●知財高裁大合議判決における「除くクレーム」等の解釈

 昨日は、5/30に出され、本日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080530)でも取上げた知財高裁大合議の「除くクレーム」および「新規事項追加の訂正(補正)」について新たな判断基準を示した、『平成18(行ケ)10563 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法」平成20年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080530152605.pdf)以降、新規事項追加の訂正(補正)」について新たな判断基準により判断した3件目の知財高裁事件を取り上げました。


 折角ですので、以前、ボンゴレさんの「弁理士の日々」のブログの「知財高裁大合議」(http://blog.goo.ne.jp/bongore789/e/9279a590d5b3b5586b28e7cf1cc3fd6b)のコメントで、

「私もボンゴレさんにほぼ賛成で、この大合議判決からすると、明細書中に「Bが1〜10%で効果αが発揮される」と記載されていて特許になったのであれば、「Bを1〜5%」、「Bを6〜9%」が出願当初明細書に記載がなくても、それらが効果αの範囲である限り、それらを除く補正や限定する補正も認められると思います。Bの範囲が「1〜10%」から「1〜5%」、「6〜9%」に小さく(狭く)なっており、発明の範囲も狭くなっているので、この点で第三者に何ら不利益を与えないからです。

 もっとも、「Bを1〜5%」、「Bを6〜9%」にしたことにより、「Bが1〜10%」のときと異なる作用効果が異なる場合には、別発明になるので、実質的に新たな技術的事項の追加ともいえ、新規事項の追加になると思います。」

 と、コメントさせていただきましたが、当ブログでも、今回の知財高裁大合議判決の判断について、当方の理解を示しておきたいと思います。


 本判決と同様に訂正審判を一例にして、例えば、請求項および実施例が「α+導電部材」の場合で特許発明Aになったとします。勿論、請求項および実施例には、導電部材の具体例の開示はないものとします。

 
 そして、例えば、特許法29の2により「α+(金の導電部材)」の先願発明が発見され、これを除く必要が生じたとします。上記の通り、特許発明Aの明細書には、(金の導電部材)は記載されていません。


 ここで、知財高裁は、特許発明Aを「α+導電部材」から「α+(導電部材−(金の導電部材))」に、「除くクレーム」により訂正したとしても、この訂正は、あくまで特許発明Aは「α+導電部材」から「α+(金の導電部材)」の部分を除外したと解釈するのであれば、たとえ特許発明Aの出願当初明細書に(金の導電部材)が開示されていなくても、「α+導電部材」からなる特許発明Aの権利範囲の一部(「α+(金の導電部材)」)を捨てたに過ぎないので、新たな技術的事項の追加でない、といっているのではと思います。


 この場合、「除くクレーム」による「α+(導電部材−(金の導電部材))」の発明は、あくまで「α+導電部材」であり、導電部材が金の場合には権利範囲が及ばないだけです。


 また、仮に、特許発明Aを「α+導電部材」から「α+導電部材(銅の場合のみ)」と訂正したとしても、これを「α+導電部材」の特許発明の技術的範囲が、導電部材が(銅の導電部材)以外の場合には及ばない、すなわち(導電部材が銅以外の場合は捨てた)と解釈されるのであれば、導電部材の具体例として銅が特許Aの出願当初明細書に開示されていなくても、上記の場合と同様に、「α+導電部材」からなる特許発明Aの権利範囲の一部(導電部材が銅以外)を捨てたに過ぎないので、新たな技術的事項の追加でなく、知財高裁は、問題なしといっているのではないかと思います。


 勿論、この場合の「α+導電部材(銅の場合のみ)」の発明も、あくまで発明自体は「α+導電部材」であり、導電部材が銅の場合のみ権利範囲が及ぶのであり、「α+導電部材+(銅の場合のみ)」の発明ではありません。