●平成19(ネ)10063等 不正競争行為差止等請求控訴事件(1)

  本日は、『平成19(ネ)10063等 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟 平成20年01月17日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080118115946.pdf)について取り上げます。


 判決文の事案の概要に記載されているように、本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が製造,販売等する被告商品AないしDが不正競争防止法2条1項3号にいう商品の形態を模倣するものであるとして,同法3条1項に基づく上記商品の製造等の差止め及び同法4条に基づく損害賠償等を請求したところ,原判決が,被告商品A及びCについて,製造等の差止め及び損害賠償の請求(予備的主張の損害の全額)を認容し,被告商品B及びDについて,控訴人の請求を棄却するなどしたため,被告商品B及びDに係る部分について,控訴人が控訴するとともに,被告商品A及びCに係る部分について,被控訴人が附帯控訴し,原判決のそれぞれの上記敗訴部分の判断を争っている事案です。


 本件では、不正競争防止法2条1項3号にいう商品形態の模倣についての判断等が参考になるかと思います。


 本日は、まず、2つの争点について取り上げます。


 つまり、知財高裁(裁判長裁判官塚原朋一 裁判官宍戸充 裁判官柴田義明)は、

『 当裁判所の判断も,当審における当事者の主張に照らし,以下のとおり付加するほか,原判決の第4の1ないし3のとおり(ただし,原判決49頁13行目の「また,」から同19行目の「異なるものとなっている。」までを除く。)であるから,これを引用する。


1 争点1(被告商品の製造・販売等は,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当するか)の被告商品Aに関する判断について(被控訴人附帯控訴部分)


 原判決は,控訴人の展示会が平成17年8月23日から開催されたことや被控訴人がインターネット等を通じて展示会に出品された商品を知り得ることなどを挙げて,被控訴人は,原告商品1に依拠して被告商品Aをデザインし,製造販売したと判断したのに対し,被控訴人は,控訴人の展示会は閉鎖的なものであること,原告商品1がインターネットを通じ公開された具体的な事実について指摘していないことなどを挙げて,被告商品Aは,原告商品1に依拠してデザインされたものでない旨主張する。


 しかし,原告商品1は,平成17年8月23日から25日までの間開催された展示会に出品され,同年11月1日から販売されたところ,被控訴人のデザイナーから下請けメーカーに対するデザイン指示書の作成は同年11月17日であり,平成18年1月12日から被告商品Aが販売されている。


 そして,控訴人の展示会は,顧客である卸売業者等を招待して行うものではあるが,招待状がない者でも入場できないわけではないことが記載された証拠(甲28)があるだけでなく,入場者数がごく少人数で,一人一人の入場者の身元を厳密に確認し,また展示内容を秘密にする義務を負わせているものとは認められないから,直接,又は,入場者が撮影した商品の写真をインターネットその他によって得るなどして間接に,被控訴人は,原告商品1に接する機会があったといえるのであり,そのことに,原告商品1と被告商品Aは実質的に同一であることや,被告商品Aの販売時期等を考えると,被告商品Aは,原告商品1に依拠してデザインされたものであると認めることが相当である。


 被控訴人は,控訴人の展示会が閉鎖的である旨主張するが,上記のとおり,展示会の性質等を考慮しても,被控訴人が展示会の商品に接する機会がなかったとはいえないし,また,原告商品1がインターネットを通じ公開された具体的な事実を示す証拠がないとしても,直接又は間接に,被控訴人が原告商品1に接する機会があったといえることは上記のとおりであり,原告商品1と被告商品Aが実質的に同一であることなど上記の事実に照らせば,原告商品1がインターネットを通じ公開されたことが具体的に認められなくとも,上記認定を左右するものではない。


 また,被控訴人は,原告商品1と被告商品Aは,レース業界の4分の1程度のシェアを占める協和レースが前開きの胴回り用に開発した幅広の既成のレースをたまたま採用したところ,女性ファッション界においてレース使いが大きな流行となっていて,原告商品1もこの潮流下における商品であり,自ら開発したものではない既成レースの当然に想定された使用方法の採用をもって,被告商品Aが原告商品1に依拠したものと認定することは妥当ではない旨主張する。


 しかし,既成のレースを使用しても同一の形態の商品が開発されるとは限らないのであり,上記のとおり,原告商品1と被告商品Aは実質的に同一であることや,被告商品Aの販売時期等を考えると,被告商品Aは,原告商品1に依拠してデザインされたものであると認めることが相当であり,被控訴人が主張する既成のレースの使用やレースを使うことが流行であったことなどが,上記認定を左右するものではない。


 したがって,被告商品Aが原告商品1に依拠してデザインされたものでないことをいう被控訴人の主張は採用できない。


2 争点1(被告商品の製造・販売等は,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当するか)の被告商品Bに関する判断について(控訴人控訴部分)


(1) 原判決は,原告商品2と被告商品Bが実質的に同一であると判断したのに対し,被控訴人は,両商品に使用されているレースがいずれも協和レースから市販されていたレースであること,そのレースを本来の施し方に沿って,定番のノースリーブに使用したことなどから,レースの形態の共通性を理由として両商品の同一性が認めることはできない旨主張し,また,原告商品2と被告商品Bのシルエットが異なるとして,両商品が同一でない旨主張する。



 不正競争防止法は,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を禁止するところ,「模倣」とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい(同法2条5項),「商品の形態」とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様等をいう(同条4項)。


 そして,商品の外部の形状等が同一であれば,同一の形態の商品とされるのであって,市販品を利用して作り出された形態が,具体的事実関係により,他人の商品に依拠したものではないなどとされることがあるとしても,外部の形状等が同一であるにもかかわらず,商品に市販品を使用したことによって,直ちに商品の形態の同一性が否定されるものではなく,被控訴人の主張は採用できない。なお,ノースリーブのノースリーブのシャツのV字型の開口部にレースを施すことは,商品の機能を確保するための不可欠な形態(同法2条1項3号括弧書)ではない。


 また,洋服のシルエットが相違することにより,商品の形態の同一性が否定されることはあるが,シルエットの異なる度合いなども考慮し,その相違が商品の全体的形態に与える影響によって,形態の同一性を判断すべきところ,本件においては,原告商品2と被告商品Bについては,袖がなく(ノースリーブ),襟刳りが幅広でV字状に開いたシャツであり,生地は,白色で,身丈方向に縞模様状の凹凸があり,V字状の襟刳り部分に協和レース製の同じ白いレース編み布地を付しているという同一ないし共通点があるのに対し,シルエットに影響する相違点は,基本形状について,原告商品2は,全体が大きく長くゆったりとし,上から下まで同じ周囲のいわゆる寸胴型のデザインであるのに対し,被告商品Bは,全体が小さく短くほっそりとしていて,ウエスト部分が細くなっているというものである。


 そして,上記相違について,その程度を考慮すると,上記のような同一ないし共通点があり,それが商品の特徴的な点であるノースリーブのシャツの原告商品2と被告商品Bにおいて,上記の相違は,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見るとささいな相違にとどまると評価することが相当である。


 したがって,原告商品2と被告商品Bの形態が同一でないことをいう被控訴人の主張は採用できない。


(2) 原判決は,被告先行商品の存在を理由に,被告商品Bは,原告商品2に依拠したものでないとしたのに対し,控訴人は,被告先行商品が被告商品Bとは異なる印象を与えるものであること,被控訴人に模倣体質があることを挙げて,被告商品Bが原告商品2に依拠してデザインされたものである旨主張する。


 確かに,被告先行商品と被告商品Bをみると,被告先行商品は,シャツの前面にロゴが付され,レースを襟ぐりの背面に施したものであるのに対し,被告商品Bは,シャツの前面にロゴを付すものではなく,レースを襟ぐりの前面に施したものであり,また,両商品に付されているレースは同じではないから,両商品には異なる点がある。


 しかし,被告先行商品と被告商品Bは,シンプルなノースリーブのシャツの襟ぐりにレースを付していることで共通していて,被告商品Bに付されたレースは,被告商品Bの製造当時に,協和レースによって市販されているものであったこと,そのレースは,その形状から襟ぐりに施すことが考えられるものであったこと,ロゴの有無はその他のデザインとの関係で変更をすることが容易であることなどを考慮すると,被控訴人が,シンプルなノースリーブのシャツの襟ぐりにレースを付した被告先行商品を既に開発していたとき,市販されているレースを同様のノースリーブのシャツの襟ぐりに設け,被告商品Bをデザインすることが可能であったといえるのであり,被告商品Bが,原告商品2に依拠しているものであると認めることはできない。


 また,被控訴人の商品には,被告商品A及びCのように,控訴人の商品の形態を模倣していると認められるものもあるのであるが,そのことによって,被控訴人の商品がすべて他人の商品の形態を模倣しているものとなるものではなく,被控訴人の商品の中で,他人の商品の形態を模倣したものの割合も不明であり,他人の商品の形態を模倣した商品が存在していることを根拠として,被告商品Bにつき,原告商品2に依拠していると認めることはできない。


 したがって,被告商品Bが原告商品2に依拠してデザインされたものであることをいう控訴人の主張は採用できない。 』


 と判示されました。

 
 なお、不正競争防止法2条1項3号にいう不正競争行為とは、

「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為 」

であります。


 不正競争防止法の条文は、こちら(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H05/H05HO047.html)となります。 


 残りの争点についての判断については、明日以降、掲載します。


 追伸1:<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10190 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「スロットマシン」平成20年01月16日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080117144415.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『訴訟リスクに応じた特許分析の提案』http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/etc/yd20080118.html
●『2007年の米特許件数、前年比9.5%減に』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0801/16/news021.html