●平成18(行ケ)10316審決取消請求事件「ガソリンエンジン用燃料油」

  今年も今日で最後ですね。来年も宜しくお願いします。

  さて、本日は、『平成18(行ケ)10316 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟ガソリンエンジン用燃料油」平成19年12月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071227104322.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法29条2項による進歩性を否定するための公知発明のうち同法29条1項3号に該当する発明についての判示と,組合せの動機付けについての判示等が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官三村量一、裁判官嶋末和秀、裁判官上田洋幸)は、

1 引用発明の公知発明としての適格性について


 原告は,引用発明が進歩性を否定するための公知発明としての適格性を欠く旨主張する。

 しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。

(1) 特許法29条2項は「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは,その発明については,同項の規定にかかわらず,特許を受けることができない。」と規定している。


 そして,特許発明又は特許を受けようとする発明(以下 「特許発明等」という。)の進歩性を否定するための公知発明のうち,同法29条1項3号に該当する発明についていえば,同項3号にいう特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」というためには,特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りると解するのが相当である。


 例えば,特許発明等が「物」の発明の場合にあっては,特許発明等と対比される刊行物の記載としては,その「物」の構成が,特許発明等の内容との対比に必要な限度で開示されていることが必要であるが,当業者が,当該刊行物の記載及び特許出願時の技術常識に基づいて,その「物」を入手又は製造し,使用することができれば,必ずしも,当該刊行物にその「物」を製造する具体的な方法が開示されている必要はなく,また,当該刊行物に記載された具体的な「物」それ自体でなくても,特許発明等の内容との対比に必要な限度でその「物」と同一性のある構成の「物」を入手又は製造し,使用することが可能であれば,それで足りるというべきである。


(2) 上記の観点から引用例には,引用発明に係る1−1Rガソリンの成分組成が記載されているものの,その製造方法の記載がないから,1−1Rガソリンを製造することは困難であった旨の原告主張について,検討する。


 ・・・省略・・・

 また,所定の成分組成を満足するガソリンを製造する場合,複数のガソリン基材を適宜配合し調整することは常套手段であり(本件明細書の段落【0008】の記載は,これを前提とするものと解される。),1−1Rガソリンも同様の方法により製造されたものであることは,当業者には自明であったと認めるのが相当である。


イ 上記アによれば,引用例記載の1−1Rガソリンの成分組成を厳密に再現することはともかく,本件明細書の特許請求の範囲の記載により特定される本件発明の内容との対比に必要な限度で前記1−1Rガソリンと同一性のある構成を有するガソリンについて,当業者が,これを引用例の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づいて入手又は製造し,使用することが可能であったと認めるのが相当である。


(3) したがって,審決 ,本件発明の進歩性の有無を判断するため,引用発明を,特許法29条1項3号所定の公知発明として本件発明と対比したことに誤りはない。原告の主張は採用することができない。


 ・・・省略・・・

4 組合せの動機付けの欠如について

 原告は,本件発明は低ベンゼン,低硫黄分でありながら良好な運転性能を確保するオクタン価を維持したガソリンエンジン用燃料油を提案するものであるところ,このような技術思想ないし技術課題の記載・示唆のない引用発明と,甲20及び甲31などの刊行物という,組合せの動機付けを欠く単なる寄せ集めにより本件発明への到達が可能であるとする審決の論理付けは,誤りである旨主張する。


 しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。


 本件優先日前から,ガソリン中の硫黄分を低減することで,排気ガス中の有害物質が減少させることが知られていたこと(甲28), 自動車の排気ガス中に含まれるベンゼンが大気汚染として認識されていたこと(甲9)がそれぞれ認められるから,ガソリン中の硫黄分とベンゼン含有量を減少させる動機付けは存在していたというべきである。


 また,ガソリンが自動車用燃料として使用される以上,良好な運転性能及び一定のオクタン価を有することは当然に要求される事項であるから,排気ガスの有害物質の減少という課題の解決に当たって,運転性能及びオクタン価の点で従前に劣らない水準を維持しつつ必要な解決手段を講じることは自明というべきであり,本件発明が低ベンゼン化及び低硫黄分化に加えて良好な運転性能の確保を考慮した点に格別の意義があるとは認められない。


 したがって,審決が引用発明に甲20及び甲31などを組み合わせて進歩性を判断した点に誤りはない。


5 結論


 上記検討したところによれば,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。また,審決に,これを取り消すべきそのほかの誤りがあるとも認められない。


 なお,原告は,本訴を提起した上,平成18年9月7日に,本件特許に係る明細書を訂正する訂正審判を請求し,特許法181条2項により審決を取り消す旨の決定を求めたが,当裁判所は,当該訂正審判に係る訂正の内容に照らせ ば, 本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効にすることについて,特許無効審判において更に審理させることが相当であるとは認められないと判断した。


 よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新に出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10089 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「クランプ装置」平成19年12月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071228161923.pdf
●『平成19(行ケ)10097 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ビルダー入り染料移動阻止組成物」平成19年12月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071228161539.pdf
●『平成18(行ケ)10517 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「クランプ装置」平成19年12月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071228160448.pdf
●『平成18(行ケ)10426 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「データム機能付きクランプ装置」平成19年12月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071228155946.pdf
●『平成18(行ケ)10425 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「データム機能付きクランプ装置及びその装置を備えたクランプシステム」平成19年12月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071228155222.pdf
●『平成18(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「データム機能付きクランプ装置」平成19年12月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071228154656.pdf
●『平成18(行ケ)10031 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「データム機能付きクランプ装置及びその装置を備えたクランプシステム」平成19年12月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071228151943.pdf
●『平成18(ワ)5272等 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟「ガトーシラハマ」平成19年12月27日 東京地方裁判所』(一部認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071228140846.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『特許、海外でも出願なら審査待ちを短縮・特許庁、半年に』http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/top/index.cfm?i=2007122900384b1
●『コダックが松下、ビクターと和解』http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200712300003a.nwc
●『SEDテレビ キヤノンが独自技術で開発 米特許使わず』http://www.asahi.com/business/update/1229/TKY200712290216.html
●『東北大総長論文 再現性の疑問消えず 揺らぐ内部調査の妥当性』http://jyoho.kahoku.co.jp/member/news/2007/12/20071231t13012.htm
●『第100回「邦楽業界にも商機到来!?――中国でカラオケ著作権料の全国徴収は実現するか」』http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/baba.cfm