●平成19(行ケ)10013 商標登録取消決定取消請求事件「海底遺跡」

  本日は、『平成19(行ケ)10013 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟海底遺跡」平成19年07月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070717161114.pdf)について取上げます。


 本件は、登録意義申立て事件における本件決定の取消し部分登録取消決定の取消を求めた訴訟で、原告の請求が認容された事案です。


 本件では、商標法3条1項3号における判断が参考になるかと思います。


  つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘 裁判長)は、

『2 取消事由1(本件商標が与那国島海底遺跡のみを想起させるとの判断の誤り)について

(1) 本件決定は,与那国島海底遺跡及びその周辺は,本件商標の登録査定時(平成16年(2004年)10月29日)には,海底遺跡観光やスキューバダイビングの名所として,この種分野に属する役務の取引者,需要者間に広く知られたものとなっていた(本件決定8頁6行〜9行)から,前記のとおりの図形と文字を有する「本件商標に接する者は,これよりは,全体として,海底遺跡観光やスキューバダイビングの名所として広く知られた沖縄県与那国島の海底で発見された海底遺跡(本件遺跡)を,文字と図形とをもって表したと容易に認識し,理解するもといわなければならない。」(同頁13行〜16行),したがって,本件商標を本件役務について使用するときには「これに接する者は,単に,当該役務の質(内容,役務の提供の場所)等を表示したものと認識,理解するにすぎず,自他役務の識別標識としては機能し得ない。」(同頁27行〜29行)としたが,原告は,本件商標は特定」の海底遺跡を想起させるものではないと主張するので,以下この点について検討する。


(2) 本件商標は,前記第3の1(1)に述べたとおり,下記のような形状を有しこれを子細にみれば,台形状矩形の右上部分を2段に階段状に切り取って成る図形(階段状図形)と,その階段状図形に向かって,両腕を広げた女性ダイバー図を黒塗りにシルエット風に表し,女性ダイバー図の下部に「海底遺跡」の漢字を配した構成より成るものである。

 ところで,階段状の構造物は,世界的に著名なピラミッドを想起すれば明らかなように,遺跡の形状としてきわめて一般的なものであるから,上記図柄が「女性ダイバーが海底にある遺跡(階段状の構造物)を見学している状態」を想起させるものであると理解することは容易であるものの,上記図柄に「海底遺跡」との漢字が配されているだけで「与那国島海底遺跡」ないし「沖縄海底遺跡」等の表示はなされていないのであるから,それ以上に,上記遺跡が与那国島海底遺跡であるとまで想起させることはできない。


(3) これに対し被告は,与那国島海底遺跡は「階段状構造物を特徴とする海底遺跡」として,少なくとも遺跡や旅行及びダイビングに興味を有する者には広く知られるようになっており,本件商標の階段状図形は,与那国島海底遺跡の特徴と酷似するものである旨主張する。

 確かに,証拠(乙1〜46。枝番を含む。以下同じ)によれば,与那国島海底遺跡は階段状の構造物を有する遺跡であり,1986年(昭和61年)に沖縄県八重山郡与那国島の南端,新川鼻沖の海底において発見されて以来,1995年(平成7年)ころからは,新聞(乙14〜27)や雑誌等(乙4〜11,28〜38)において,階段状の構造物を有する海底遺跡として紹介されており,現在は,ダイビングを行う場所として観光の対象とされていること,そのような与那国島海底遺跡における階段状の構造物の特徴は,本件商標における階段状図形とほぼ合致することが認められる。


 しかし,本件商標における階段状図形は,上記(1)のとおり,台形状矩形の右上部分を2段に階段状に切り取ったものにすぎず,それ以上の特徴を有するものではない。そして,海底遺跡それ自体ないし階段状の構造物を有する海底遺跡与那国島海底遺跡しかないのであれば「海底遺跡」との文字,ないし同文字と階段状図形の存在によって,本件商標が与那国島海底遺跡を特定して表示したものと解することができるかもしれないが,証拠(甲7〜11)。枝番を含む)によれば,階段状の構造物を有する海底遺跡としては与那国島海底遺跡のほかに,熱海海底遺跡アレクサンドリア海底遺跡が存在するのであり,しかも,これらにおける階段状の構造物の特徴は,本件商標の階段状図形の特徴と何ら矛盾するものではない。そうすると,階段状図形からなる本件商標が与那国島海底遺跡という特定の海底遺跡を表示するものと解することは困難といわざるを得ない。


 なお,証拠(乙39〜46)によれば,与那国島海底遺跡は,ダイビングを行う場所として一定程度著名であることがうかがわれ,階段状図形と「海底遺跡」の文字のほかに女性ダイバー図が組み合わされた結果,本件商標が与那国島海底遺跡を表示するに至ったものと見る余地もないわけではないが,海中に所在する遺跡の見学方法としてダイビングは容易に考えられるところであるから,女性ダイバー図の存在が直ちに与那国島海底遺跡のみを特定するものであるとはいえない。


(4) 以上によれば,本件商標が,全体として,与那国島海底遺跡を文字と図形とをもって表したと容易に認識,理解されると判断し,それに基づき法3条1項3号該当性を論じた本件決定の取消し部分は誤りというほかなく,他の理由を示していない本件にあっては,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすというべきであって,原告主張の取消事由1は理由がある。


 特許庁は,本件商標が与那国島海底遺跡のみを想起させるものではなく,熱海海底遺跡アレクサンドリア海底遺跡を含む海底遺跡一般を想起させるものであることを前提として,改めて本件登録異議の申立ての当否につき判断すべきである。


3 結論

 そうすると,原告主張のその余の取消事由について判断するまでもなく,本件決定の取消し部分は違法として取り消しを免れない。


 よって,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10043 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成19年07月12日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070717162331.pdf
●『平成19(行ケ)10013 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成19年07月12日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070717161114.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『米国特許レポート(4)MedImmune v. Genetech---ライセンシが特許無効を訴えることは可能か』http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070711/135774/
●『ITC、台湾LED製品で排除命令=米フィリップス・ルミレッズ〔BW〕』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070717-00000110-jij-biz