●平成19(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟(1)

 本日は、『平成19(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「回転要素の角位置を決定する軸LED位置検出装置」平成20年10月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081104114742.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、まず、審判請求時の請求項を増加した補正についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 本多知成、裁判官 田中孝一)は、


『(2) 審決のうち増項違反に係る判断部分の当否

ア 原告は,本件各補正において追加された請求項13及び14は,いずれも,請求項1を引用するとともに,請求項1に記載された発明特定事項を更に限定するものであって,その限定の仕方は,請求項1と同13との関係においても,請求項1と同14との関係においても,産業上の利用分野を変更するものではないことは明らかであり,また,解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかであるから,請求項13及び14は,旧特許法17条の2第4項2号によって許容されるところの特許請求の範囲の減縮を目的として補正された請求項に該当すると主張する。


イ そこで,検討するに,旧特許法17条の2第4項は,審判請求に伴って行われる場合における特許請求の範囲についてする補正は,同項1号ないし4号に掲げる事項を目的とするものに限ると規定しているもので,請求項を増加させる補正は,原則として,同項で補正の目的とし得る事項として規定された「請求項の削除」(1号),「特許請求の範囲の減縮」(2号),「誤記の訂正」(3号)及び「明りょうでない記載の釈明」(4号)のいずれにも該当しないものと解するのが相当である。


 そして,同項2号は,「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と規定しており,同括弧書きの文言によれば,2号において補正が認められる特許請求の範囲の減縮といえるためには,補正後の請求項が補正前の請求項に記載された発明を限定する関係にあること,並びに,補正前の請求項と補正後の請求項との間において,発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることを必要とするとしたものである。


そうすると,この「限定する」ものであるかどうか,「同一である」かどうかは,いずれも,特許請求の範囲に記載された当該請求項について,その補正の前後を比較して判断すべきものであり,補正前の請求項と補正後の請求項とが対応したものとなっていることを当然の前提としているといえる。


 したがって,同号の規定は,請求項の発明特定事項を限定して,これを減縮補正することによって,当該請求項がそのままその補正後の請求項として維持されるという態様による補正を定めたものとみるのが相当であって,増項による補正は,補正後の各請求項の記載により特定された発明が,全体として,補正前の請求項の記載により特定される発明よりも限定されたものとなっているとしても,上記のような対応関係がない限り,同号にいう「特許請求の範囲の減縮」には該当しないことになる。


 また,特許出願の審査は,請求項ごとに行われ,拒絶理由の通知も請求項ごとに記載されるものであるところ,審判請求に伴ってする補正につき,出願人の便宜と迅速,的確かつ公平な審査の実現等の調整という観点から,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正を認めることとした旧特許法17条の2第4項の制度趣旨に照らすならば,1つの請求項を複数の請求項に分割するような態様による補正は,特段の事情がない限り,認められないとする上記の解釈は是認されるものといえる。


 もっとも,(i)多数項引用形式で記載された一つの請求項を,引用請求項を減少させて独立形式の請求項とする場合や,(ii)構成要件が択一的なものとして記載された一つの請求項を,その択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合のように,補正前の請求項が実質的に複数の請求項を含むものであるときに,補正に際し,これを独立の請求項とすることにより,請求項の数が増加することになるとしても,それは,実質的に新たな請求項を追加するものとはいえず,実質的には,補正前の請求項と補正後の請求項とが対応したものとなっているということができるから,このような補正についてまで否定されるものではない。


ウ 以上の見解に基づいて,本件を検討することとする。


 本件各補正のうち増項に係る部分は,いずれも,請求項の数を,補正前の12から補正後の14に補正するというものであり,実質的にみても,増項によって生じた請求項が補正前の請求項の従属項であるとしても,請求項の数を増加させるものであるこことに変わりはない。


そして,この増加は,(i)多数項引用形式で記載された1つの請求項を,引用請求項を減少させて独立形式の請求項とする場合や,(ii)構成要件が択一的なものとして記載された1つの請求項を,その択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合でもない。


 そして,本件各補正の増項に係る部分は,特許請求の範囲を全体として拡張するものではないものの,これを減縮するものでもないことは明らかであり,また,誤記の訂正であるということも,明りょうでない記載の釈明であるということも,困難であるから,旧特許法17条の2第4項2号ないし4号のいずれにも該当しないといわざるを得ない。


 したがって,本件各補正のうち増項に係る部分は,旧特許法17条の2第4項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項により却下される場合に該当し,これと同旨の審決の判断は,その限りにおいて誤りということはできない。 』


 と判示されました。


 明日に続きます。