●平成18(ワ)26738 損害賠償等請求事件 著作権 東京地裁(1)

 本日は、『平成18(ワ)26738 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成20年04月18日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080424132542.pdf)について取り上げます。


 本件は,著作権に基づく損害賠償等請求事件で、その請求の一部が認容された事案です。


 本件は、事案の概要に記載されている通り、被告が,原告に無断で,原告が著作者である「ネットワーク基礎」と題する「原告教本」を複製し,著作権者を被告アドバンサーブ,書名を「LAN・ネットワーク設計コース」とする被告教本を作成したことについて,原告が,被告の上記行為は,原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)を侵害し,かつ,今後も侵害するおそれがあると主張して,被告アドバンサーブに対し,侵害の停止又は予防として,被告教本の複製,販売の差止めを請求するとともに,著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償を請求し,また,別の被告が被告教本を販売したことについて,原告が,当該被告の上記行為は,原告の著作権(複製権)を侵害する行為によって作成された被告教本を情を知って頒布することにより原告の著作権を侵害し(著作権法113条1項2号),かつ,今後も侵害するおそれがあると主張して,当該被告に対し,侵害の停止又は予防として,被告教本の販売の差止めを請求するとともに,著作権侵害不法行為に基づく損害賠償を請求する事案です。


 本件では、争点が以下の6つありました。

(1) 原告教本の職務著作性
(2) 被告アドバンサーブによる著作権侵害及び著作者人格権侵害の成否
(3) 被告アドバンサーブに対する差止めの必要性
(4) 被告アドバンサーブに対する損害賠償請求の可否
ア被告アドバンサーブの故意又は過失の有無
イ損害額
(5) 被告ウチダに対する差止請求の可否
アみなし侵害(著作権法113条1項2号)の成否
イ差止めの必要性
(6) 被告ウチダに対する損害賠償請求の可否
不法行為の成否
イ損害額

 
 本日は、(1) 〜(3)の最初の3つの争点について取り上げます。


 つまり、知財高裁(民事第47部 裁判長裁判官阿部正幸、裁判官平田直人、裁判官瀬田浩久)は、


2 争点(1)(原告教本の職務著作性)について

 前記争いのない事実等及び前記1で認定した事実によれば,原告教本は,原告のネットワーク研修に関する業務を担当する部署であるシステム技術部に所属する社員らが,ネットワーク研修に用いる教材として作成したものであり,同教本には著作者として原告名が表示されているのであるから,原告の発意に基づき,原告の社員が職務上作成し,原告の名義の下に公表された職務著作であると認められる。


 したがって,原告は,原告教本の著作者として著作権及び著作者人格権を有する(著作権法15条1項)。


3 争点(2)(被告アドバンサーブによる著作権侵害及び著作者人格権侵害の成否)について

(1) 著作権侵害の成否

 前記1で認定したとおり,被告アドバンサーブの代表取締役及び取締役であるAらは,原告に無断で,原告教本に依拠し,これを複製して被告教本を作成したものである(このことは,原告と被告アドバンサーブとの間で争いがない。)から,被告アドバンサーブは,原告の著作権(複製権)を侵害したということができる。


 これに対し,被告ウチダは,原告から平成15年教本(丙2)の複製,改変を許諾されており,被告教本は,同許諾に基づき,平成15年教本(丙2)を複製し,改変したものであって,原告教本を複製したものではないと主張する。


しかしながら,証拠(甲1,丙2)によれば,そもそも,被告教本と平成15年教本とでは,記述内容が相当に異なっていることが認められるのであって,被告教本が平成15年教本に依拠して作成されたものであると認めることはできない。前記1で認定した原告教本と被告教本との記述内容の同一性に照らすと,被告教本は,原告教本を複製したものと認めるのが相当である。被告ウチダの主張は,採用することができない。


(2) 著作者人格権侵害の成否

 前記争いのない事実等及び前記1で認定した事実によれば,被告教本が,原告に無断で,被告アドバンサーブの代表取締役及び取締役であるAらにより原告教本に依拠して複製されたものであり,かつ,被告教本には原告教本と異なる書名が付されており,被告教本には原告の名称が表示されていないというのであるから,被告アドバンサーブは,被告教本を作成したことにより,原告が原告教本について有する著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害したということができる。


 被告アドバンサーブは,原告は,従前,ネットワーク研修で使用する目的で被告ウチダに販売する教本に関し,被告ウチダの依頼により,「LAN・ネットワーク設計コース」という書名で販売していたのであり,被告アドバンサーブが原告教本の書名を「LAN・ネットワーク設計コース」と変更したのではないと主張する。


 しかしながら,これまでのネットワーク研修で使用された教本について,被告ウチダの依頼により「LAN・ネットワーク設計コース」という書名で販売されてきたとしても,被告アドバンサーブが,被告教本の作成に関して,原告に無断で,原告教本の書名である「ネットワーク基礎」を「LAN・ネットワーク設計コース」に改変することが許されることにはならないというべきである。被告アドバンサーブの上記主張は,採用することができない。


4 争点(3)(被告アドバンサーブに対する差止めの必要性)について

 前記1で認定した事実によれば,被告アドバンサーブは,被告教本に代わる新教本を作成したため,平成17年12月を最後に,被告教本の作成及び販売を行っておらず,現在は被告教本とは全く異なる内容の上記新教本を使用していること,別件訴訟において,被告教本と類似する別件被告教本を作成,販売しないこと等を内容とする訴訟上の和解をしており,被告教本についても上記和解と一括しての解決を求めていたこと,平成18年8月に,被告ウチダから被告教本の購入の申込みを受けたものの,著作権侵害の問題があることを理由に,被告教本の販売を断っていることが認められる。


また,被告ウチダは,同じころ,原告に対し,原告教本の購入の申込みをし,原告から販売を拒否された後は,顧客であるNTTラーニングからの依頼であるにもかかわらず,原告教本の入手を断念し,市販されている教本をNTTラーニングに販売したこと,現在では,独自に作成した教本を使用して研修を実施しており,被告教本を使用していないことが認められる。


 以上によれば,被告アドバンサーブは,現在,被告教本を作成,販売しておらず,同被告において,今後,被告教本を作成及び販売することにより原告の著作権及び著作者人格権を侵害するおそれがあると認めることはできないから,原告の被告アドバンサーブに対する差止請求は理由がない。 』

 と判示されました。

 
 詳細は、本判決文を参照してください。


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