●平成19(ワ)16775 著作権侵害差止請求事件(2)

  本日は、昨日に続いて『平成19(ワ)16775 著作権侵害差止請求事件 著作権 民事訴訟 平成20年01月28日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080128174124.pdf)の残りの争点3,4について取り上げます。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 山田真紀、裁判官 間明宏充)は、争点3(本件両作品の著作権の存続期間の満了時期)と、争点4(差止め及び廃棄請求の可否)とについて、


3 争点3(本件両作品の著作権の存続期間の満了時期)について

(1) 旧著作権法による本件両作品の著作権存続期間

ア 上記第2,2(前提となる事実)(2)によれば,本件両作品は,現行著作権法の施行前に公表された著作物であると認められるところ,同法附則7条は,同法の施行前に公表された著作物の著作権の存続期間については,当該著作物の旧著作権法による著作権の存続期間が現行著作権法の規定による期間より長いときは,なお従前の例によると規定していることから,まず,本件両作品の旧著作権法による著作権の存続期間について検討する 。


イ 旧著作権法は,22条ノ3において,映画の著作物の著作権の存続期間につき,独創性を有するものについては3条ないし6条及び9条の規定を適用し,独創性を欠くものについては23条の規定を適用すると定めていたところ,上記第2,2(前提となる事実)(2)によれば,本件両作品は独創性を有する映画の著作物であると認められるから,本件両作品の著作権の存続期間は,旧著作権法3条ないし6条及び9条の規定により規律される。


 この点,旧著作権法は,

3条 発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ著作者ノ生存間及其ノ死後三十年間継続ス
 2  数人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作権ハ最終ニ死亡シタル者ノ死後三十年間継続ス
4条 著作者ノ死後発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発表又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス
5条 無名又ハ変名著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス但シ其ノ期間内ニ著作者其ノ実名ノ登録ヲ受ケタルトキハ第三条ノ規定ニ従フ
6条 官公衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス


と規定し,著作権の存続期間について,著作者の死亡時期を起算点として一定期間存続するものとした上で(3条5条ただし書 ),著作者の死亡後に発行又は興行された著作物については,当該発表又は興行の時点を(4条),無名又は変名著作物及び団体の著作名義で発行又は興行された著作物については,当該発行又は興行されたとき(5条本文及び6条)をそれぞれ起算点として一定期間存続するものと定めている。


 これらの規定の仕方に加えて,上記1(1)のとおり,元来,著作者となり得るのは自然人であるとされていたことにかんがみれば,旧著作権法は,著作権の存続期間につき,著作者の死亡時期を起算点として一定期間存続することを原則とし,著作者の死亡時期が観念できなかったり,判別できないため上記原則を適用できない無名・変名著作物及び団体著作物について,例外的に5条本文及び6条によって規律するものと解される。


 そうすると,旧著作権法6条が定める団体著作物とは,当該著作物の発行又は興行が団体名義でされたため,当該名義のみからは著作者の死亡時期を観念ないし判別することができないものをいうと解するのが相当である。


ウ これを本件についてみると,本件両作品のクレジットには ,「松竹映画」と団体である原告名義の表示のほか「監督黒澤明」の表示がされているところ(甲15, 乙9 ), これは著作者である黒澤の実名を表示したものと認められるから,本件両作品は,著作者の死亡時期を観念ないし判別することができない著作物であるとはいえない。


 そうすると,上記第2,2(前提となる事実)及び争点1の認定によれば,本件両作品は,著作者である黒澤の生前に公開されたものであることが認められるから,これらの著作権の存続期間は,旧著作権法3条により規律されるというべきである。


 旧著作権法3条及び52条1項は,当該著作物の著作権の存続期間は,著作者が生存している間及びその死後38年間と規定しているところ,黒澤は平成10年(1998年 ) 9月6日に死亡したのであるから(甲2),旧著作権法の規定に基づく本件両作品の著作権の存続期間は,同法9条により,平成11年(1999年)1月1日から起算して38年間,すなわち平成48年(2036年)12月31日までとなる。


エ 被告は,本件両作品が団体著作物であり,旧著作権法6条,52条2項の規定により, 団体著作物の著作権の存続期間は, 公表後33年となるから本件両作品の著作権保護期間は既に満了していると主張するが,この主張が採用できないことは,以上の説示に照らし明らかである。


(2)平成15年改正法による改正前の著作権法による本件両作品の著作権存続期間

 平成15年改正法による改正前の著作権法54条1項は,映画の著作物の著作権は,その著作物の公表後50年間と規定しているところ,本件作品1は,昭和25年(1950年)4月26日に,本件作品2は,昭和26年(1951年)6月1日 にそれぞれ公開されたのであるから,同法の規定に基づく著作権の存続期間は,同法57条により,それぞれ平成12年(2000年)12月31日,平成13年(2001年)12月31日までとなる。


 そうすると,旧著作権法による著作権の存続期間が平成15年改正法による改正前の著作権法の規定による期間より長いというべきであるから,同法附則7条により本件両作品の著作権の存続期間は,いずれも,平成48年 (2036年)12月31日までとなる。


(3) 平成15年改正法による改正後の著作権法による本件両作品の著作権存続期間平成15年改正法による改正後の著作権法54条1項は,映画の著作物の著作権は,その著作物の公表後70年間と規定しているから,同法の規定に基づく著作権の存続期間は,同法57条により,本件作品1については平成32年(2020年)12月31日,本件作品2については平成33年(2021年)12月31日までとなる。



 もっとも,著作権法の一部を改正する法律(平成15年法律第85号)附則3条は,現行著作権法の施行前に創作された映画の著作物であって,同法附則7条の規定によりなお従前の例によることとされるものの著作権の存続期間は,旧著作権法による著作権の存続期間の満了する日が平成15年改正法による改正後の著作権法54条1項の規定による期間の満了する日後の日であるときは,旧著作権法による著作権の存続期間の満了する日までの間とすると規定している。


 そして,本件両作品は,前示のとおり,現行著作権法の施行前に創作された映画の著作物であって,同法附則7条の規定によりなお従前の例によることとされるものであり旧著作権法による著作権の存続期間の満了する日 (平成48年(2036年)12月31日)が平成15年改正法による改正後の著作権法54条1項の規定による期間の満了する日(本件作品1については平成32年(2020年)12月31日,本件作品2については平成33年(2021年)12月31日)後の日であるから,本件両作品の著作権の存続期間は,いずれも平成48年(2036年)12月31日までというべきである。


(4) 以上によれば本件両作品の著作権の存続期間は平成48年(2036年) 12月31日までと認められるから,いずれも著作権の存続期間は満了していない。


4 争点4(差止め及び廃棄請求の可否)について


 本件被告商品につき,平成19年2月ころから,被告が録画用原版まで製作した後,海外において第三者に製造させ,頒布目的で輸入し,販売していたことは争いがない。


 そうすると,被告が録画用原版を製作したことは,原告が本件両作品について有する複製権を侵害するものであるし,前示のとおり,本件被告商品は,輸入の時において国内で作成したとしたならば原告が本件両作品について有する複製権の侵害となるべき行為によって作成された物であるから,被告が本件被告商品を輸入する行為は原告の著作権を侵害する行為とみなされる(現行著作権法113条1項1号)。また, 本件被告商品を販売する行為は,原告の著作権(頒布権)を侵害する。


 もっとも,被告は,上記のとおり,本件両作品の録画用原版を製作し,本件被告商品を海外において第三者に製造させているが,そのほかに被告が本件両作品を複製したり,本件被告商品を国内において製造・複製していることを認めるに足りる証拠はなく, またそのおそれがあると認めるに足りる証拠もない。


 したがって,原告は被告に対して,本件被告商品の輸入及び頒布の差止め並びに同商品の在庫品及びその録画用原版の廃棄の限度で,これを求めることができるというべきである。


第4 結論

 以上の次第で,原告の請求は,本件両作品の著作権に基づき,本件被告商品の輸入及び頒布の差止め並びにその在庫品及び録画用原版の廃棄を求める限度で理由があるから,これらを認容し,その余の請求は理由がないので,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法67条1項,61条,64条ただし書を適用し,仮執行宣言は,相当でないので,これを付さないこととして,主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


 昨年12月に出された『平成19(受)1105 著作権侵害差止等請求事件「シェーン格安DVD販売差止」平成19年12月18日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071218155544.pdf)と対比すると違いが分かりますね。


 詳細は、本判決文を参照してください。