●平成19(ネ)10055 不正競争行為差止等請求控訴事件「オービックス」

  本日は、一作日に取り上げた『平成19(ネ)10055 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟オービックス ORBIX」平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130131627.pdf)について、さらに取り上げます。


 本件では、さらに、控訴人が、商号登記が認められた点や、権利濫用,信義則違反、さらには憲法違反等を主張し、これらについての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一)は、


2 損害認定の誤りについて

(1) 前記のとおりの事情の下では,控訴人によるオービックス標章の使用開始前,被控訴人のオービック標章は,全国の需要者の間で広く認識されていたものであり,控訴人は,その対象とする顧客等が被控訴人と異なるとはいえ,被控訴人と同様にコンピュータシステムを取り扱う会社であり,しかも,控訴人の本店所在地である福岡に,被控訴人も昭和51年1月以降支店を開設しており,昭和57年から平成8年9月25日までの間,九州地区におけるテレビコマーシャルあるいは全国ネットでテレビコマーシャを放送しており,福岡がその受信地域に入っていたことなどにかんがみると,平成8年9月25日以前に電子部品,家電製品等を取り扱う会社を経営していた控訴人代表者であれば,被控訴人のコマーシャルに接する機会が十分にあったものであり,たとえ被控訴人の存在を認識することができたとはいえないとしても,少なくとも被控訴人の存在を認識することができなかったことに過失があるものというべきである。


(2) 控訴人は,被控訴人のオービック標章が全国の需要者に広く認識されていたかどうかは,あくまでも相対的な評価であって,個々の認識の問題であるから,広く宣伝していれば,すべての者が認識しているとは断定できない旨主張する。


 しかし,不正競争防止法4条にいう故意又は過失は,自己の行為が不正競争行為に該当することを認識し,又は,不注意によりこれを認識しなかった場合に成立するものと解すべきであって,すべての者が認識しているかどうかという問題ではない。通常であればほとんどの者が認識し得る状況にあるときには,仮に認識していないとすれば,少なくとも過失があるというべきである。


(3) 控訴人は,不正競争防止法2条1項1号は,他人の商品等表示(標章)と「混同を生じさせる」行為を違法としているものであるから,少なくとも「混同を生じさせる」という積極的意思の存在を必要とするものと解すべきである旨主張する。


 しかし,不正競争防止法4条にいう故意又は過失は,自己の行為が不正競争行為に該当することを認識し,又は,不注意によりこれを認識しなかった場合に成立するものと解すべきであって,それ以上に積極的意思の存在を要件とするものではない。そして,控訴人において,少なくとも過失が認められることは,上記のとおりである。


 また,控訴人は,オービック標章の存在を知らず,オービックス標章が法務局により商号登記を認められていたから,無過失である旨主張する。


 しかし,商業登記は,商業登記法会社法等の法規に基づき登記すべき事項を公示する制度であり,法務局は,当事者の商号の登記の申請を受け取ったならば,申請に係る商号がその同一市町村において既に登記されているもの又はこれと判然区別することができない類似の場合には申請を却下するのであって(商業登記法27条),市町村の枠を越えてオービックス標章がオービック標章と類似しているか否かを審査することを要しないのであるから,法務局がオービックス標章1を登記したからといって,オービックス標章がオービック標章に類似していないと判断したことになるわけではない。


 したがって,控訴人の上記主張は,いずれも失当である。


 ・・・省略・・・


 控訴人は,単に,控訴人のオービックス標章が被控訴人の標章と類似しているということだけであるのもかかわらず,全国レベルの大企業が,地方の片隅で細々と営業活動を続ける零細企業を事実上倒産に追い込むような権利行使をすることは正義に反し,権利濫用,信義則違反に当たる旨主張する。


 しかし,前記のとおり,不正競争防止法2条1項1号は,周知表示に化体して形成された他人の信用の冒用を規制し,それによって公正な競業秩序を形成維持しようとするところにあり,企業の規模とは無関係である。そして,単に,控訴人の使用する標章が被控訴人の標章と類似しているということだけではなく,被控訴人の標章と類似する控訴人の使用する標章を使用して営業を行っていることに問題があるのであり,それが周知表示に化体して形成された他人の信用を冒用するのであり,また公正な競業秩序を破壊するのである。


 したがって,控訴人の上記主張は,採用の限りでない。


憲法違反について

(1) 控訴人は,不正競争防止法1条,5条の規定は,他の商品等表示(標章等)と「類似する」商品等表示,という極めてあいまい,かつ,抽象的表現によって中小零細企業の商品等表示に制約を加え,ひいては職業選択の自由を制限するものであるから,独占禁止法に抵触するばかりでなく憲法22条に違反する旨主張する。


 しかし,不正競争防止法1条,5条による混同行為の規制は,前記のとおり,周知表示に化体して形成された他人の信用の冒用を規制し,それによって公正な競業秩序を形成維持しようとするところにあり,その規制内容は合理的なものといい得るから,公共の福祉によるやむを得ない制約というべきであって,独占禁止法に抵触するものとも憲法22条に違反するものともいえない。


(2) 控訴人は,不正競争防止法2条1項1号は,資本力と宣伝力の強大な大企業がその有する商品等表示を先使用しているという理由のみで,それと類似しているというだけの商品等表示を一律に禁じるものであり,結果として中小零細企業の表現活動を違法に制限しているから,憲法21条で定める表現の自由を侵害する旨主張する。


 しかし,本件において問題とされているのは,控訴人の表現活動ではなく,被控訴人の標章と類似する控訴人の使用する標章を付して営業を行っていることであり,それが周知表示に化体して形成された他人の信用を冒用するものであり,公正な競業秩序を破壊するものであることによるのであって,表現の自由の問題とはいえない。


(3) そうすると,憲法違反をいう控訴人の主張は,いずれも採用の限りでない。


5 以上によると,控訴人の主張はすべて理由がなく,控訴人のオービックス標章を使用する行為が不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」に該当するとして,その差止め,抹消,抹消登記手続と,損害賠償の一部を認容した原判決は相当であるから,本件控訴は棄却を免れない。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10228 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「UNITED」平成19年11月29日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130152313.pdf
●『平成19(行ケ)10227 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「UNITED」平成19年11月29日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130151447.pdf
●『平成19(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「膨張可能なステント及びその製造方法」平成19年11月29日 知的財産高等裁判所 』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130145547.pdf
●『平成19(行ケ)10107 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「弾性ダンパー」平成19年11月29日 知的財産高等裁判所 』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130144921.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『11月6日第4回 東京工業大学精密工学研究所知財シンポジウム〜半導体産業における知的財産の「創造」「保護」そして「活用」〜』http://www.ipnext.jp/event/houkoku/houkoku_detail071203.html
●『Z4テクノロジーズ、マイクロソフトを特許侵害で再び提訴(米連邦地裁)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2292
●『湖南省:全国特許戦略推進フォーラムを開催』http://www.chinapress.jp/economy/6695/
●『キヤノンの消耗品ビジネス「勝訴」でも消費者の不満強く』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071202-00000001-jct-bus_all