●平成19(ネ)10063等 不正競争行為差止等請求控訴事件(2)

  本日は、昨日に続いて『平成19(ネ)10063等 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟 平成20年01月17日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080118115946.pdf)の残りの争点について取り上げます。


 つまり、知財高裁(裁判長裁判官塚原朋一 裁判官宍戸充 裁判官柴田義明)は、

3 争点1(被告商品の製造・販売等は,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当するか)の被告商品Cに関する判断について(被控訴人附帯控訴部分)


(1) 原判決は,原告商品3の形態として,長袖,前あき金属ファスナー止めのフード付きパーカーで,裾及び袖口の内側から突出するようにレース編み布地が付されていること,左胸部に黒色のワンポイント飾りがあることであり,これらは他の商品に見られるありふれたものでないとしたのに対し,被控訴人は,それらの特徴を備える商品は原告商品3以前に存在し,原告商品3は,それらの要素を当たり前の手法で組み合わせたにすぎず,原告商品3と被告商品Cとに実質的に同一性がない旨主張する。


 しかし,不正競争防止法2条1項3号の規定によって保護される商品の形態とは,商品全体の形態である。そして,上記のような原告商品3の商品全体の形態について,原告商品3の前に,これと同様の形態が存在したとは認められず,また,同様の形態が存在しないことからも,その組合せが個性を有しないというものではないから,このような原告商品3の形態は,他の商品に見られるありふれたものではない。


 被控訴人は,その個々の部分を取り上げて,それらの特徴を備える商品が存在したことやそれを当たり前の手法で組み合わせたものにすぎないとするのであるが,ここで問題となるのは,商品全体の形態が同一であるかどうかであり,個々の要素がありふれたものであることやその組合せが容易であるか否かではないから,ありふれた要素を当たり前の手法で組み合わせたにすぎないことに基づき原告商品3と被告商品Cとに実質的に同一性がないとする被控訴人の主張は,失当である。


(2) 被控訴人は,原告商品3と被告商品Cはレースの取外しができる点で異なり,実質的に同一でない旨主張する。


 被告商品Cは,袖口と裾口のレースがボタンによって取外し可能であると認められる。


 しかし,不正競争防止法において,「商品の形態」とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部の形状等及びその形状に結合した模様等をいう(不正競争防止法2条4項)ところ,被告商品Cにおいて,袖口及び裾口のレースを付けることは,需要者による通常の用法に従った使用ということができるのであるから,袖口及び裾口のレースを付けた状態の形状等を被告商品Cの形態ということができる。


 被控訴人は,被告商品Cは,袖口及び裾口のレースが取り外しでき,レースを付けたもの以外は商品の形態に同一性がないことをいうのであるが,レースを付けた状態が通常の用法に従った使用であるといえる以上,その形態を被告商品Cの形態ということができ,被告商品Cのレースが取り外しできることによって,被告商品Cが,袖口及び裾口にレースを付けた上記形態を有するといえなくなるものではないから,被控訴人の主張は上記認定判断を左右するものではない。


 なお,被控訴人の主張中には,はみ出すレースの長さ,面積の相違から,原告商品3と被告商品Cが実質的に同一でないと解される部分もあり,確かに,裾のレース部分について,原告商品3においては,衣服丈の下端部から下に約2センチメートル突出しているのに対し,被告商品Cにおいては,衣服丈の下端部から下に約3.8センチメートル突出しているのであるが,原告商品3と被告商品Cとの全体の形態を比較したとき,この相違は,その小ささからも,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見るとささいな相違にとどまると評価することが相当である。


(3) 被控訴人は,原告商品3と被告商品Cはシルエットが異なり,実質的に同一でない旨主張する。


 前記のとおり,洋服のシルエットの相違について,シルエットの異なる度合いなども考慮し,その相違が商品の全体的形態に与える影響によって,形態の同一性を判断すべきである。


 原告商品3と被告商品Cは,長袖,前あき金属ファスナー留めのフード付きパーカーであり,生地は灰色であり,フードは黒いリボンで窄めることができ,衣服丈の下端部内側から数センチメートル突出するように,胴の周方向に黒色のレース編み布地が付され,両袖下端部内側から突出するように,袖の周方向に黒色のレース編み布地が付され,左胸部に黒色のワンポイント飾りが施されている点で共通する。


 他方,被控訴人が主張するシルエットに関する部分については,原告商品3の方が身幅が広めで丈が長く,裾レースの突出量が被告商品Cの方が約1.8センチメートル長いなどの違いがあり,これらにより原告商品3と被告商品Cのシルエットは異なると認められる。


 ここで,原告商品3と被告商品Cは,どちらも,上着として使用できるフード付きパーカーであって,身幅,丈の違い等の上記相違について,その程度を考慮すると,上記のような共通点があり,それが商品の特徴的な部分であるといえるフード付きパーカーの原告商品3と被告商品Cにおいて,上記相違点は,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見るとささいな相違にとどまると評価することが相当である。


 また,被控訴人は,原告商品3は身幅が広めで上着としての着用に限られ,丈が短く10台後半を中心とする商品であるのに対し,被告商品Cはインナーとしてその上に更に重ねてコートやジャンパーも着用でき,細身の着丈の長いシルエットであって,10代後半より年上のOLなどが着回して着用できるものなど,使用目的などが異なり,代替可能な商品の関係にあるものではない旨主張する。


 しかし,本件においては,商品の形態の同一性が問題となっていて,被控訴人が主張するシルエットの違いを考慮しても,商品の特徴的な部分の同一性から,原告商品3と被告商品Cの形態が実質的に同一であると認められることは上記のとおりであり,被控訴人主張は,上記認定判断を左右するものではない。


( 4) 被控訴人は,原告商品3と被告商品Cはワンポイント飾りが異なり,実質的に同一でない旨主張する。


 しかし,ワンポイント飾りを付すか否かなどと比べ,そのワンポイント飾りの内容を相違させることは容易に着想できるものであり,改変の程度も,商品全体の形態との比較で小さな改変といえるものであり,ワンポイント飾りの内容の相違は,わずかな改変であって商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体からみてささいな相違にとどまると評価することが相当であるから,ワンポイント飾りが異なることを根拠として原告商品3と被告商品Cが実質的に同一でないことをいう被控訴人の主張は採用できない。


( 5) 被控訴人は,被告商品Cは,原告商品3と無関係に開発されたものが,パーカーとして基本的な形態であったため,当時の流行のもと,たまたま近似するデザインになったにすぎないとして,被告商品Cは原告商品3に依拠していない旨主張する。


 しかし,原告商品3は,平成17年5月24日から26日までの間に開催された展示会に出品され,同年8月26日から販売され,被告商品Cは,同年12月22日から販売されたものである。


 そして,当時洋服にレースを使うことが流行していたとしても,被告商品Cの形態が決して単純なものとはいえないこと,同商品のデザインがされる過程を裏付ける書証がないことに,被告商品Cの販売前に,被控訴人が原告商品3に接する機会があったこと,原告商品3と被告商品Cが実質的に同一といえるものであることを考慮すれば,被告商品Cは,原告商品3に依拠したものと認められる。


 さらに,被控訴人は,不正競争防止法の趣旨から,仮に,後行者の商品が先行者の商品に依拠して商品化したものと認定したとしても,後行者が商品化のために資金・労力を投下して新たに形態を案出している場合には,先行者の開発費用にただ乗りしたという関係にはなく,先行者の商品と後行者の商品との間には,実質的同一性,依拠した関係は認めらず,被告商品Cの開発,製造に当たって,原告商品3の存在により節減できる費用は想定されず,被告商品Cが先行者の開発費用にただ乗りしたという関係にはない旨主張する。


 しかし,被告商品Cは,原告商品3と実質的に同一の形態であり,それに依拠していると認められるから,被控訴人は先行者の開発した形態を利用しているといえるのであり,被控訴人の主張は採用できない。


4 争点1(被告商品の製造・販売等は,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当するか)の被告商品Dに関する判断について(控訴人控訴部分)


 (1) 原判決は,原告商品4と被告商品Dの形態の実質的同一性を否定したのに対し,控訴人は,両商品の基本的形状は同一であること,原告商品4の最も顕著な特徴である見頃下の部分及び両袖(前腕部)に透かしレース部分が付されていることが同一であること,相違点はいずれもわずかな改変に基づくものであることなどを挙げて,原審の判断が誤りである旨主張する。


 しかし,レースが付されている長袖カーディーガンにおいて,レースをどこに付すかや後身頃における生地とレース部分とのバランスは,商品の形態に変化を与える重要な要素といえるものであり,原告商品4と被告商品Dは,背面部における透かしレース部分の配置と生地とのバランスに顕著な相違があり,原告商品4と被告商品Dは,形態が実質的に同一であるということはできない。


 控訴人は,原告商品4の最も顕著な特徴が被告商品Dにみられ,背面上部のレースを付さなくても全体的な印象に変化はないことなどをいう。しかし,原告商品4と被告商品Dが,カーディーガンの見頃下の部分や両袖に透かしレース部分が付されている点において共通しているとしても,そのような部分にレースを施すこと自体が保護されるのではなく,原告商品4の具体的な形態が保護されるのであり,レースが付されている長袖カーディーガンにおいて,背面上部にレースを付すか否かや後身頃における生地とレース部分とのバランスの顕著な相違は,商品の形態に変化を与えるものということができ,原告商品4と被告商品Dの形態が実質的に同一であるとはいえない。


(2) 原判決は,原告商品4の地とレースの色のコントラストがさほど強くないが,被告商品Dはそのコントラストが強いと判断したのに対し,控訴人は,原告商品にも被告商品にもカラーバリエーションがあり,コントラストの強弱によって原告商品4と被告商品Dの実質的同一性を否定したことは誤りである旨主張する。


 確かに,証拠(乙63の2,3,乙76の16,19,23)によれば,被告商品Dには,カラーバリエーションがあり,地とレースの色のコントラストは,そのカラーバリエーションによって異なるともいえるが,原告商品4と被告商品Dの地とレースの色のコントラストの強弱を考慮しなくとも,前記(1)のとおり,レースの施し方の顕著な違いなどから,原告商品4と被告商品Dの形態は,実質的に同一とはいえないものである。


 したがって,原告商品4と被告商品Dの実質的同一性を否定できないことをいう被控訴人の主張は採用できない。


5 争点2(損害の発生及びその額)について


 被控訴人は,被控訴人の販売と控訴人の損害との因果関係がない旨主張し,その根拠として,控訴人代表者の陳述書(甲28)は,量産後は追加の発注を予定していないことを示し,また,発注書(甲17)は,追加のオーダーが極めて例外で,本来の発注期間(展示会終了後3日間)終了後,実際の量産開始前の数日間しか注文が予定されていないことを示すとする。


 しかし,それらの証拠によって,控訴人が,一般的に展示会の直後に注文を受け付けていたことなどが認められるとしても,当初受注後に,控訴人が新たに原告商品を製造・販売することが,契約上又は事実上,不可能であったとの事情を認めることはできないのであり,被控訴人の販売と控訴人の損害との間に因果関係がないことをいう被控訴人の主張は理由がない。


 その他,被控訴人は,原審における訴訟経過などをいい,被控訴人の販売と控訴人の損害との間に因果関係がないことをいうが,被控訴人主張のような訴訟経過があるとしても,前記引用に係る原判決の第4の2(2)及び上記説示に照らし,被控訴人の主張を採用することができない。


 6 以上によれば,控訴人による本件控訴及び被控訴人による本件附帯控訴はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。