●平成19(ワ)6214 商標権侵害「MACKINTOSH Made in Scotland」

 本日は、『平成19(ワ)6214 商標権侵害差止請求事件 商標権 民事訴訟「MACKINTOSH Made in Scotland」平成19年12月21日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071225100653.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標権の侵害差止請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、争点(2)における結合商標の類比判断の仕方や、争点(4)における登録後5年間の除斥期間経過後は無効審判を請求することができないので、権利濫用の抗弁の根拠とすることはできないと判断した点などで、参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 阿部正幸裁判長裁判官 平田直人裁判官 柵木澄子裁判官)は、


2 争点(2)〔本件商標と被告各標章との類否〕について

(1)本件商標は,別紙商標目録記載のとおりの構成であり,中央部に大きな文字により全体の横方向の7割程度の大きさで,「MACKINTOSH」の英文字が横書きされ,その右脇に全体の縦方向の8割程度,横方向の1割強程度の大きさで,ハット,コート,ブーツ及びステッキを備えた紳士の図形が配置され,中央部の下方に小さな文字により全体の横方向の4割程度の大きさで,「Made in Scotland」の英文字が横書きされた結合商標である。


 他方,被告各標章は,いずれも別紙標章目録記載のとおりの構成である。

 被告標章1は「Mackintosh」の,被告標章2は「Mackintosh of Ireland」の各英文字が横書きされ,被告標章3は「マッキントッシュオブアイルランド」のカタカナ文字が横書きされた標章である。


 ・・・省略・・・


(3)一般に,商標の類否の判断については,商標を全体的に観察してするのが基本であるものの,常に一体として観察しなければならないものではなく,商標のうちの特定の部分が注意をひきやすく,その部分が存在することによって初めてその商標の識別機能が認められるときは,全体的観察と並行して商標を機能的に観察し,その中心的な識別力を有する部分,すなわち要部を抽出して対比の判断をすることが必要である。そして,いくつかの文字と文字,文字と図形又は図形と図形の結合などによって構成される結合商標の類否の判断をするに当たっては,結合の強弱の程度,結合した各構成部分の大小や意味内容等によって,構成部分の一部のみが要部となり,あるいは,各構成部分がそれぞれ要部となることがある。


 そこで,このような見地から,被告各標章との対比の前提として,本件商標を観察すると,本件商標は,「MACKINTOSH」と「Made in Scotland」の各文字と紳士の図形とから構成される結合商標であり,これらの各文字と図形については,外形的にみて,全体が不可分一体となって1個の統一的な外観,称呼や観念を形成しているとは特に認められないから,常に一体として観察されなければならないものではなく,各構成部分を各別に分離して観察することは何ら妨げられないというべきである。


 そして,上記の各文字及び図形のうち,「MACKINTOSH」の文字部分は,本件商標の中央部に大きな文字により全体の横方向の7割程度の大きさで横書きされており,小さい文字により書かれた「Made in Scotland」の文字部分や図形部分と区別されて,注意をひく部分であるということができるから,本件商標の要部となり得る構成部分として抽出することができる。


 この点につき,被告らは,上記「MACKINTOSH」の文字部分については,識別力がなく,本件商標の要部とはいえないと主張するので,以下,検討する。


(4)本件商標と著名商標について


 被告らは,平成9年に他社が本件商標と同一の商品等区分についてした「Macintosh」の各商標登録出願について,それぞれ,米国アップル社のコンピュータに使用する同一の著名商標との商品出所の混同のおそれがあることを理由に拒絶査定がされていることを挙げて,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分について,米国アップル社の有する「Macintosh」(マッキントッシュ)の著名商標と類似するから,本件商標の要部でない旨を主張する。


 被告らのこの主張は,元来,原告の本件商標は,「MACKINTOSH」の文字部分の単体では,米国アップル社の有する著名商標である「Macintosh」と類似するため,商標法4条1項15号によって拒絶されるべきものであったのを,紳士の図形及び「Made in Scotland」の文字と結合したことによって,はじめて登録を許されたものであるから,「MACKINTOSH」の文字部分だけを取り出して,これを識別力のある要部ととらえることはできない,との趣旨であると解することができる。


 しかしながら,本件商標とは異なる他の商標登録出願についての特許庁による前記審査の判断があったことから,直ちに本件商標の登録が結合商標であるがゆえに登録をされたものであるということができないことは明らかである。仮に,原告が本件商標の文字部分の「MACKINTOSH」を単体で商標登録出願をしていたとすれば,登録を拒絶された可能性があったと考えられるとしても,被告らの前記主張は,本件商標について,無効事由の存在を指摘するものではなく,当該文字部分に関する識別力の有無を問題とするものであるから,侵害訴訟における類否判断のための基準時は,あくまでも口頭弁論終結の時であり,商標の登録審査の時と状況が異なることは十分にあり得るところである。


 そこで,この点についてみるに,特許庁が「Macintosh」を米国アップル社の著名商標と判断した平成9年から既に10年が経過していること,平成9年から平成19年までの間における米国アップル社及びその日本法人による「Macintosh」のロゴの使用形態については,何ら主張,立証がなく,かえって,証拠(甲84〜86)及び弁論の全趣旨によれば,現在,「Macintosh」のロゴは実際の商品に関して使用されておらず,汎用のパーソナルコンピュータの主たるブランドとして「iMac」が使用されていること,米国アップル社のロゴ戦略として,「iPod」,「iTunes」,「iPhone」などのように,「i」をキーワードにした統一ブランドの構築を企図しているものと窺えることがそれぞれ認められるから,米国アップル社の「Macintosh」が本件の口頭弁論終結時である平成19年の時点においても著名であると認めることはできない。


 そうすると,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分について,米国アップル社の有する「Macintosh」の著名商標と類似しているとして,本件商標の要部でないとする被告らの主張は失当であり,採用することができない。


(5)本件商標と普通名称について

 次に,被告らは,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分について,ゴム引き防水布地又はゴム引き防水布地製コートを意味する普通名称であって,本件商標の要部でない旨を主張する。


 商標法3条1項1号,26条1項2号にいう「普通名称」については,取引界において,その商品の一般的な名称と認められていることが必要であり,また,その判断にあっては,辞書,事典その他の刊行物で普通名称であるかのように使用されているだけでは足りず,商品自体の名称として普及して使用された事実が認められることが必要である。結合商標から抽出された文字が普通名称性との関係で識別力のある要部であるか否かについても,その検討の方法は基本的に同様であると考えられる。


 そこで,前記第2の1の前提となる事実及び前記(2)の認定事実を総合して,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分が普通名称といえるか否かについて検討する。


 上記の事実関係に照らせば,「MACKINTOSH」の語は,もともとは,スコットランドに多い人名の「Macintosh」に由来し,かつて19世紀にチャールズ・マッキントッシュの発明したゴム引き防水布地によって作られたゴム引き防水布地製コートが英国を中心として広く普及したことから,英語圏では,人名から転じた「Mackintosh」がそのような布地やコートを指すものとして用いられ,さらに,広くレインコートの一般的な名称としても定着したものということができる。


 しかしながら,我が国においては,英国におけるようにゴム引き防水布地製コートが国内に広く普及したことを示す証拠はない。国語辞書においても,収録語彙の比較的多い国語辞書の中には,「マッキントッシュ(mackintosh)」として,上記の内容の意味が説明されているものがあるものの,上記の語を掲げながら,上記の内容の意味の説明がないものもある上,「マッキントッシュ」の語自体が必ずしもすべての国語辞書に掲載されているわけではない。そして,英語を原典とし,日本語に翻訳された小説や物語の書籍のなかで登場する文章中の「mackintosh」の語の翻訳部分においては,「マッキントッシュ」や「ゴム引き布地製コート」などではなく,「雨外套」,「あまがっぱ」などと訳されている。そうすると,今日の標準的な日本人の国語的意味において,「マッキントッシュ」の語が,ゴム引き布地又はゴム引き布地製コートとして,認識されているとは認めることができない。


 これに対し,英語や外来語の辞書,あるいは,服飾やファッション関係の専門の事典には,「マッキントッシュ」の語について,ゴム引き布地又はゴム引き布地製コートとの意味の記載があるものの,これは,英語圏において,前記の歴史的経緯により,「mackintosh」の語がゴム引き防水布地やそのような布地で作られたコートを指すものとして用いられ,広くレインコートの一般的な名称として普及したことに由来するものであるとみるのが自然であるから,上記の辞書,事典の記載をもって,我が国においても「マッキントッシュ」や「mackintosh」の語が一般的に上記の意味で用いられていると認めることはできないというべきである。また,前記(2)エ及びオの認定のとおり,業界新聞やファッション・婦人誌において,英語圏での上記用法で「マッキントッシュ」の語が一般名称的に用いられているかのようにみえる部分があるものの,これらの「マッキントッシュ」の語の使われ方を子細にみるならば,原告のブランド名として使用されているとみられるもののほかは,専ら,原告がOEM(相手先ブランドによる生産)での提供や共同企画をしたエルメスルイ・ヴィトンの商品(甲60,77の1,2,乙16の1)に関して使用されているものと認められ,このように限られた範囲で一般名称的に使用されていることだけでは,「マッキントッシュ」の語を普通名称であると認めるには足りない。そして,前記(2)キの認定のとおり,ルイ・ヴィトン社製の「マッキントッシュコート」の裏地に縫合された取扱説明(乙6の1,乙13の1,2)中に「マッキントッシュ使用製品」と記載されていることも,同様に限られた範囲での使用にすぎず,普通名称性の根拠とはならないというべきである。


 このようにしてみると,本件商標における「MACKINTOSH」の文字部分について,商品の一般的な名称であることを指す普通名称であるとまでいうことはできない。


 以上のとおりであるから,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分を,ゴム引き防水布地又はゴム引き防水布地製コートを意味する普通名称であるとして,本件商標の要部でないととらえることはできない。被告らの上記主張は採用することができない。


(6)本件商標と本件各標章との対比

 前記(3)ないし(5)で述べたところによれば,本件商標から抽出した「MACKINTOSH」の文字については,これを識別力のある要部として考えることができる。


 他方,被告各標章については,被告標章1が「Mackintosh」の英文字による標章であるほか,被告標章2ないし5は,それぞれ,「Mackintosh」の英文字又は「マッキントッシュ」のカタカナ文字を含む結合標章であり,いずれも,「Mackintosh」又は「マッキントッシュ」の文字が識別力のある要部である,ととらえることに支障はない。


 したがって,本件商標と被告標章1,2,4及び5とは,外観及び称呼が実質的に同一であるか又は類似し,本件商標と被告標章3とは,称呼が同一であることになる。


(7)以上によれば,本件商標と被告各標章とは,いずれも類似するというべきである。


3 争点(3)〔普通に用いられる方法でする被告各標章の表示といえるか否か〕について

 被告各標章に共通する「Mackintosh」又は「マッキントッシュ」については,前記2(5)において,本件商標中の「MACKINTOSH」の普通名称性の有無について述べたのと同じく,これらが普通名称であるとはいえないものというべきであるから,その余の点について論ずるまでもなく,この点に関する被告らの主張は理由がない。


4 争点(4)〔本件商標権の行使が権利濫用となるか否か〕について

 被告らは,原告の本件商標権の行使による被告各標章の使用差止請求について,原告において,第三者が商標出願した「Macintosh」の文字商標につき特許庁によって米国アップル社の著名商標との混同が生ずることを理由に拒絶査定された関係で,本件商標にも商標法4条1項15号の無効事由があることを熟知しながら,本件商標の一部にすぎない「MACKINTOSH/マッキントッシュ」の部分に基づいて請求するものであること,米国では,権利不要求の制度に基づいて「MACKINTOSH」につき単独で権利主張をしないことを条件に登録されていて,日本に権利不要求制度がないことを奇貨とする請求であることを理由に,権利の濫用である旨主張する。


 しかしながら,これらの被告らの指摘のうち,現時点において,米国アップル社がコンピュータについて有する「Macintosh」の商標が著名であるとは言い難いことは,前記2(4)で述べたとおりであり,また,仮に,本件商標の登録時点において,何らかの無効事由に該当する瑕疵があったとしても,本件商標については,既に登録後5年間の除斥期間を経過し,もはや無効審判を請求することができないものであることは明らかであるから,これを権利濫用の抗弁の根拠とすることはできないというべきである。


 さらに,権利不要求の制度は,我が国においては,現行の商標法に改正された際,撤廃されて存在しない制度である上,米国で「MACKINTOSH」につき権利不要求としたことの理由は証拠上明らかでなく,米国での取扱いが英語を母国語としない我が国で直ちに通用するものでないことは明らかである。


 したがって,本件商標権の行使が権利濫用であるとの被告らの主張は,理由がない。


5 結論

 以上によれば,原告の請求は理由があるから(なお,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。),主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 なお、本件は、結合商標の類比判断について判断していますので、ちょうど6/26の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070626)で取り上げた「SEIKO EYE」という結合商標の要部の認定について判示した『平成3(行ツ)103 審決取消 商標権 行政訴訟「SEIKO EYE事件」平成5年09月10日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B940661E2BD9E6D949256A8500311E55.pdf)も参考になるものと思います。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新に出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「フィルム製容器の製造方法」平成19年12月25日 知的財産高等裁判所』(認容判決http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071225163225.pdf
●『平成19(ワ)6214 商標権侵害差止請求事件 商標権 民事訴訟「MACKINTOSH Made in Scotland」平成19年12月21日 東京地方裁判所』(認容判決http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071225100653.pdf
●『平成19(行ケ)10263 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「液体計量用メジャーカップ」平成19年12月20日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071225101412.pdf

 
追伸2;<気になった記事>

●『東京電機大 特許権を信託』http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20071225mh05.htm
●『東京電機大、三菱UFJ信託と特許権信託で契約−私立大で初』http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0520071225000aaah.html
●『「ソフトウエア特許は『防衛』のために取得されている,一定の制限がイノベーションを促進する」---経産省
●『ボナージとAT&TVoIP特許侵害訴訟で最終的に和解(ボナージ)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2445
●『特許資産の規模 増加ランキング1位はセイコーエプソン(IPB )』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2452
●『米陸軍が iRobot と2億8,600万ドルの契約を締結へ』http://japan.internet.com/busnews/20071225/2.html
●『iRobot、Robotic FXとの特許侵害訴訟で勝訴』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20363941,00.htm
●『「ソフトウエア特許は『防衛』のために取得されている,一定の制限がイノベーションを促進する」---経産省 石川氏 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071225/290158/
●『「検索エンジンに対応した著作権法改正やSaaS知財ガイドライン制定が必要」---内閣知財戦略事務局 井戸川氏 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071225/290172/?ST=security
●『大学は中堅・中小企業への技術移転に力を入れる姿勢を強化』http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q4/556486/
●『科学技術関連予算、4年ぶり上向く…総合科学技術会議発表』http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20071225ik23.htm
●『松下<6752.T>が液晶用パネル新工場を建設へ、30型台テレビ用を強化』http://jp.reuters.com/article/domesticEquities/idJPnTK005276520071225
●『日立、キヤノン、松下が液晶パネル事業で提携』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0712/25/news105.html