●平成20(行ケ)10199 審決取消請求事件 特許権「組ブロック具」

 本日は、『平成20(行ケ)10199 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「組ブロック具」平成20年09月18日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080918150050.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件でも、実施可能要件についての判断、すなわち過度の試行錯誤が必要となる場合には、実施可能要件を満たさないとする判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、


1 取消事由1(実施可能要件についての認定判断の誤り)について

(1) 理由(1)アの認定判断の誤りについて

 ・・・省略・・・

イ 検討

(ア) 本願明細書の特許請求の範囲の記載(前記第2,2)及び段落【0032】の記載(前記ア(カ))によれば,本願発明1ないし4において,「複数のブロック単体を係合により結合させて構成され特定の意味を持つ対象物」は,発明の詳細な説明に実施例(前記ア(エ),(オ))として記載された「うさぎ」や「鳥」に限定されていない。(イ) 対象物を「うさぎ」とする実施例に関する記載(前記ア(エ))において,「各ブロック単体は,・・・互いに係合されて組み立てられ,係合を解除することにより分解されるように,文字の輪郭形状を構成する凸部や凹部あるいは孔を適宜の形状や大きさにすることにより形成されている」(段落【0019】)と説明されている。


 しかし, 「うさぎ」の各部分と「R 」, 「A 」, 「B 」, 「B」,「I」,「T」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体との対応関係については,単に1つの例(「R」の輪郭形状を有するブロック単体により耳付きの頭部を構成し,「A」の輪郭形状を有するブロック単体により前足を構成し,「B」の輪郭形状を有するブロック単体により2個の胴部及び後足を構成し,「T」の輪郭形状を有するブロック単体により頸部を構成し,「I」の輪郭形状を有するブロック単体により人参を構成するもの(段落【0017】,【0018】) ) が示されているにとどまり, (i) 「うさぎ」の各部分と「R」,「A」,「B」,「B」,「I」,「T」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体との対応関係をどのようなものとするのか,(ii)各「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,(iii)各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係をどのようなものとするのかについて,これらを決定するに際し,当業者に対する指針となるような記載は見当たらない。



(ウ) 対象物を「鳥」とする実施例に関する記載(前記ア(オ))においても,「各ブロック単体は,・・・互いに係合されて組み立てられ,係合を解除することにより分解されるように,文字の輪郭形状を構成する凸部や凹部あるいは孔を適宜の形状や大きさにすることにより形成されている」(段落【0028】)と説明されている。


 しかし,「鳥」の各部分と「B」,「I」,「R」,「D」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体の対応関係については,単に1つの例(「B」の輪郭形状を有するブロック単体により羽を構成し,「I」の輪郭形状を有するブロック単体により脚を構成し,「R」の輪郭形状を有するブロック単体により頭部を構成し,「D」の輪郭形状を有するブロック単体により胴部を構成するもの(段落【0027】))が示されているにとどまり,(i)「鳥」の各部分と「B」,「I」,「R」,「D」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体との対応関係をどのようなものとするのか,(ii)各「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,(iii)各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係をどのようなものとするのかについて,これらを決定するに際し,当業者に対する指針となるような記載は見当たらない。


(エ) 発明の詳細な説明の記載を検討しても,「対象物」が「うさぎ」や「鳥」以外の場合について,当業者に対する指針となるような記載は見当たらない。


(オ) 以上によれば,少なくとも「対象物」が「うさぎ」や「鳥」以外の場合には,発明の詳細な説明において,(i)「対象物の名称の綴りから構成されアルファベットからなる」各々の「ブロック単体」を「対象物」のどの部分に対応させるのか,(ii)「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,(iii)各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係をどのように決定するのか,ということについて,何ら具体的な指針が示されていないから,当業者が本願発明1ないし4を実施しようとすれば,過度の試行錯誤が必要となるといわざるを得ない。


 そうすると,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明1ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできず,これと同旨の理由(1)アに係る審決の認定判断に誤りはない。


ウ 原告の主張に対し


 原告は,(i)審査経過,(ii)本願発明の性質及び本質,(iii)当業者の水準及び実施能力,(iv)登録例に照らし,理由(1)アに係る審決の認定判断は誤りであると主張する。


 しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。


(ア) 審査経過について


 原告は,最初の拒絶理由通知をした審査官が,特許法36条違反を指摘しなかったことからすれば,同審査官は,発明の詳細な説明の記載について,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分なものと把握していたと主張する。


 しかし,審査官が,最初の拒絶理由通知において,特許法36条違反の拒絶理由を指摘しなかった以上,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足すると理解していたのであるから,特許法36条違反の拒絶理由を通知することができないとする原告の主張は根拠がなく,失当として排斥されるべきである。


(イ) 本願発明の性質及び本質について


a 原告は,(i)本願発明のようなパズル性あるいは知育性を有する「組ブロック」の技術分野においては,逐一,実施例を挙げなくても,発明を一般化することができる,(ii)本願発明は,「各ブロック単体」を「対象物の名称の綴りから構成されアルファベットからなる文字列の各文字に夫々対応して設け」た点に,発明の本質があるから,係合という大きな概念での特定で十分である,と主張する。


 しかし,本願明細書の前記ア(イ),(ウ)及び(キ)の各記載に示されるように,本願発明は,「組み立てられた対象物が持つ名称の綴り(スペル)等の特定の意味を表現した文字列と使用するブロック単体との関連をもたせ」(段落【0007】,【0008】)るようにした点を課題解決手段とするものであるから,発明の詳細な説明には,この点を基礎付ける具体的な構成,すなわち,(i)各々の「ブロック単体」を「対象物」のどの部分に対応させるのか,(ii)「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,(iii)各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係をどのように決定するのかについて,少なくとも当業者の指針となるに足りる記載を有することが必要というべきである。


 原告の上記主張は,いずれも採用することができない。


b 原告は,本願発明が先駆的な発明(基本発明)であるとも主張する。


 しかし,本願発明が新規性・進歩性を有するか否かと,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するか否かは,別個の問題である。原告の上記主張は,主張自体失当である。


(ウ) 当業者の水準及び実施能力について


 原告は,本願発明のようなパズル性あるいは知育性を有する「組ブロック」の技術分野においては,当業者の水準をある程度高く想定するべきであり,また,実際にも,その水準は相当に高いものであるから,経験則ないし技術常識に基づいて,本願発明の構成から,本願発明に係る具体的な種々の組ブロック具を創作できると主張する。


 しかし,前記(イ)aのとおり,発明の詳細な説明は,本願発明における課題解決手段を基礎付ける具体的な構成を決定するための指針を何ら記載していない以上,当業者は,これを具体化するに際して,独自の創作を強いられることになるのであって,実施可能要件を充足するということはできない。


 原告は,試行錯誤したが,その結果,種々の組ブロック具(動物)を作成できたとも主張する。


 しかし,原告が,結果として,種々の組ブロック具(動物)を作成できたとしても,その事実が,発明の詳細な説明に,結果を導くための指針が記載されていないという前記認定を左右することにはならない。この点の原告の主張も失当である。


(エ) 登録例について


 原告は,他の発明又は考案において,特許又は実用新案として登録された例がある旨主張する。


 しかし,原告主張の登録例の存在は,発明の詳細な説明の記載について,当業者が本願発明1ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということができるか否かとは,直接かかわりのない事情にすぎない。原告の上記主張は,主張自体失当である。


(2) 小括


 原告は,理由(1)アに係る審決の認定判断に関し,その他縷々主張するが,いずれも理由がない。


 上記検討したところによれば,理由(1)イの認定判断の誤りをいう原告の主張について検討するまでもなく,原告主張の取消事由1は理由がない。


2 結論

 以上によれば,理由(2)ア及びイの当否について検討するまでもなく,本願は特許を受けることができないとした審決の結論は,これを是認することができる。


 よって,原告主張の取消事由2について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。