●平成19(行ケ)10008 審決取消請求事件 商標権「東京メトロ」

 本日は、『平成19(行ケ)10008 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟東京メトロ」平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070928144009.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録の不使用取消審決の取消しを求めた審決取消し訴訟であり、その請求が認容された事案です。


 本件では、消費者に無料で配布される無料紙であっても、商標法上の商品と判示された点で、参考になる事案です。


 つまり、知財高裁(第4部 田中信義 裁判長裁判官)は、


『1 取消事由1(使用事実1の存在)について

 甲第1ないし13,第25,第31ないし44(各枝番を含む。)及び第52号証によれば,原告は,平成17年4月29日から5月にかけて,世田谷区内において,「とうきょうメトロ」の表題が付され,「2005年4月25日発行〈創刊号〉」と記載された印刷物(甲第1号証)を約8000部無料で配布したことが認められ,本件新聞は,その後も継続して,創刊号から少なくとも第4号まで同一の商標を付して発行されたことが認められる。


 審決は,本件新聞の頒布の数量,範囲が不明確であるとして,使用事実1は認められないというが,甲第52号証によれば,本件新聞の創刊号は,原告からの依頼に基づき錦プロデューサーズ株式会社で印刷され(甲第32号証),創刊号に広告掲載を代金35万円で依頼した株式会社くらしの友(以下「くらしの友社」という。)の経営営業企画室宛に4000部が(甲第5号証),同社城南営業所宛に5000部が(甲第6号証),いずれも平成17年4月28日必着で送付されたこと,前者の4000部はくらしの友社の従業員がセールス活動の広報手段として三軒茶屋商店街周辺でポスティングし,後者は原告らが世田谷公園内で配布したり,池尻住宅,公務員住宅及びその周辺の住宅やマンションにポスティングしたりしたことが認められる。上記創刊号(甲第1号証)には,くらしの友社の広告が掲載されており,上記認定のとおり同社の従業員がポスティングしたことと符合することからみても,本件新聞の創刊号(甲第1号証)は,現に9000部が印刷され,平成17年4月29日ころ,そのほとんどが不特定多数の者に配布された事実を認めることができる。したがって,これらの証拠からすれば,本件新聞の頒布の数量,範囲が不明確であるとして,使用事実1が認められないとした審決の事実認定は誤りである。



2 取消事由2(指定商品についての使用)について

 審決は,本件新聞が他人の広告を掲載し,頒布するために用いられる印刷物にすぎないものであって,市場において独立して商取引の対象として流通に供されたものとは認められないから,指定商品「新聞,雑誌」のいずれにも含まれない商品であると判断し,被告は,本件新聞のような無料紙が商標法上の「商品」に該当しないと主張する。


(1) 本件新聞の商標法上の「商品」該当性について

ア 商標法には,「商品」を定義した規定はないが,商標法は商標による出所表示機能を保護するものであり(商標法1条),商標登録が認められるのは,自己の業務に係る「商品」又は役務について使用をする商標であり(同法3条1項),また,不使用取消の対象となるのは,指定「商品」について使用がされなかった場合である(同法50条1項)。これらの規定からみれば,商標法上の「商品」といえるためには,商取引の対象であって,出所表示機能を保護する必要のあるものでなければならないと解される。


 上記のとおり,商標法上の「商品」は,商取引の対象であるから,商品が売買契約の目的物であるなど,対価と引換えに取引されるのが一般的である。


 しかし,「商取引」は,契約の種類が売買契約である場合に限られるものではなく,営利を目的として行われる様々な契約形態による場合が含まれ,対価と引換えに取引されなければ,商標法上の「商品」ではないということはできない。取引を全体として観察して,「商品」を対象にした取引が商取引といえるものであれば足りるものと解される。


イ 本件新聞の創刊号は,5段組みの記事部分とその下の2段組み程度のスペースにくらしの友社の広告が掲載されている。記事部分には,世田谷公園のミニSLに関する記事,「せたがやトラスト協会」が実施したフォーラムの報告,世田谷区みどりの基本条例の制定に関する記事などが掲載され,本件新聞の配布地域の話題や環境保全活動の状況が紹介されている(以上につき甲第1号証)。そして,本件新聞の配布形態は,前記1に認定のとおり,広告依頼主であるくらしの友社に9000部が納品され,その一部は同社社員によって営業活動時に配布されたほか,原告らも世田谷区内の住宅などに配布する方法でそのほとんどが配布された。


ウ 本件新聞のような無料紙は,配布先の読者からは対価を得ていないが,記事とともに掲載される広告については,広告主から広告料を得ており,これにより読者から購読料という対価を得なくても経費を賄い,利益が得られるようにしたビジネスモデルにおいて配布されるものである。したがって,読者との間では対価と引換えでないとしても,無料紙を広告主に納品し,あるいは読者に直接配布することによって広告主との間の契約の履行となるのである。現に,本件新聞の創刊号は広告依頼主に商品として納品されているのであり,このような形態の取引を無料配布部分も含めて全体として観察するならば,商取引に供される商品に該当するということができる。


 被告の主張するように,読者との間で直接対価の授受がなければならないとする考え方を及ぼすならば,広告主から広告料を得て,視聴者から対価を徴収していない(有料放送でない)いわゆる民間放送において,指定役務を第38類「テレビジョン放送」とするときは,民間放送業者は,放送で商標を使用しても,指定役務についての使用ではないとして商標法上の保護を受けられないことになる。商標法の前記アに述べた趣旨からみれば,商標法が「役務」について上記のような結論を予定していないことは明らかである。


 本件新聞のような無料紙は,「商品」と「役務」の違いを除けば,経費負担の面から見て上記の民間放送と同じビジネスモデルであるということができるから,商標法上の「商品」も「役務」と同様に,対価と直接交換されるものに限られない。


エ 無料紙の読者は,掲載された広告のみならず,記事にも注目している,あるいは,広告よりもむしろ記事に注目している場合があり,記事によって読者からの人気を得れば,広告が読者の目に止まる機会が増すことになり,広告主との関係でも広告媒体としての当該無料紙の価値が高まる関係にある。


 このような関係が成り立つときに,同一又は類似の商標を付した無料紙が現れれば,ある無料紙が築き上げた信用にフリーライドされたり,希釈化されたりする事態も起こり得る。したがって,無料紙においても,付された商標による出所表示機能を保護する必要性があり,「商品」が読者との間で対価と引換えに交換されないことのみをもって,出所表示機能の保護を否定することはできない。


(2) 本件新聞の第16類「新聞」該当性について

 「新聞」とは,一般的には,「社会の出来事の報道・解説・論評を,すばやく,かつ広く伝えるための定期刊行物」(広辞苑第五版)と解されているところ,商標法の趣旨・目的に照らすと,商標法施行令別表第16類の「新聞」についてもおおむね上記と同様の概念と理解するのが相当である。そして,前記1及び2(1)イに認定したところによれば,本件新聞が上記の要件を満たすことは明らかというべきである。


審決は,本件新聞が他人の広告を掲載し,頒布するために用いられる印刷物にすぎないというが,前記2(1)イに認定したとおり,本件新聞には,「社会の出来事の報道・解説・論評」に該当する記事が主要部分を占め,これを誘引力として広告が掲載されているのである(甲第1,第2,第11及び第12号証)から,本件新聞は,単なる「印刷物」ではなく,「新聞」の一種であるということができる。


(3) 小括

 以上のとおり,本件新聞のような無料紙であっても,商取引の対象である商品であって,出所表示機能を保護する必要のあるものということができるから,商標法上の「商品」に該当するということができる。したがって,記事とともに広告を掲載した無料紙に商標を付し,広告料収入によって経費を賄い,読者には無料で配布する行為は,「新聞」という指定商品についての商標の使用であるということができる。本件商標については,前記1のとおり,使用事実1が認められるから,本件予告登録前3年以内に日本国内において,指定商品につき本件商標を使用したことが認められ,商標法50条1項の要件は満たされていない。


3 結論

 使用事実1を認めず,本件新聞を商標法上の「商品」でないとして,指定商品についての使用がないとした審決の判断は誤りであり,審決取消事由には理由があるから,審決は取消しを免れない。よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


  なお、本判決文によれば、本件の被告である商標登録の不使用取消審判の請求人は、地下鉄の「東京メトロ」を運営する東京地下鉄株式会社であり、原告が「東京メトロ」の文字を標準文字とし「新聞,雑誌」を指定商品として商標登録出願したのが平成14年1月18日で同年10月4日に設定登録され、その後、被告が「東京メトロ」という通称を使用すると発表したとのことのようですが、平成14年当時、地下鉄の「東京メトロ」はまだ著名ではなく、4条1項19号による著名商標保護の規定による拒絶はできなかったのかと思うと共に、また原告の使用商標が「とうきょうメトロ」である点からして、同一の称呼は生じるものの、登録商標の使用と認められるのかな?、等と思いました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10162 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Hervey Ball」
平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070928163542.pdf
●『平成19(行ケ)10015 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成19年09月27日知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070928151134.pdf
●『平成19(行ケ)10008 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟東京メトロ」平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070928144009.pdf
●『平成18(行ケ)10270 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「パケットデータ通信用プロトコル」平成19年09月27日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070928142643.pdf