●平成12年に出された知財事件の最高裁判決(2)

 本日は、平成12年に出された知財事件の最高裁判決で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている、残りの最高裁判決3件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『平成10(オ)364 債務不存在確認請求事件 特許権 民事訴訟「キルビー半導体事件」平成12年04月11日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/E3E11CFBA14FFAF649256ACE00268977.pdf

 ・・・『なるほど、特許法は、特許に無効理由が存在する場合に、これを無効とするためには専門的知識経験を有する特許庁の審判官の審判によることとし(同法一二三条一項、一七八条六項)、無効審決の確定により特許権が初めから存在しなかったものとみなすものとしている(同法一二五条)。したがって、特許権は無効審決の確定までは適法かつ有効に存続し、対世的に無効とされるわけではない。


 しかし、本件特許のように、特許に無効理由が存在することが明らかで、無効審判請求がされた場合には無効審決の確定により当該特許が無効とされることが確実に予見される場合にも、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求が許されると解することは、次の諸点にかんがみ、相当ではない。


 (一) このような特許権に基づく当該発明の実施行為の差止め、これについての損害賠償等を請求することを容認することは、実質的に見て、特許権者に不当な利益を与え、右発明を実施する者に不当な不利益を与えるもので、衡平の理念に反する結果となる。また、(二) 紛争はできる限り短期間に一つの手続で解決するのが望ましいものであるところ、右のような特許権に基づく侵害訴訟において、まず特許庁における無効審判を経由して無効審決が確定しなければ、当該特許に無効理由の存在することをもって特許権の行使に対する防御方法とすることが許されないとすることは、特許の対世的な無効までも求める意思のない当事者に無効審判の手続を強いることとなり、また、訴訟経済にも反する。さらに、(三) 特許法一六八条二項は、特許に無効理由が存在することが明らかであって前記のとおり無効とされることが確実に予見される場合においてまで訴訟手続を中止すべき旨を規定したものと解することはできない。


 したがって、特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、【要旨】当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。このように解しても、特許制度の趣旨に反するものとはいえない。』、等と判示した最高裁判決。


●『平成10(行ツ)19 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「桃の新品種黄桃の育種増殖法」平成12年02月29日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2299632DC045C30749256ACE0026899E.pdf

 ・・・『発明は、自然法則の利用に基礎付けられた一定の技術に関する創作的な思想であるが、その創作された技術内容は、その技術分野における通常の知識経験を持つ者であれば何人でもこれを反復実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体化され、客観化されたものでなければならないから、その技術内容がこの程度に構成されていないものは、発明としては未完成のものであって、特許法二条一項にいう「発明」とはいえない(最高裁昭和三九年(行ツ)第九二号同四四年一月二八日第三小法廷判決・民集二三巻一号五四頁参照)。


 したがって、同条にいう「自然法則を利用した」発明であるためには、当業者がそれを反復実施することにより同一結果を得られること、すなわち、反復可能性のあることが必要である。


 そして、【要旨】この反復可能性は、「植物の新品種を育種し増殖する方法」に係る発明の育種過程に関しては、その特性にかんがみ、科学的にその植物を再現することが当業者において可能であれば足り、その確率が高いことを要しないものと解するのが相当である。

 けだし、右発明においては、新品種が育種されれば、その後は従来用いられている増殖方法により再生産することができるのであって、確率が低くても新品種の育種が可能であれば、当該発明の目的とする技術効果を挙げることができるからである。


 四 これを本件についてみると、前記のとおり、本件発明の育種過程は、これを反復実施して科学的に本件黄桃と同じ形質を有する桃を再現することが可能であるから、たといその確率が高いものとはいえないとしても、本件発明には反復可能性があるというべきである。なお、発明の反復可能性は、特許出願当時にあれば足りるから、その後親品種である晩黄桃が所在不明になったことは、右判断を左右するものではない。』、等と判示した最高裁判決。


●『平成7(行ツ)105 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「クロム酸鉛顔料事件」平成12年01月27日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/D89CB5B67BD5BD2049256ACD002689F9.pdf

・・・『特許法一六七条は、特許を無効とする審判の請求(以下「無効審判請求」という。)について確定審決の登録があったときは、同一の事実及び同一の証拠に基づいて無効審判請求をすることはできないと規定するところ、その趣旨は、ある特許につき無効審判請求が成り立たない旨の審決(以下「請求不成立審決」という。)が確定し、その旨の登録がされたときは、その登録の後に新たに右無効審判請求におけるのと同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求をすることが許されないとするものであり、それを超えて、確定した請求不成立審決の登録により、その時点において既に係属している無効審判請求が不適法となるものと解すべきではない。


 したがって、【要旨】甲無効審判請求がされた後にこれと同一の事実及び同一の証拠に基づく乙無効審判請求が成り立たない旨の確定審決の登録がされたとしても、甲無効審判請求が不適法となるものではないと解するのが相当である。』、等と判示した最高裁判決。