●平成19(行ケ)10095 審決取消請求事件「再帰反射製品,その製造方法

 本日は、『平成19(行ケ)10095 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟再帰反射製品,その製造方法,及びそれを含む衣服製品」平成20年03月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080314135718.pdf)について取り上げます。


 本件は、進歩性違反の拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、進歩性を判断する際、引用発明の意義ないし技術的特徴を参酌して引用発明における必須構成を判断し、その引用発明の必須構成部分を喪失させることはできない、と判示した点で参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


6 取消事由4(相違点1の容易想到性判断の誤り)について

(1) 原告は,引用発明の構成における接着剤層(5)を着色することは容易想到であるとした審決の判断は誤りである旨主張するので,この点について検討する。


 前記3(1)ウに述べたとおり,引用発明は再帰反射シート,中でも交通標識や電飾サイン装置等の表示又は装飾装置に用いる再帰反射シートに関するものであるが,引用発明の構成は,従来技術においては光反射層が全面に設けられているため前方側から光を照射したときにのみ効果があり,光反射層の後方側から光を照射した場合には前方からこの光を観察し得ないという課題を踏まえ,これを解決するための技術的特徴を備えるものであって,具体的には,光反射層の前方からの再帰反射光及び後方からの透過光をいずれも観察できるように,光反射層(例えばアルミニウム層)に所定パターン(例えば市松模様)の光透過部分を形成する点に技術的特徴を有するものである。


 したがって,このような引用発明の意義ないし技術的特徴に鑑みれば,引用発明における光透過部分は光を透過し得るものであることを必須の構成とするものである。


 なお,引用発明は,光透過部分の光透過率は光透過部分の幅及び光反射層の幅を適当に選択することでコントロールすることができるものとされ(前記3(1)イ(ウ)d),また引用発明の再帰反射シートの前後に透明着色フィルムを配列することで(前記3(1)イ(ウ)e),光透過率が低減するような構成を付加する場合が予定されているが,上記のような引用発明の意義に照らせば,上記光透過部分の幅の調整や付加的構成を前提としても光透過部分の光透過率がなくなることは想定されていないというべきである。


 これに対し本願発明は,前記2(3)に述べたとおり,典型的には高速道路の建設及び補修作業者並びに消防士により着用される衣服において使用される再帰反射製品であり,従前,蛍光の地色部分と再帰反射機能を有する部分とを個別に作製して縞形態に貼り合わせることによって着用者の存在を目立たせていた従来技術に対し,再帰反射縞(第1セグメント)と着色セグメント(第2セグメント)とを2種の異なるセグメントを含む単一の構築物として形成することによって,第1セグメントの再帰反射領域が離層ないし基材から分離しないとか,より少ない層で済むため衣服の総重量を減らしその柔軟性を高めるとか,第2セグメントは,第1セグメントと同程度に再帰反射性ではないものの,上記従来製品の非再帰反射性の蛍光色部分よりも高い再帰反射性を有するなどといった効用を図ったものである。


 このような本願発明の意義ないし技術的特徴に鑑みれば,相違点1に係る本願発明における着色バインダー層の構成は,蛍光色を典型とする目立つ色で着色されることを予定しており,しかも第2セグメント部分において従来技術のものよりも高い再帰反射性を有することが期待されていることからすれば,少なくとも着色バインダー層が透明ないし光透過性のものであることは予定されていないと認められる。


 そうすると,引用発明の光透過部分を本願発明の着色バインダー層のように蛍光色を典型とする目立つ色で着色し,光透過性でないものにすることは,引用発明の必須の構成である光透過部分の光透過性を喪失させることにほかならないから,相違点1の構成を引用発明から容易想到ということはできない。


(2) これに対し被告は,引用例2(甲2)や審決で引用した周知例(甲3)その他の文献から明らかなとおり,着色したいところに着色することは当然のことであるとか,着色することに格別の技術的意義があるとはいえないなどと主張する。


 確かに,引用例2(甲2)には,「…織布や合成樹脂シート等の基材5に接着塗料をコーティングして塗料層6を形成する。該塗料層6内にはアルミ微細粉又は透明で扁平な塩基性炭酸鉛等の反射材7(屈折率1.7以上が望ましい)が混在されるとともに,必要に応じて着色剤も混在される。」(2頁右下欄5行〜10行)として,織布や合成樹脂シート等の基材を着色剤で着色することが,また周知例(甲3)には,「逆反射性素子の単層が部分的に埋め込まれ,そして結合剤層の表面に突き出しており,該結合剤層が染料を含むことから成るアップリケを特徴とする逆反射性アップリケ。」(特許請求の範囲【請求項1】)として,逆反射性アップリケの結合剤層に染料を混合することなどが記載されているが,これらの着色対象はいずれも引用発明のように光を透過し得るものであることを必須の構成とするものではないから,引用発明に適用できるものではない。


 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸;<気になった記事>

●『中国中小企業:99%以上が特許出願は未経験』http://www.chinapress.jp/events/9797/
●『中国の中小企業の99%、過去に特許申請の実績なし』http://www.newschina.jp/news/category_1/child_4/item_9596.html
●『中国の大手企業、04〜06年に特許出願した企業はわずか8.8%(SIPO)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=3053
●『「知的財産推進計画2008」の策定に向けて』http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/009.pdf
●『知的財産政策の評価に関するアンケート調査結果』http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/009enquete.pdf