●平成19(ワ)35028 営業表示使用差止等請求事件 不正競争

 本日は、『平成19(ワ)35028 営業表示使用差止等請求事件 不正競争 民事訴訟 平成20年09月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081001110947.pdf)について取上げます。


 本件は、被告がウェブサイト(ホームページ)等で営業表示として使用する「TOKYU」及び「tokyu」の表示は,原告の周知又は著名な「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号又は2号)である「東急」の営業表示と類似のものであって,被告による上記表示の使用行為は同項1号又は2号の不正競争に該当すると主張して,同法3条に基づき,原告が被告に対し,「TOKYU」又は「tokyu」の表示を営業表示として使用することの差止め等を求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、被告の営業表示が不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否かの判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 関根澄子、裁判官 古庄研)は、


『1 争点1(不正競争の成否)について

(1) 「東急」の営業表示の著名性

 ・・・省略・・・

 前記アの認定事実を総合すれば,「東急」の表示は,原告の営業表示として全国的に取引者,需要者の間に広く知られていることが認められるから,「他人の著名な商品等表示」(不正競争防止法2条1項2号)に該当するものと認められる。


(2) 被告による「TOKYU」,「tokyu」の表示の使用

 ・・・省略・・・

(ア) 被告が開設した前記ア(イ)のホームページ(ウェブサイト)に表示された,ウェブアドレス「(略)」のドメイン名に続く,フォルダ名部分にユーザーIDとして表記された「tokyu」の表示及びEメールアドレス「(略)」のユーザー名(ユーザーID)部分の「tokyu」の表示は,営業の主体を識別する機能を有しているものと解されるから,被告は上記各「tokyu」の表示を営業表示として使用したものと認められる。


 また,上記ホームページに表示された,ページ上部の「TOKYU CONSTRUCTION ON THE WEB」の表示は,「TOKYU CONSTRUCTION」の部分が営業の主体を表示するものであることが認められる。そして,「CONSTRUCTION」は建設を意味する普通名詞であることに照らすならば,「TOKYU CONSTRUCTION」のうち,その営業の主体を識別する機能を有する要部は「TOKYU」の部分であると解されるから,被告は,「TOKYU」の部分の表示を営業表示として使用したものと認められる。


(イ) 一方で,前記ア(イ)のホームページに表示された,「藤久建設株式会社」の直下の「TOKYU CONSTRUCTION CO.,LTD」の表示については,「藤久建設株式会社」と「TOKYU CONSTRUCTION CO.,LTD」が近接して位置し,「TOKYU CONSTRUCTION CO.,LTD」の文字は「藤久建設株式会社」の文字の4分の1程度の大きさであること等に照らすならば,「藤久建設株式会社」の英訳として付加的に表示されたものと認められるから,「TOKYU CONSTRUCTION CO.,LTD」の「TOKYU」の部分のみを取り出して,被告が「TOKYU」の営業表示を使用しているものと認めることはできない。


 なお,原告は,本訴において,被告に対し,表札,看板,印章,印刷物,ウェブサイト,その他の営業表示物件から「TOKYU」又は「tokyu」の表示の抹消を請求しているが(前記第1の2),ウェブサイトを除く,表札等の営業表示物件に「TOKYU」又は「tokyu」の表示を被告が営業表示として使用していたことについて,具体的な主張立証をしていない。


(ウ) 以上によれば,被告は,自社のホームページにおいて,「TOKYU」及び「tokyu」の表示を営業表示として使用していたことが認められる。


(3) 営業表示の類似性

 ある営業表示が不正競争防止法2条1項2号にいう他人の営業表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁判所昭和58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)。

 そこで,この判断基準に基づいて,被告が使用する「TOKYU」及び「tokyu」の営業表示が原告の「東急」の営業表示と「類似のもの」に当たるかどうかについて検討する。


ア 外観

 「東急」の語は,漢字2字を横書きして成るのに対し,「TOKYU」の語は,欧文字の大文字5字を横書きして成り,「tokyu」の語は欧文字の小文字5字を横書きして成るから,「東急」の語と「TOKYU」又は「tokyu」の語は,外観において異なることは明らかである。


イ 称呼

 称呼についてみると,「東急」の語は,「とうきゅう」との称呼を生じるものと認められる。


 一方,「TOKYU」又は「tokyu」の語は,ローマ字読み又は英語風の読みとして,「ときゅ」,「ときゅう」,「とうきゅう」等の称呼が生じるものと認められる。


 したがって,「東急」の語と「TOKYU」又は「tokyu」の語は,「とうきゅう」の称呼が生じる点で共通する。


ウ 観念

(ア) 前記(1)認定のとおり「東急」の表示は原告及び東急グループの営業表示として著名であることに照らすならば,「東急」の語から原告及び東急グループの観念が生じるものと認められる。


(イ) 一方,「TOKYU」又は「tokyu」の語は,欧文字5字から成るものであるが,特定の意味を表す英単語その他の外国語の単語として一般の辞書に掲載されていることの立証はされておらず,「TOKYU」又は「tokyu」の語自体が特定の意味内容を有するものと認めることはできない。

 ・・・省略・・・

 もっとも,「東急」の表示は原告の著名な営業表示であることに照らすならば,「とうきゅう」という称呼に基づいて「東急」を想起あるいは連想し,ひいては原告及び東急グループを想起し得ることは認められるが,「とうきゅう」という称呼に基づいて想起し得る営業主体は,原告及び東急グループに限られるものではなく,全国の各地域ごとの取引の実情に応じて,原告及び東急グループ以外の営業主体を想起し得るものである。このように原告及び東急グループは「とうきゅう」という称呼に基づいて想起し得る営業主体の一つにとどまり,「TOKYU」又は「tokyu」の語から「とうきゅう」という称呼を通じて原告及び東急グループの観念が生じるとまで断ずることはできない。


b これに対し原告は,「東急」の営業表示が著名であることを考慮すれば,「とうきゅう」という称呼を通じて営業表示として観念される語は「東急」だけであるから,「TOKYU」又は「tokyu」の営業表示と「東急」の営業表示とは,称呼を通じて観念的に類似している旨主張する。


 しかし,(i)被告は,昭和51年8月30日に設立後,現在まで32年以上にわたり,「藤久建設株式会社」(読み方・「とうきゅうけんせつかぶしきかいしゃ」)の商号で,宮城県石巻市及びその周辺の地域において建物建築工事,ガーデニング工事等の請負等の取引を行っていること(前記(2)ア(ア))からすれば,石巻市及びその周辺の地域では,「とうきゅう」との称呼から営業主体としての被告を想起する者も相当数存在するものとうかがわれること,(ii)加えて,大分県大分市内では,東九興産株式会社が,約38年間営業活動を行い,その商号の「東九」の部分を「とうきゅう」と称していること(乙13,弁論の全趣旨),岩手県盛岡市内では,昭和63年に設立された株式会社とうきゅう商事が営業活動を行っていること(乙14,弁論の全趣旨),岡山県倉敷市内では,株式会社東久ストアが営業活動を行い,その商号の「東久」の部分を「とうきゅう」と称していること(弁論の全趣旨)に照らすならば,「とうきゅう」という称呼に基づいて想起し得る営業主体は,全国の各地域ごとの取引の実情に応じて,原告及び東急グループ以外のものも含まれることは明らかであるから,「とうきゅう」という称呼を通じて観念される営業表示が「東急」だけであるとの原告の主張は採用することができない。


(エ) 以上によれば,本件証拠上,「東急」の営業表示と「TOKYU」又は「tokyu」の営業表示とが観念において共通するとまで認めるに足りない。


エ 判断

 前記アないしウの認定事実を総合すれば,「東急」の営業表示と「TOKYU」又は「tokyu」の営業表示とは,いずれも「とうきゅう」の称呼が生じる点で共通点を見いだし得るにすぎず,その外観においては明らかに異なり,その観念においても共通するとはいえないから,取引者,需要者が,「東急」の営業表示及び「TOKYU」又は「tokyu」の営業表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるとまで認めることはできない。


 そうすると,「TOKYU」又は「tokyu」の営業表示は,「東急」の営業表示と「類似のもの」(不正競争防止法2条1項2号)に当たるものとは認められない。


(4) まとめ

 以上のとおり,「東急」の営業表示と「TOKYU」又は「tokyu」の営業表示は類似するものと認められないから,被告が「TOKYU」及び「tokyu」の表示を営業表示として使用した行為は不正競争防止法2条1項2号の不正競争に該当せず,また,上記各営業表示が類似のものと認められない以上,その余の点を検討するまでもなく,被告の上記行為は同項1号の不正競争にも該当しないというべきである。


(5) 付言

 なお,事案にかんがみ,本件の審理の経過について付言する。 

 当裁判所は,第3回口頭弁論期日(平成20年4月10日)に一旦弁論を終結したが,「東急」の営業表示と「TOKYU」又は「tokyu」の営業表示との類似性についての審理が尽くされていないものと考え,弁論を再開した。その上で,当裁判所は,当事者双方に上記各営業表示の類似性に関する主張立証を補充するよう釈明した後,第5回口頭弁論期日(同年8月28日)に,当事者双方に対し,上記釈明後に追加された主張立証以外に他に主張立証がないことを確認の上,弁論終結に至ったものである。


2 結論

 以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がないことに帰するから棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 なお、本判決文中で引用している最高裁判決は、『昭和57(オ)658 商号使用差止等 不正競争 民事訴訟「日本ウーマン・パワー事件」昭和58年10月07日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/17D16AF173CCBADB49256A8500311F87.pdf)です。