●今年出された知財判決で最も気になった特許事件の続き2

 昨日、最後に、『東京地裁の『ホースリール事件』は、この『磁気媒体リーダー事件』の判決文のただし書きの部分の「ただし、このことは、考案の技術的範囲を明細書に記載された具体的な実施例に限定するものでなく、実施例としては記載されていなくとも、明細書に開示された考案の記述に関する内容から当該考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実施し得る構成であれば、その技術的範囲に含まれるものと解すべきである。」と同様の解釈により、侵害と判断されたものと思います。』、とコメントしましたが、『ホースリール事件』における特許発明の技術的範囲に関する具体的な判断については、一昨日、昨日と取上げていませんでした。


 4/3の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080403)で取り上げていますが、『磁気媒体リーダー事件』との比較のため、再度取上げます。


  つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 設樂隆一、裁判官 関根澄子、裁判官 古庄研)は、

1 争点1(被告製品は,本件特許発明1の技術的範囲に属するか。)について

(1) 争点1−1(被告製品は,構成要件1−Eを充足するか。)について


ア 構成要件1−Eの「フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」とは,その字義通り,「フレームの脚部」を「開口部を閉鎖する位置」に位置させることができるとともに,同じ「フレームの脚部」を開口部を「閉鎖しない位置」に位置させることもできるように,「フレームの脚部」を「取り付け」る ことを要し,かつ,これで足りると解すべきである。


 このように,同一の「フレームの脚部」を「開口部を閉鎖する位置」及び開口部を「閉鎖しない位置」のいずれにも位置させることができるようにすれば,必然的に,一方の位置に位置させた「フレームの脚部」を他方の位置に位置させるために「フレ,ームの脚部」を一方の位置から他方の位置に「移動可能」とすることになり,かかる「移動」の際には「フレームの脚部」は一方の位置と他方の,位置「との間」を「移動」することになるから,結局「フレームの脚部,を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」ことになる。


 そして,被告製品において,「サイドステップ」を「開口部を閉鎖する位置」に位置させることができることは,甲8号証の4の写真から明らかであり,同じ「サイドステップ」を開口部を「閉鎖しない位置」に位置させることもできることは,甲8号証の5の写真から明らかであるから,被告製品は,構成要件1−Eを充足する。


イ これに対して,被告は,構成要件1−Eの「移動」とは「回動」よりも広く解釈できるような動きは含まないから,「サイドステップ」が「回動」する構造になっていない被告製品は,構成要件1−Eを充足しないと主張する。


 しかし,本件明細書において,実施例としては脚部が「回動」する構造のもののみが記載されているとしても,「フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付け」る構成として,脚部が「回動」する構造のほかに,脚部をスライドさせる構造や,着脱自在とした脚部を付け替える構造をも含み得ることは,当業者が技術常識をもって本件明細書を見れば容易に理解することができるものである。


 また,本件明細書には , 脚部を「移動可能」とする構成として, 脚部が「回動」する構造に限定する旨の記載や示唆はなく,そのような構造に限定すべき理由もない。


 なお,請求項1においては「移動」とは別に,「回動」という用語が用いられており,このことからも「移動」が「回動」に限定されるものではないことが明らかである。

 したがって,被告の主張は,構成要件1−Eの「移動」が「回動」に限定されるとの前提において既に誤っており,採用の限りでない。


ウ 被告は,構成要件1−Eの「開口部を閉鎖する位置」とは,脚部の間に隙間ができないものであると主張する。しかし,被告の主張は,上記(2) 同様,実施例(「本発明の一実施の形態」 。甲2・【0027】 )に拘泥するものであり,そのように解すべき理由はない。本件明細書によれば,本件特許発明1においては「開口部を閉鎖する」ことによって,水をも漏,らさぬようにする必要があるとは解されず,証拠(甲8の4)に示された被告製品の「サイドステップ」の状態が構成要件1−Eの「開口部を閉鎖する」と評価すべきものであることは明らかである。よって,この点の被告の主張は理由がない。


 また,被告は,構成要件1−Eの「移動」においては「閉鎖する位置」及び「閉鎖しない位置」の基準となる支点が当然に存在するとか,構成要件1−Eの「脚部」は,開口部の開閉場所との関係で移動する必要があり , 移動の範囲がフレームの底面の開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置とにはさまれた部分に限定されるなどと主張する。


 しかし, いずれの主張も, 本件明細書に基づく主張ではなく,被告独自の主張であり,到底採用の限りでない。


 なお,構成要件1−Eの「脚部」に相当する機能を有する部材が,被告製品の「サイドステップ」であることは明らかであるから, 被告製品の「サイドステップ」が構成要件1−Eの「脚部」の要件を充足することを判断すれば足りるのであり,被告が任意に「脚部」と命名したにすぎない部材が,構成要件1−Eの「脚部」に該当するかどうかを判断する必要がないことは明らかである。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 それでは、皆さん、良いお年を!