●平成20(行ケ)10178商標「Legacy Factory Automation Computer」

Nbenrishi2008-10-15

 本日は、『平成20(行ケ)10178 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Legacy Factory Automation Computer」平成20年10月08日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081010110817.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、拒絶審決の理由である、商標法4条1項11号の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 清水知恵子)は、


『2 取消事由について

 原告は,本願商標と引用商標との類否判断の誤りを主張するので,以下この点について検討する。


(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 そして,商標は,その構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから,みだりに,商標構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが,他方,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである。そしてこの場合,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一又は類似であるとはいえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。


 そこで,以上の見地に立って本件事案について検討する。


(2) 本願商標の内容


ア 本願商標は,前記のとおり,「Legacy Factory Automation Computer」のように横書きしたものであり,「Legacy」「Factory」「Automation」「Computer」の各語の間に1文字分の間隔を空け,同一書体かつ同一の大きさで表記したものである。


イ そこで,まず,本願商標に用いられている「Legacy」「Factory」「Automation」「Computer」の語義について検討する。


(ア) 「Legacy」は「遺産」,「遺物」を意味する英語であり(「ランダムハウス英和大辞典第2版」平成6年1月1日株式会社小学館発行),日本語の外来語では「レガシー」と表記される(「現代用語の基礎知識2008」1503頁,平成20年1月1日自由国民社発行,乙27)。


(イ) 「Factory」は「工場」,「製造所」を意味する英語であり(「ランダムハウス英和大辞典第2版」),日本語の外来語では「ファクトリー」と表記される(「広辞苑第六版」平成20年1月11日株式会社岩波書店発行,乙1)。


(ウ) 「Automation」は「自動制御方式」,「自動化」を意味する英語であり(「ランダムハウス英和大辞典第2版」),日本語の外来語では「オートメーション」と表記される(「広辞苑第六版」,乙29)。


(エ) 「Computer」は「計算機」,「電子計算機」を意味する英語であり(「ランダムハウス英和大辞典第2版」),日本語の外来語では「コンピュータ」又は「コンピューター」と表記される(「広辞苑第六版」)。そして,「コンピュータ」は本願商標の指定商品である。


ウ 以上のように,「Legacy」「Factory」「Automation」「Computer」はそれぞれ別個の意義を有する語であるところ,これらを並べて成る「Legacy Factory Automation Computer」は特定の意味を有するものとして用いられるものではない。


 また,上記各語の間には1文字分の間隔が空けられており,しかも各語の1文字目はいずれも大文字で表記されているため,外観上はそれぞれの語が独立しているようにみえる。


 さらに,上記構成部分を一体として称呼した場合には「レガシーファクトリーオートメーションコンピュータ」という21音となり,冗長である。


 したがって,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,本願商標に接する取引者・需要者は,本願商標を構成する4語を適当な区切りで分離して認識するのが自然であるといえるから,本願商標を構成する各部分は分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものということはできない。


エ そこでさらに,本願商標を構成する各語の相互の関係について検討する。


 ・・・省略・・・ 


(ウ) 以上によれば,本願商標を構成する各部分中,「Factory Automation Computer」は,工場自動化のために用いられるコンピュータを意味するものとして取引者・需要者に認識されるものであるのに対して,「Legacy」は「Factory Automation Computer」との関係で特定の意味を有するものとして用いられるものではないから,本願商標は「Legacy」と「Factory Automation Computer」に分離して印象される。


 そして,上記のとおり「Factory Automation Computer」は工場自動化のために用いられるコンピュータを意味し,本願商標の指定商品である「コンピュータ」の種類の一つを指すものであって,自他商品識別機能を有しないものであるから,結局,本願商標中,自他商品識別機能を有するのは「Legacy」部分のみである。


オ(ア) これに対し原告は,「Factory」はコンピュータ関連分野において特定の意味を持った語(例えば,結城浩著「増補改訂版Java言語で学ぶデザインパターン入門」48頁,平成17年8月31日ソフトバンクパブリッシング株式会社第5刷発行〔甲6〕における「Factoryクラス」,「Factory Methodパターン」等)と
して使用されることを主張する。


 しかし,「Factory」について原告が主張するような特定の意味での使用がされることがあるとしても,上記のとおり「Factory Automation Computer」が工場自動化のために用いられるコンピュータを意味する語として広く用いられていることに照らせば,指定商品であるコンピュータに使用された本願商標に接した取引者・需要者は,「Factory」を原告が主張するような特定の意味において認識するよりも,「Factory Automation Computer」という一連の語を構成する一部分として認識するのが自然である。


(イ) また原告は,「Automation」は「Computer」と結合して「Automation Computer」という一連の語として使用されることを主張する。


 しかし,原告が「Automation Computer」の用例として提出する甲9(アドバンテック株式会社の製品カタログ)には,そのタイトル部分に「UNO Embedded Automation Computers 組込オートメーション・コンピュータ」と記載されているものの,同カタログの見出し部分に「/ビル・オートメーション/ファクトリ・オートメーション/マシン・オートメーション」と記載されていることからすると,タイトル部分に記載された「オートメーション・コンピュータ」なる語は,「ファクトリ・オートメーション」を含む各種オートメーションに用いられるコンピュータを指す総称として用いられているものと理解される。したがって,原告の上記主張は上記認定を左右するものではない。


(ウ) また原告は,「Factory」「Automation」「Computer」のいずれかが含まれる商標が登録されていることをもってこれらの語がそれぞれ自他商品識別機能を果たしうることを主張するが,原告主張の登録商標(甲14〜16)はいずれも本願商標とはその前提を異にするものであるから,原告の上記主張は採用することができない。


カ したがって,本願商標は,「Legacy」と「Factory Automation Computer」に分離して印象され,「Legacy」の部分が自他商品識別機能を有するものである。


 そして,前記イのとおり,「Legacy」からは「遺産」,「遺物」との観念が生じ,「レガシー」との称呼が生じる。


(3) 引用商標の内容


 引用商標は,前記のとおり,「LEGACY」と表記したものであり,「遺産」,「遺物」との観念が生じるほか,「レガシー」の称呼が生じるものであり,指定商品も,本願商標にいう「コンピュータ」を含む「電子応用機械器具及びその部品」(いずれも第9類)が含まれている。


(4) 本願商標と引用商標の類否

ア 以上の(2)及び(3)で述べたところに照らして,本願商標と引用商標とを対比すると,本願商標と引用商標とは,観念において「遺産」,「遺物」との観念を生じる点で共通し,称呼においても「レガシー」の称呼を生じる点で共通している。


 また,外観においては,いずれもアルファベットの標準文字を同一書体かつ同一の大きさで表記したものであり,本願商標が「Legacy」と1文字目を大文字で,その他の文字を小文字で表記しているのに対して引用商標は「LEGACY」と全体を大文字で表記している点においてのみ異なるものであるが,このような違いが及ぼす印象は僅かなものであって,外観上も近似した印象を与えるものといえる。


イ これに対し原告は,パソコン,スーパーコンピュータ,マイクロコンピュータ等の取引の実情に照らせば,取引者・需要者が購入するに当たってはその性能,サポート内容,メーカーの信頼性等について相当の注意を払って購入するから,本願商標と引用商標について出所の混同が生じる可能性はないと主張する。


 しかし,上記のとおり,本願商標と引用商標は,大文字表記か小文字表記かという外観上の僅かな違いを除き,殆ど同一といえるものであるから,たとえ取引者・需要者が相当の注意を払って購入するとしても,なお出所の混同を引き起こす可能性を否定できないものである。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


(5) 以上のとおり本願商標は引用商標と類似するから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはない。


3 結語

 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がない。


 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 なお、本判決文中で引用されている2件の最高裁判決は、

●『昭和39(行ツ)110 商標登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求 商標権 行政訴訟「氷山印事件」昭和43年02月27日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C20EFADEA9BCA1F249256A850031236C.pdf

と、

●『昭和37(オ)953 審決取消請求 商標権 行政訴訟「リラ宝塚事件」昭和38年12月05日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/4BFC935227B9ABB049256A850031610C.pdf

です。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。