●平成12年(ワ)第12728号特許権侵害差止請求事件「カード発行システ

 本日は、●『平成12年(ワ)第12728号特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟「カード発行システム事件」平成13年05月29日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/17AB4844FB36996D49256A92002770B3.pdf)について取上げます。


 本件も、均等侵害について判断した事件であり、均等の第2要件は満たすものの、第1要件を満足せず、均等非侵害と判断した事案で、均等の第1要件の本質的事項の解釈について参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 三村 量一 裁判長)は、

『1 争点(2) (被告システムが本件特許発明と均等であるか)について

ア 本件において,本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中の「運転免許証などの身分証明書が貼付され,署名がなされたシート」を「ハードコピー化」し,「得られたハードコピー」を親局に伝送する,という部分(以下「本件相違部分」という。)が,被告システムにおける構成(被告システムにおいては,身分証明書,借入申込書などがそれぞれ別の機会にスキャナで読み取られるという構成,及び,スキャナで読み取られ,自動メモリにいったん記憶された身分証明書,借入申込書などの各デジタル画像データ及び顧客のキー入力したキー情報(コードデータ)を,ぞれぞれ別の機会にISDN回線等を用いて受付端末に伝送するという構成)と異なっているという点については,当事者間に争いがない。


  ところで,特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造する製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,i) 右部分が特許発明の本質的部分ではなく,ii) 右部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,iii) 右のように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,iv) 対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,v) 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,右対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。


  そこで,本件において,本件相違部分の存在にもかかわらず,上記のi)ないしv)の要件(以下,それぞれの要件を「要件?」などという。)を満たすことにより,被告システムが本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,その技術的範囲に属するということができるかどうかを検討する。


イ 要件ii)について


 ・・・省略・・・


(エ)以上によれば,本件相違部分を被告システムにおけるものと置き換えても,本件特許発明の目的を達することができ,これと同一の作用効果を奏するものと認められる。


ウ 要件i)について

(ア)均等が成立するためには,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要するが,ここにいう特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分,言い換えれば,この部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。

  すなわち,特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから,明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分が特許発明における本質的部分であると理解すべきであり,対象製品等がそのような本質的部分において特許発明の構成と異なれば,もはや特許発明の実質的価値は及ばず,特許発明の構成と均等ということはできないと解するのが相当である。


  そして,発明が各構成要件の有機的な結合により特定の作用効果を奏するものであることに照らせば,対象製品等との相違が特許発明における本質的部分に係るものであるかどうかを判断するに当たっては,単に特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に取り出すのではなく,特許発明を先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品等の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から,判断すべきものというべきである。


(イ)これを本件についてみるに,証拠(甲2,乙4)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

a 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄に記載された,本件特許発明が解決しようとする課題は,前記イ(ア)a(c)のとおりである。

b カード発行システムとしては,本件特許の出願がされた平成3年8月24日当時,「取引用カード発行システムにおいて,自動発行ユニットから,電子カメラ装置で影像した利用者の顔及び運転免許証の画像信号,並びにキーボードで入力した氏名などの顧客情報を管理センタへ伝送し,管理センタではオペレータが利用者の顔写真と免許証の写真とを照合して本人確認を行い,自動発行ユニットに取引用カードの発行命令を送出することにより,本人確認を経たカードの発行を無人で行うもの」(本件公開公報の発明)が公知であった。


(ウ)上記の事実によれば,本件特許の出願当時の技術水準に照らすと,カード発行システムにおいて,カードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御のもとにカードを発行する無人化された子局という構成や,そのような構成に基づき,子局から親局に対し,電子カメラ装置で撮像した利用者の顔及び運転免許証の画像信号,キーボードで入力した氏名などの顧客情報を伝送し,親局でオペレータが利用者を確認してカード発行許可信号を子局に伝送する構成自体は,すでに公知であったというべきである。


 そして,上記の公知技術を前提として,複数の支店を備えたビデオ等のレンタル店の各支店において完全に無人化した状態で会員証の発行を行うことが可能なシステムを実現するという技術的課題を達成するために,従来技術であったカードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御のもとにカードを発行する無人化された子局という構成に基づいて,子局から親局に対し,子局において身分証明書が貼付され署名がなされたシートを読み取ってハードコピー化したものを伝送するという構成を採用したことが,従来技術に見られない本件特許発明に特有の解決手段であったということができる。


  これを言い換えれば,本件特許発明の特徴的原理は,既に公知であったカードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御の下にカードを発行する無人化された子局という仕組みを前提として,そのようなシステムの中で従来になかった一つの具体的な構成として,身分証明書が貼付され署名がなされたシートをハードコピー化した上で親局に伝送するという手段を取り入れた点にある。すなわち,本件特許発明は,カメラを介して得られた画像を伝送したり,通信回線とISDNを利用するようなシステムとは異なる一つの具体的なシステムを構築し,それにより,支店を完全に無人化した上でカード発行を可能にするという課題を解決するとともに,システムを廉価に構成でき,しかもハードコピー化された情報を目視することにより情報内容の確認を正確に行うことができるという既存の他のシステムにない利点を備えた具体的なシステムを開示したものである。


  そうすると,本件特許発明の中核をなす特徴的部分は,子局において身分証明書が貼付され署名がなされたシートを読み取りハードコピー化し,得られたハードコピーを親局に伝送するという構成にあると解するのが相当である。


  以上によれば,本件特許発明の構成要件B及びCのうち,本件相違部分は,これを他の構成に置き換えれば,全体として本件特許発明の技術的思想と別個のものと評価されるものというべきであるから,本件相違部分は本件特許発明の本質的部分に当たるといわなければならない。


(エ)この点につき,原告は,本件特許発明の中核となる特徴的部分は,親局に与信判断をして会員証などのカードの発行を可とする判断をする担当者を常駐させることで会員証などのカードの発行を集中的に行うともに,その与信判断の資料となる与信情報を子局が獲得しこれを親局に伝達するという構成にあり,本件特許発明と被告システムとの相違点は,情報伝達手段という付随的な構成にすぎないから,本質的部分に該当しない旨主張する。


  しかしながら,親局に担当者が常駐していることを前提としたシステム構成であるという点については,本件公開公報(乙4)には,自動発行ユニットから,電子カメラ装置で利用者本人の顔及び運転免許証を撮像した画像信号を管理センタに送信し,管理センタではオペレータが利用者の顔写真と運転免許証の写真とを照合して厳密な本人確認を行うことが記載され(6頁左下欄15行〜7頁左上欄12行),しかも,カード発行時にこのような厳密な本人確認を行うことが開示されている(7頁左上欄9行〜11行)から,親局に担当者が常駐しているシステム構成は既に公知であったというべきである。また,前判示のとおり,本件特許の出願当時の技術水準に照らすと,カード発行システムにおいて,カードの発行を集中的に制御する親局と,親局の制御のもとにカードを発行する無人化された子局という構成は,既に公知であったというべきであるから,ハードコピー化とスキャナによる読み取りという本件特許発明と被告システムとの本件相違部分が,単なる情報伝達手段の相違にすぎないということはできない。原告の上記の主張を採用することはできない。


(オ)以上によれば,本件相違部分は,本件特許発明の本質的部分であるというべきであるから,本件においては,均等が成立する要件を欠いている。

エ 以上によれば,被告システムは,その余の点を判断するまでもなく,本件特許発明と均等であるとは認められない。

  したがって,被告による被告システムの使用行為は,その余の点を判断するまでもなく,本件特許権を侵害するものではないというべきであるから,原告の請求は理由がない。

 2 よって,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10468 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ナット」平成19年08月10日 知的財産高等裁判所』 (棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070813145411.pdf
●『平成18(行ケ)10467 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ナット」平成19年08月10日 知的財産高等裁判所』 (棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070813144712.pdf
●『平成18(行ケ)10466 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ナット」平成19年08月10日 知的財産高等裁判所』 (棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070813143934.pdf