で技術的に裏付けられているのがRaリパーゼを使用するものだけであるとか、実施例がRaリパーゼを使用するものだけであることのみから、特許請求の範囲に記載されたリパーゼをRaリパーゼと限定して解することはできないというべきである。


 四 そうすると、原審の確定した前記事実関係から、本願発明の特許請求の範囲の記載中にあるリパーゼはRaリパーゼを意味するものであるとし、本願発明が採用した酵素はRaリパーゼに限定されるものであると解した原審の判断には、特許出願に係る発明の進歩性の要件の有無を審理する前提としてされるべき発明の要旨認定に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。』、


 等と判示した最高裁判決。