●平成18(行ケ)10502 審決取消請求事件「写真測量サービスシステム」

  本日は、『平成18(行ケ)10502 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「写真測量サービスシステム」平成19年11月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071114103044.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、進歩性判断の際の本願発明と引用発明の一致点の認定の際、本願発明の用語(「測点」)の意義について、請求の範囲の記載だけではその技術的意義が明確ではないので、発明の詳細な説明の記載を参酌してその技術的意義について検討し、審決における本願発明と引用発明の一致点の認定が誤りと判断している点で、参考になる事案とかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 田中信義 裁判長裁判官)は、


1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について


(1) 本願発明の「測点」及び引用発明の「基準点」の意義について


ア (ア) 本件補正後の請求項1の記載によれば,本願発明の「測点」とは,「顧客自身がデジタル・カメラで撮影した測量対象上にある点」であって,これらの各「点」の「3次元座標値を示す数値情報」(図化処理に用いられる情報の1つである。)を演算処理により算出する際,当該算出のために必要とされる原情報の1つである「複数枚の画像情報」に写っているもの(各隣接する撮影地点から撮影した画像間において,双方の画像内に存在するこれらの「点」の視差の違いから,「3次元座標値を示す数値情報」が算出される。)であるといえ,それ以上に上記「測点」を特定する規定は,本件補正後の請求項1の記載中にはない。以上によれば,「測点」は,顧客が撮影した「測量対象」に存在する点というにとどまり,その技術的意義は必ずしも明確とはいい難い。そこで,以下,発明の詳細な説明の記載を参酌してその技術的意義について検討する。


(イ) 発明の詳細な説明中にある「測点」に関する主な記載は,以下のとおりである。


  ・・・省略・・・


(ウ) 以上の各記載によれば,測点は,顧客が,測量対象がある現地において,測量対象内から位置及び数を任意に選んだ点であって,その3次元座標値は未知である。これに対し,測量対象である3次元空間における位置関係を示す基準となる基準点があって,その座標値は既知のものとして解析装置に入力されるということができる。なお,この基準点は顧客が特定の測点から選ぶことが可能であるとの前項eの記載からみて,この座標値の入手方法については発明の詳細な説明には明示的に記載されてはいないものの,顧客が提供するものと推認される。


 これらからすると,「測点」は,原則として,測量対象内にある座標値が未知の点であって,顧客が測量対象を的確に把握するために必要と考える点を意味するものと理解することができる。


(エ) 原告は,引用発明の「基準点」が計測上の抽象的概念であるのに対し,本願発明の「測点」は計測上の抽象的概念である基準点を具体化したもの,すなわち,現場に設置された具体的な「設置物(治具)」であるとか,また,引用発明の「基準点」が決して動かない,又は動いては意味をなさない基準となる「点」であるのに対し,本願発明の「測点」はその後の地盤の動き等を計測する「測点」であり,その動きが知りたいものであって,動くことを前提として設けているものであるなどと主張する。


 しかしながら,本願明細書の記載を精査しても,原告の上記各主張を裏付ける記載はないから,これらの主張は,いずれも明細書の記載に基づかないものとして失当である。


イ(ア) 引用発明の「基準点」に関し,引用例1には,次の各記載が存在する。


  ・・・省略・・・


(イ) 上記(ア)の各記載によれば,引用発明の「基準点」は,1枚の写真に写された3個以上の「点」であって,既にその3次元の地上座標値が測定されており,写真座標xyと3次元座標XYZとの射影関係を確立するために必要であり,これにより,立体写真を構成する2枚以上の写真に写された特定の点の3次元座標値の算出を可能にするものであるといえる。


(2) 原告の主張(3)について


ア 原告は,本願発明の「測点」は「基準点」(3次元座標値(地上座標値)をあらかじめ明確にした「点」)ではなく,これから計測しなければならない「点」であるにもかかわらず,審決は「基準点」と「測点」とを混同している旨主張する。


イ そこで検討するに,上記(1)のとおり,引用発明の「基準点」は,既にその3次元座標値(地上座標値)が測定されている「点」であるところ,本願発明の「測点」は,顧客が測量対象を的確に把握するために必要と考える測量対象内の点であり,演算処理により「3次元座標値を示す数値情報」が算出されるべき「点」であるから,その内容に照らし,測点が基準点を兼ねる場合を除き,3次元座標値がいまだ算出されていないものであることは明らかである。


 そうすると,3次元座標値が既に知られているか否かという観点からは,引用発明の「基準点」は既知の「点」であり,本願発明の「測点」は未知の「点」であるといえ,したがって,両者は,技術的意義を異にするものというほかない。


 してみると,審決は,本願発明の「(複数の)測点」の技術的意義の把握を誤り,これが引用発明の「基準点」,すなわち,「共線条件を設定するために測量対象に設けられた撮影対象点」と即断したものといわざるを得ない。その結果,原告が主張するとおり,引用発明の「基準点」と本願発明の「測点」とを混同し,これを一致点と誤認したものといわざるを得ない。


 なお,本願明細書に「基準点は顧客が特定の測点を指定すること等により決定される。」との記載(段落【0029】)があることが,上記判断を何ら左右するものでないことは既に説示したとおりである。


ウ そうすると,本願発明と引用発明の一致点を「複数の測点を有する測量対象を・・・特徴とする写真測量システム。」と認定した審決の一致点の認定が誤りであることは明らかである。


(3) 以上のとおりであるから,取消事由1は,理由がある。


2 結論


 よって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は違法であり,取消しを免れないから,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 なお、本決文中では、引用していませんが、本件における本願発明の用語(「測点」)の意義の認定は、リパーゼ最高裁判決の「特許出願に係る発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義を一義的に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」の、特段の事情の場合になるかと思います。


 詳細は、本判決文を参照してください。