●平成11年に出された知財事件の最高裁判決(1)

 本日は、平成11年に出された知財事件の最高裁判決で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決2件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●平成10(オ)604 特許権侵害予防請求事件 特許権 民事訴訟「生理活性物質測定法事件(カリクレイン生成阻害能測定方法事件)」平成11年07月16日 最高裁判所第二小法廷(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/5A6CF87433E4C6AC49256DC7000589F0.pdf


・・・『方法の発明と物を生産する方法の発明とは、明文上判然と区別され、与えられる特許権の効力も明確に異なっているのであるから、方法の発明と物を生産する方法の発明とを同視することはできないし、方法の発明に関する特許権に物を生産する方法の発明に関する特許権と同様の効力を認めることもできない。そして、当該発明がいずれの発明に該当するかは、まず、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべきものである(同法七〇条一項参照)。


 これを本件について見るに、本件明細書の特許請求の範囲第1項には、カリクレイン生成阻害能の測定法が記載されているのであるから、本件発明が物を生産する方法の発明ではなく、方法の発明であることは明らかである。本件方法が上告人医薬品の製造工程に組み込まれているとしても、本件発明を物を生産する方法の発明ということはできないし、本件特許権に物を生産する方法の発明と同様の効力を認める根拠も見いだし難い。


 3 【要旨第一】本件方法は本件発明の技術的範囲に属するのであるから、上告人が上告人医薬品の製造工程において本件方法を使用することは、本件特許権を侵害する行為に当たる。したがって、被上告人は、上告人に対し、特許法一〇〇条一項により、本件方法の使用の差止めを請求することができる。


 しかし、本件発明は物を生産する方法の発明ではないから、上告人が、上告人医薬品の製造工程において、本件方法を使用して品質規格の検定のための確認試験をしているとしても、その製造及びその後の販売を、本件特許権を侵害する行為に当たるということはできない。


 したがって、被上告人が、上告人に対し、上告人医薬品の製造等の差止めを求める前記(1)の請求はすべて認容することができないものである(なお、本件訴訟の経過に徴すれば、右(1)の請求を、本件方法の使用の差止めを求める趣旨を含むものと解することもできない。)。


 4 特許法一〇〇条二項が、特許権者が差止請求権を行使するに際し請求することができる侵害の予防に必要な行為として、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあっては、侵害の行為により生じた物を含む。)の廃棄と侵害の行為に供した設備の除却を例示しているところからすれば、【要旨第二】同項にいう「侵害の予防に必要な行為」とは、特許発明の内容、現に行われ又は将来行われるおそれがある侵害行為の態様及び特許権者が行使する差止請求権の具体的内容等に照らし、差止請求権の行使を実効あらしめるものであって、かつ、それが差止請求権の実現のために必要な範囲内のものであることを要するものと解するのが相当である。


 これを本件について見るに、上告人医薬品が、侵害の行為に供した設備に当たらないことはもとより、侵害の行為を組成した物に当たるということもできない。


 また、【要旨第三】本件発明が方法の発明であり、侵害の行為が本件方法の使用行為であって、侵害差止請求としては本件方法の使用の差止めを請求することができるにとどまることに照らし、上告人医薬品の廃棄及び上告人製剤についての薬価基準収載申請の取下げは、差止請求権の実現のために必要な範囲を超えることは明らかである。したがって、被上告人の上告人に対する前記(2)及び(3)の請求も認容することができないものである。』、等と判示した最高裁判決。


●『平成10(行ツ)81  特許権 行政訴訟「六本ロールカレンダーの構造及び使用方法事件」平成11年04月22日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314111554.pdf


・・・『二【要旨】特許を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という。)の取消しを求める訴訟の係属中に、当該特許権について、特許出願の願書に添付された明細書の特許請求の範囲が、明細書を訂正すべき旨の審決(以下「訂正審決」という。)により減縮され、訂正審決が確定した場合には、当該無効審決を取り消さなければならないものと解するのが相当である。』、等と判示した最高裁判決。