●昭和37(オ)871 審決取消請求 実用新案「液体燃料燃焼装置事件」

 本日は、『昭和37(オ)871 審決取消請求 実用新案権「液体燃料燃焼装置事件」昭和39年08月04日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/A68483D86BCB755A49256A85003124FC.pdf)について取上げます。


 本件は、実用新案の権利範囲は、「登録請求の範囲」の記載の文字のみに拘泥することなく、考案の性質や目的または説明書および添付図面全般の記載をも勘案して実質的に考案の要旨を認定すべきであり、出願当時すでに公知、公用にかかる考案を含む実用新案について、その権利範囲を確定するにあたつては、公知、公用の部分を除外して新規な考案の趣意を明らかにすべきと判示した最高裁判決です。


 現在では、出願当時すでに公知、公用技術を含む場合は、特許法104条の3の無効の抗弁が成立するのではないかと思います。



 つまり、最高裁は、


『                  主    文

     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         
                   理    由
 上告代理人寺本直吉の上告理由二について。

 旧実用新案法施行規則二条は、出願者に対し説明書の記載事項の一つとして、「登録請求ノ範囲」を記載せしめることとしているが、これは、出願者自らが当該考案の及ぶ範囲として主張するところを明らかならしめんとする趣旨に出たものである。


   従つて、実用新案権の効力の及ぶ範囲が問題となつた場合、右「登録請求ノ範囲」の記載をもつて判断の有力な資料となすべきことはいうまでない。しかし、出願者は、その登録請求範囲の項中往々考案の要旨ではなく、単にこれと関連するに過ぎないような事項を記載することがあり、また逆に考案の要旨と目すべき事項の記載を遺脱することもあるのは経験則の教えるところであるから、実用新案の権利範囲を確定するにあたつては、「登録請求ノ範囲」の記載の文字のみに拘泥することなく、すべからく、考案の性質、目的または説明書および添付図面全般の記載をも勘案して、実質的に考案の要旨を認定すべきである。


 また、出願当時すでに公知、公用にかかる考案を含む実用新案について、その権利範囲を確定するにあたつては、右公知、公用の部分を除外して新規な考案の趣意を明らかにすべきである(昭和三七年一二月七日第二小法廷判決、民集一六巻一二号二三二一頁参照)。


 いま本件についてこれをみるのに、被上告人の権利に属する登録実用新案(以下本件実用新案という。)たる「液体燃料燃焼装置」の説明書中「登録請求ノ範囲」の項には、廻転しない燃料排出口(6)および廻転しない案内皿(5)の記載がなく、また「実用新案ノ性質、作用及効果ノ要領」の項の説明に徴しても、燃料排出口(6)および案内皿(5)が廻転しないことをもつて考案の要旨とする旨の記載が見当らないとしても、右「実用新案ノ性質、作用及効果ノ要領」の項の中に「燃料は排出口(6)から案内皿(5)を伝つて受皿(4)上に滴下し」との記載があり、その図面にも廻転しない燃料排出口(6)および廻転しない案内皿(5)が表示されていることは、原判決の認定するところであり、また、本件実用新案は、強制送風により受皿(4)を高速廻転させ、その遠心力と風力とによつて液体燃料を霧化させることを目的とするものであるところ、廻転皿および噴油孔を廻転し、廻転皿に小孔を設けて下方から空気を導入する燃焼器の構造は、本件実用新案の出願前すでに特許第一〇六〇五七号により公知となつていたことは、記録に照らして明らかである。


 従つて、本件実用新案において、右燃料排出口(6)と案内皿(5)の存在は、燃料霧化にとつて欠くべからざる構造上の要件であつて、本件考案の要旨の一部をなすものであり、その新規性は、前記公知の部分を除外して特殊の考案と目すべき廻転しない燃料排出口(6)および廻転しない案内皿(5)にあるものと認めるのが相当である。


 されば、叙上と異なる趣旨に出た原審の所論判断は、本件実用新案の要旨を誤認した違法があるものというべく、論旨は理由あるに帰し、原判決は、これを破棄することとする。  』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 尚、本判決文中で引用されいてる最高裁事件は、7/7の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070707)でも取上げた『昭和36(オ)464 審決取消請求 特許権 行政訴訟「炭車トロの脱線防止装置事件」昭和37年12月07日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/DB40AC0D463606D949256A850031617C.pdf)であります。