●平成18(ワ)15359 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟(3)

 本日も、昨日に続いて『平成18(ワ)15359 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成20年02月15日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080218161531.pdf)について取り上げます。


 本日は、残りの争点、

(6) 損害の有無及び額(争点6)
(7) 謝罪広告の必要性(争点7)

 について取り上げます。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 平田直人、裁判官 柵木澄子)は、


6 争点6(損害の有無及び額)について

(1) 財産的損害について

ア 被告書籍について,定価が1冊1300円であること,販売部数が7500部であること,上記販売につき卸売販売価格が1冊780円であること,被告書籍の発行部数は8000部であり,これを発行するために被告汐文社が要した費用は,印刷製本代352万5970円のほか,162万円(出荷手数料52万円,広告費50万円,編集費30万円及び営業費30万円)であること,被告Bが被告書籍について得る印税は,1冊につき,定価1300円の5パーセント相当額であることは,当事者間に争いがない。


 また,証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば,本件書籍につき,被告Bが被告汐文社から支払を受けた印税額(利益額)は合計46万8000円であると認められる。
そうすると,被告汐文社が本件書籍の発行により得た利益額は,23万6030円(780円×7500部−352万5970円−162万円−46万8000円)となる。


イ さらに,被告書籍のうち,本件書籍に関する原告の著作権を侵害するのは,別紙「本件書籍と被告書籍との文章対比表」の「被告書籍」欄に記載の部分であり,証拠(甲2,乙5)によれば,同部分は,行数にして合計約547行である(ただし,1行の途中から始まるものや1行の途中で終わるものについては,侵害部分に係る文字数が同行の文字数の過半数を超えている場合には1行として数え,過半数に満たない場合には1行として数えないものとして算出した。なお,同欄の番号86と番号87については,番号86の最後の行と番号87の最初の行とが同一の行にあたり,同一行内の番号86に係る部分の文字数と番号87に係る部分の文字数とが同一であるため,両者とも過半数に満たないものの,これについては,番号86に行数を加算するものとした。)。


 被告書籍の1頁当たりの行数は12行であり,上記侵害部分を頁数に直すと45頁(小数点以下切捨て)となる。被告書籍の本文(4頁ないし131頁)の総頁数は,頁全体が写真となっている頁(合計3頁)を除くと,125頁であるから,総頁数に対する侵害部分の頁数の割合は,125分の45である。


ウ 著作権法114条2項に基づく場合


 被告らが,被告書籍の制作,発行により得た利益は,前記アによれば,合計70万4030円(46万8000円+23万6030円)である。


 前記イのとおり,総頁数に対する侵害部分の頁数の割合は,125分の45であり,本件書籍に関する原告の著作権の持分割合は100分の65であるから,原告が被った損害は,次の計算式のとおり,16万4743円(円未満切捨て。以下同じ)となる。

(計算式)
70万4030円×45/125×65/100=16万4743円


エ 著作権法114条3項に基づく場合


 本件書籍の使用料相当額は,被告書籍の定価1300円の10パーセントと認めるのが相当である。


 上記ウと同様に,原告が被った損害を算定すると,次の計算式のとおり,22万8150円となる。


 なお,原告は,著作権侵害訴訟における損害額の算定については,通常の取引関係において合意される利用料率よりも高率な利用料率により損害額を算定すべきである旨主張するものの,著作権法114条3項が「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」と規定していることに照らし,採用することができない。

(計算式)
1300円×7500部×0.1×45/125×65/100
=22万8150円

オ 以上によれば,エの算定による方がウの算定によるよりも高額であるから,財産的損害については,22万8150円と認められる。


(2) 精神的損害について


 被告らによる著作者人格権の侵害態様,被告書籍の発行部数,販売部数等,本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,被告らによる著作者人格権の侵害により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は30万円と認めるのが相当である。


(3) 弁護士費用
 本件事案の内容,認容額,本件訴訟の経過等を総合すると,本件著作権侵害行為及び本件著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,10万円と認めるのが相当である。

(4) (1)ないし(3)の合計62万8150円


7 争点7(謝罪広告の必要性)について


(1) 原告は,本件書籍に関する著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害されたとして,被告らに対し,謝罪広告の掲載を請求する。


 著作者は,故意又は過失によりその著作者人格権を侵害した者に対し,著作者の名誉若しくは声望を回復するために,適当な措置を請求することができ(著作権法115条),「適当な措置」には謝罪広告の掲載も含まれる。


 同条にいう「名誉若しくは声望」とは,著作者がその品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち社会的名誉声望を指すものであって,人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価,すなわち名誉感情を含むものではないと解される。


(2) 本件についてみると,前記1(1)認定のとおり,そもそも,本件書籍は,被告Bの体験や心情等をつづった自叙伝であり,本件書籍の表紙には,被告Bの写真,本件書籍の書名「運命の顔」との表記と共に,被告Bの氏名のみが記載され,本件書籍の背表紙にも,被告Bの氏名のみが記載されており,原告の氏名は,本件書籍の末尾奥付に,「著者」として被告Bの氏名が記載されるとともに,「構成」として記載されているにとどまること,被告書籍も,本件書籍と同様に,被告Bの体験や心情等をつづった自叙伝であること,被告書籍の内容,被告書籍の販売部数が7500部とそう多くはないこと等に照らし,被告書籍が発行されたことによって,原告に対する社会的な名誉が毀損されたとまで認めることはできないから,謝罪広告の掲載を求める請求は理由がない。


8 よって,原告の本訴請求は,被告らに対し,民法719条に基づき,連帯して62万8150円及びこれに対する被告書籍の発行日である平成16年11月30日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を,著作権法112条1項に基づき,被告書籍の複製,頒布の差止めを,被告汐文社に対し,同条2項に基づき,被告書籍の廃棄を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,仮執行宣言の申立てについては,主文記載の限度でこれを相当と認め,その余は相当でないので却下することとして,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。