●平成19(行ケ)10016審決取消請求事件「ベクロメタゾン17,21ジプロピ

本日は、『平成19(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ベクロメタゾン17,21ジプロピオネートを含んで成るエアロゾル製剤」 平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071001162347.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権の存続期間の延長登録出願の拒絶審決の取消しを求めた事案で、その請求が棄却された事案です。


 つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘 裁判長裁判官)は、


『3 取消事由2について

(1) 法67条2項は,昭和62年法律第27号によって新設された規定である。同項は,特許発明の実施について安全性の確保等のために法律の規定によって許可その他の処分を受けることが定められ,その処分の目的,手続等からみて,その処分を的確に行うには相当の期間を要する場合には,処分を受けることが必要であるために特許発明を実施することができなかった期間,5年を限度として,特許権の存続期間を延長することができる旨を定めている。そして,同項は,上記処分については政令で定めるものとし,特許法施行令3条は,上記処分に当たるものとして,「薬事法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認」等を定めている。


 上記規定は,医薬品に係る薬事法14条1項の承認等を受けるまでには,所要の実験によるデータの収集及びその審査に不可避的に相当の期間を要するため,その間は,特許権が存在していても,特許権者は特許発明を実施することができず,特許期間が侵食される事態が生ずるため,特許発明を実施することができなかった期間,5年を限度として,特許権の存続期間を延長することとしたものである。


 法67条の2は,上記特許権の存続期間の延長登録の出願について定めており,同法67条の3第1項は,審査官は,特許権の存続期間の延長登録の出願が「その特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき」には,拒絶をすべき旨の査定をしなければならない旨定めている。


(2) ところで,薬事法14条1項(平成14年法律第96号による改正前のもの)は,厚生労働大臣は,医薬品の製造をしようとする者からの申請があったときは,品目ごとにその製造について承認を与える旨規定し,同条2項は,前項の承認は,申請に係る医薬品の名称,成分,分量,構造,用法,用量,使用方法,効能,効果,性能,副作用等を審査して行うものとし,?申請に係る医薬品が,その申請に係る効能,効果又は性能を有すると認められないとき,?申請に係る医薬品が,その効能,効果又は性能に比して著しく有害な作用を有することにより,医薬品として使用価値がないと認められるとき,?その他医薬品として不適当なものとして厚生労働省令で定める場合に該当するときには,承認を与えない旨を規定する。したがって,薬事法14条1項に規定する医薬品に係る同項の承認は,名称,成分,分量,構造,用法,用量,使用方法,効能,効果,性能等を特定した品目ごとにされるものである。


(3) これに対し,法68条の2は,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,法67条2項の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物に使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には及ばない旨を規定する。この規定は,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,処分の対象となった物(その処分においてその物に使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)については,処分の対象となった品目とは関係なく特許権が及ぶ旨の規定と解されるから,特許法は,法67条2項の政令で定める処分の対象となった品目ごとに特許権の存続期間の延長登録の出願をすべきであるという制度を採っていないことは明らかであり,処分の対象となった物(その処分においてその物に使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)ごとに特許権の存続期間の延長登録の出願をすべきであるという制度を採用しているものと解される。


 そうすると,最初(1度目)に法67条2項の政令で定める処分がなされると,その最初になされた処分は,その物(その処分においてその物に使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)について製造販売禁止を解除する必要があった処分であったということができるから,その処分に基づいて特許権の存続期間の延長登録の出願をすることができるが,2度目以降にされた処分については,法67条の3第1項が定める「その特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき」に該当し,その特許権の存続期間の延長登録の出願は拒絶されるものと解される。


(4) 以上のように,法67条の3に従って特許権の存続期間の延長登録出願を認めるかどうかの判断に当たっては,延長後の特許権の効力について規定した法68条の2の規定を考慮することによって,特許権の存続期間の延長制度全体について統一的な解釈が可能になるというべきであるところ,法68条の2にいう「物」は「有効成分」を,「用途」は効能・効果を意味するものと解するのが相当である。このように解することは,新薬の特許が「有効成分」又は「効能・効果」に与えられることが多いという実情にかなうものであるし,またこれによって,「物」と「用途」の範囲が明確になるということができる。


 そうすると,上記(3)に説示したとおり,2度目以降になされた処分が,最初(1度目)になされた処分と同一であって法67条の3第1項第1号の「政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき」に当たるかどうかも,物(有効成分)と用途(効能・効果)という観点から判断すべきである。したがって,これと同旨の審決に誤りはないから,取消事由2は理由がない。


(5) 原告の主張に対する補足的説明

ア 原告は,法67条2項の規定を受けた法67条の3第1項1号にいう,「政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない」場合とは,a 延長登録出願の根拠として願書において特定される「政令で定める処分」を受けるまでもなく,法67条の3第1項1号にいう特許発明の「実施」をすることが可能であった場合,又は,b 当該「政令で定める処分」を受けても,なお依然として上記意味の「実施」をすることが不可能な場合,を意味するものと解するのが,同条項の文理に即した最も自然な解釈というべきである,特許発明が医薬品である場合,「その特許発明の実施」とは,特許発明の全ての構成要件を充足する医薬品についての生産,使用,譲渡等(法2条3項1号に定義する「実施」に該当する行為)を意味するから,「政令で定める処分」が薬事法上の承認の場合,「政令で定める処分(承認)を受けることが必要であった場合」とは,「当該承認を受けるまでは,当該特許発明の実施が薬事法上不可能であったが,当該承認によって薬事法上の禁止が解除され,実施が可能となったこと」がこれに該当する,換言すれば,「政令で定める処分(承認)を受けることが必要であったとは認められない場合」とは,a 当該承認を受けるまでもなく,当該特許発明の実施が可能であった場合,又は,b 当該承認を受けても,なお依然として当該特許発明の実施をすることが不可能である場合であると解すべきである,と主張する。



しかし、原告の上記主張は,特許法上の観点からの解釈ではなく,例えば「政令で定める処分」が薬事法上の承認の場合,「政令で定める処分(承認)を受けることが必要であった場合」とは「当該承認を受けるまでは,当該特許発明の実施が薬事法上不可能であったが,当該承認によって薬事法上の禁止が解除され,実施が可能となったこと」がこれに該当する,とするように,法67条の3第1項1号の「政令で定める処分を受けることが必要であった」と認められるときを,特許発明の実施が薬事法上の禁止が解除されたことにより同法上可能になったかどうかという観点から判断すべきとするものである。しかし,上記(3),(4)に説示したように,特許法は,薬事法が承認の対象としている医薬品にかかわる各要素のうち,物(有効成分)と用途(効能・効果)という観点から承認が必要であったときに限って,特許権の存続期間の延長を認めることとしているものであって,特許法としての独自の観点から,特許権の存続期間の延長の要件を定めていると解されるものである。原告の上記主張による解釈は,かかる見地からすると,採用することができない。


イ また原告は,法68条の2は,存続期間が延長された場合の特許権の効力に関する規定であり,延長登録の要件に関する規定ではないから,この規定に基づいて法67条2項及び67条の3第1項1号の「政令で定める処分を受けることが必要であった」か否かを判断しなければならない必要性も合理性もないし,延長登録の要件について法67条2項,法67条の3第1項1号の要件を文言通りに素直に解した上で存続期間の延長を認めたとしても,そのことにより一体どのような不都合が生じるというのか明らかでない,特に,有効成分や用途以外にも多くの限定要件が付された本件発明のような製剤発明の特許権は,有効成分のみを構成要件とする物質発明や,有効成分と用途のみを構成要件とする用途発明の特許権と比較して,権利範囲が狭いものであるから,法67条2項や法67条の3第1項1号の要件を文理に従い素直に解釈した上で存続期間の延長を認めたとしても,元々薬事法上の規制により全く実施ができなかった期間だけ特許権が回復されるだけのことであると主張する。


 しかし,法67条の3に従って特許権の存続期間の延長登録出願を認めるかどうかの判断に当たって,延長後の特許権の効力について規定した法68条の2を考慮することによって特許権の存続期間の延長制度全体について統一的な解釈が可能になることは,すでに前記(3)において述べたとおりである。原告は,法68条の2は,存続期間が延長された場合の特許権の効力に関する規定であり,延長登録の要件に関する規定ではないから,この規定に基づいて法67条2項及び67条の3第1項1号の「政令で定める処分を受けることが必要であった」か否かを判断しなければならない必要性も合理性もないと主張するが,法68条の2が,存続期間が延長された場合の特許権の効力の規定であるからと言って,法67条の3の解釈において同法68条の2を全く考慮することができないという理由にはならない。また原告は,法67条2項,法67条の3第1項1号の要件を文言通りに素直に解した上で存続期間の延長を認めたとしても,そのことにより一体どのような不都合が生じるというのか明らかでないと主張するが,原告の主張する解釈が,法67条の3第1項1号の「政令で定める処分を受けることが必要であった」と認められるときを,特許法上の観点からではなく,薬事法上の観点から判断すべきとするものであって,採用できないものであることは,上記アに説示したとおりである。また原告は,有効成分や用途以外にも多くの限定要件が付された本件発明のような製剤発明の特許権は,有効成分のみを構成要件とする物質発明や,有効成分と用途のみを構成要件とする用途発明の特許権と比較して,権利範囲が狭いものであることを指摘するが,特許請求の範囲が広い特許を取得するか,狭い特許を取得するかということが,存続期間の延長の許否に影響するような解釈を採ることは相当とはいえない。



 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。


ウ また原告は,薬事法に基づく承認は,当該承認申請に係る「医薬品」を対象とする処分であって,医薬品を構成する一要素にすぎない「有効成分」を対象とする処分ではないから,法68条の2にいう「政令で定める処分の対象となった物」,「その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物」を「有効成分」と解することは誤りである,したがって,たとえ法68条の2の解釈を法67条の3第1項1号の解釈に反映させたとしても,同号にいう「政令で定める処分を受けることが必要であった」ことを,「物(有効成分)と用途(効能・効果)という観点から,政令で定める処分を受けることが必要であったこと」と読み替える理由はないというべきであると主張するが,前記(4)に説示したとおり,法68条の2にいう「物」は「有効成分」を,「用途」は「効能・効果」を意味すると解するのが相当であるから,原告の上記主張は採用することができない。



エ さらに原告は,本件発明は,本件承認を受けるまでは,薬事法上の規制により一切実施することができなかったが,本件承認を受けたことによって薬事法上の禁止が解除され実施できるようになったのであるから,本件発明を実施するために,法67条2項にいう「政令で定める処分」すなわち本件承認を受けることが必要であったと主張するが,法67条の3第1項1号が,薬事法上の観点からではなく特許法としての独自の観点から,特許権の存続期間の延長の要件を定めていると解されるものであることは,上記アに説示したとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。


4 結論


 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 なお、同日に出された『平成19(行ケ)10017 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ベクロメタゾン17,21ジプロピオネートを含んで成るエアロゾル製剤」平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071001162920.pdf)も同旨の判決のようです。



追伸1;<気になった記事>

●『米クアルコム独禁法違反容疑・携帯電話特許でEU調査』
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20071001AT2M0101001102007.html


追伸2;<新たに出された知財判決>

●『 平成17(行ケ)10591 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟「釣り・スポーツ用具用部材」平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070928104016.pdf
●『平成19(ネ)10047 損害賠償請求控訴事件 実用新案権 民事訴訟「デファレンシャルギヤ二段差伝達の無段変速機」平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071001165147.pdf
●『平成19(行ケ)10017 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ベクロメタゾン17,21ジプロピオネートを含んで成るエアロゾル製剤」平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071001162920.pdf
●『平成19(行ケ)10016 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ベクロメタゾン17, 21ジプロピオネートを含んで成るエアロゾル製剤」平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071001162347.pdf
●『平成19(行ケ)10006 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「高品質容器入りコーヒーの製造方法」平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071001161702.pdf