●平成20(行ケ)10089 審決取消請求事件 商標権「STELLA」

 本日は、『平成20(行ケ)10089 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「STELLA」平成20年10月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080403130354.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本願商標と引用商標との類似の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 石原直樹、裁判官 榎戸道也、裁判官 杜下弘記)は、


『1 審決は,本願商標と引用商標とは,外観においては相紛れるものではなく,観念においては比較し得ないことを考慮しても,その称呼において,彼此,相紛らわしい類似の商標であり,かつ,指定商品も同一又は類似するものであるから,本願商標が商標法4条1項11号に該当すると判断したところ,原告は,本願商標と引用商標は類似しないと主張するので,以下において検討する。


2 本願商標と引用商標との対比

 本願商標は「ステラ」の称呼を生ずるものであるのに対し,引用商標は「スティラ」の称呼を生ずるものであるところ,これらの称呼は,ともに3音によって構成され,そのうち,語頭音の「ス」と語尾音の「ラ」は共通であり,中間音の「テ」と「ティ」のみに差異があるものである。


 また,これら両称呼において,唯一の差異音である「テ」と「ティ」は,ともに無声音である語頭音の「ス」に続き,この部分にアクセントが置かれるものであると認められるが,このうち,「ティ」の音は,外来語に用いられるものであって,元来日本語にはなかった音であり,現在においては,わが国においても「ティ」の表記,発音が相当程度定着しているとはいえ,今なお,「チ」や「テ」などの音に置き換えられて表記,発音されることがあることは,経験則上明らかである。


 原告は,「ティ」の音は,「チ」で代用されるものの,「テ」に置き換えられることはないと主張するが,例えば,「volunteer」,「frontier」などの語を「ボランテア」,「フロンテア」と発音,表記することはあっても,「ボランチア」,「フロンチア」などと発音,表記することはないと考えられることなどに照らし,上記主張を採用することはできない。


 ところで,引用商標1,4の各指定商品が「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」,引用商標2の指定商品が「化粧品,せっけん類,香料類,歯磨き,家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用漂白剤,つや出し剤,靴クリーム,靴墨,塗料用剥離剤」,引用商標3の指定商品が「化粧品,せっけん類,香料類,つや出し剤」であることは,上記第2の2のとおりである。他方,本願商標の指定商品は,・・・であるから,本願商標の指定商品のうち,せっけん(類),香料類,化粧品は引用商標1〜4の各指定商品と共通であり,歯磨きは,引用商標1,2,4の各指定商品と共通である。


 しかるところ,商品の性質及び取引者,需要者(とりわけ需要者)の商品に対する意識などから見て,香料類及び化粧品については,これらを自己実現の手段の一つと捉える需要者が多いため,その取引に当たり,商品の出所についても強い関心が持たれる場合が多いとしても,せっけん(類),歯磨きについては,日用品に類するものまで含まれ得るのであり,その取引に当たり,需要者が,当該商品に係る商標につき細心の注意を払い,その称呼について上記のような置き換えられる可能性のある音を正確に識別した上で,これに接するのが通常であるとは,到底認めることはできない。


 そうすると,上記のとおり,ともに3音によって構成され,そのうち,語頭音と語尾音を共通にして,アクセントの置かれる中間音の「テ」と「ティ」のみに差異があるものの,その差異音のうち,一方が他方に置き換えられる可能性のある本願商標と引用商標の各称呼は,少なくとも本願商標の指定商品の一部との関係においては,彼我相紛らわしいものといわざるを得ず,したがって,本願商標と引用商標とは,外観においては相紛れるものではなく,観念においては比較し得ないことを考慮しても,なお,商品の出所の混同を来たすおそれのある類似の商標であると認めるのが相当である。


 なお,原告は,「Stella」,「ステラ/ STELLA」の構成より成る商標が設定登録された後に,いずれも「STILA /スティラ」の構成より成る商標の登録出願がされ,設定登録された商標登録事例があるから,本願商標と引用商標とが非類似の商標であることは明らかであると主張するが,これらの事例は,第25類「被服」,第42類「宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」を指定商品・役務とするものであるというのであり,本願商標及び引用商標の場合と全く異なる指定商品・役務に係る商標の類比判断が,直ちに本願商標と引用商標の類否判断に影響を与えるものではないから,原告の主張は失当である。


 また,原告は,「STELLA」は,ステラ・マッカートニーの創作に係る原告の香水のブランドとして,わが国において周知であり,原告の香水と引用商標の商標権者であるスティラコスメティックスインクの化粧品は,同一の百貨店の化粧品売場において販売されているほか,同一の雑誌の同一のページで取り上げられているから,取引者,需要者は,本願商標と引用商標が異なる出所を表すものとして明瞭に区別して認識しているものというべきであると主張するが,これらは,香水(香料類)や化粧品についての取引の実情に関する主張であり,このような主張事実が,上記に説示したところを覆すものでないことは明らかである。


3 以上によれば,本願商標と引用商標は,外観においては相紛れるものではなく,観念においては比較し得ないとしても,称呼において類似するものであって誤認混同のおそれがあると認められ,両商標は類似するものというべきであるとした審決の判断に誤りはなく,原告の請求は理由がない。


 よって,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。